日本建築学会北陸支部広報誌 Ah!47号

■研究・プロジェクト・技術紹介シリーズ(長野)

蔵の町並みを活かしたまちづくり

滝沢 健一
(須坂市まちづくり推進部まちづくり課)



写真1 登録建造物(銀座通り周辺)


写真2 旧小田切家住宅


写真3 信大での調査風景
(旧小田切家住宅)



写真4 蔵の町並みキャンパス授業風景
(旧上高井郡役所)



 須坂は名前のとおり坂の町です。上信越高原の山々からの豊富な水が扇状地の坂を下り、屋敷の裏川を流れる用水を利用して水車を掛け、その動力を使い、明治から昭和初期にかけて製糸産業で栄えました。この時代に建てられた蔵造りの建物が中心市街地に多く残っており、昭和63年に「日本ナショナルトラスト」、平成元年に「伝統的建造物群保存対策調査」を行い、歴史的建造物が347棟あるとの調査結果でありました。これらの調査結果を受け、市民の間にも歴史的建造物の保存運動が高まり、平成5年より街並み環境整備事業等を導入し、平成21年までに194件の建物等が修理・修景を行い、蔵造りの街並みを復活させてまいりました。

 しかし、平成22年に行った調査では、修理・修景事業を活用しなかった建物を中心に、以前調査した歴史的建物の約半数が取り壊されていることがわかりました。須坂市では、これらの調査結果を受け、このままでは須坂の財産(宝)でもある、歴史的建物がますます減少してしまうのではなかとの危機感から、須坂市歴史的建物維持保存活用検討委員会を組織し、歴史的建物の維持保存活用のための方策などについて検討を行ないました。検討委員会での検討結果を踏まえ、市では平成24年度に国の登録文化財に準じた「須坂市歴史的建造物の登録制度」を創出しました。この制度では、原則として建設後50年を経過した建造物で、
(1)須坂の歴史的景観に寄与しているもの
(2)造形の規範になっているもの
(3)再現することが容易でないもの
のいずれかに該当するものを所有者の同意を得た上で選定するものとしました。

 平成24年度、25年度で15件を登録し(写真1)、所有者の方には歴史的建物としての価値を再認識していただくとともに、保存に向けた意識の醸成を図り、同時に制定した「須坂市歴史的建造物を活かしたまちづくり事業補助金」の交付対象建物としました。この補助金は500万を限度に建造物の外観及び内部の修理・改修に要する設計監理費及び工事費の5分の3以内で補助を受けることができるものとしました。以前の補助金では、道路に面した部分の改修費についてのみ補助対象にしていましたが、今回創設した補助金の条件として、「当該歴史的建造物の全部又は一部について不特定多数の者が利用できるものであること。」とし、建物の外だけでなく、中へも人が入って活用する場合に内部の修理・改修についても補助を受けられるものとしました。歴史的建物の保存を進めるには活用していかないと残っていかないとの反省に立ち、活用を促すためにもこの補助金の活用を進めていくものであります。

 また、須坂の製糸産業の礎を築いた一人である小田切辰之助が、明治3年の須坂騒動で打ち壊しにあったものを再建した、旧小田切家住宅を平成24年度に取得し、平成26年より復元改修工事に着手いたしました(写真2)。この住宅は、主屋のほか、土蔵4棟、門、店、水車小屋などが残されており、平成25年度には須坂市指定文化財に指定されました。この建物調査には、平成18年度より須坂市の産学官民の取組みの一つとして、須坂の町を大学のキャンパスとして利用いただく取組みとして行っている「蔵の町並みキャンパス」事業の中で、歴史的町並みや建物の再生計画の調査の取組みを行っている、信州大学工学部の土本俊和教授、梅干野成央助教に調査委員会に参加いただき、建築学科の学生の皆さんには建物調査などの協力を行っていただきました(写真3・4)。2年後の復元改修工事の完成後には、製糸産業などの展示と併せ、須坂を訪れた方がゆっくりくつろげる施設としてまいりたいと考えております。

 これらの取組みなどにより、より一層の建物の活用を市民の皆様と行政が協力して取組み、街並みの保存活用による市街地のにぎわいの創出につなげてまいりたいと考えております。