日本建築学会北陸支部広報誌 Ah!48号

■北陸支部活動報告 −2014年度北陸支部大会(富山)特集−

北陸支部大会講演会の報告
「新体制における課題と対応−特に震災復興対応と低炭素都市・建築の実現に向けて」
吉野 博 建築学会長(東北大学総長特命教授)


秋月 有紀
(富山大学人間発達科学部 准教授)




写真1 第53代日本建築学会長の吉野博先生


写真2 講演会風景


写真3 引き続き懇親会で挨拶される吉野先生




 2013年5月30日の理事会において、日本建築学会第53代会長に吉野博先生(東北大学総長特命教授)が就任された。同年の建築雑誌6月号の会長就任の挨拶の中で、会長選挙に立候補された最大の理由として「東日本大震災の復興を推進するために、日本建築学会の先頭に立って貢献したい」と述べられており、就任2年目となる今年5〜7月の期間に各支部を訪問された際、新体制下での震災等への取組みと今後の課題について講演されてきたが、その最後の訪問地がこの北陸であった。
 北陸支部総会は研究発表会と日を連続して開催されており、会長訪問記念講演は総会と同日の2014年7月13日(日)に、富山県高岡市内にあるウイング・ウイング高岡内の高岡市生涯学習センター研修室502にて行われた。講演会の参加者は62名であった。
 吉野先生のご講演に配分された時間が90分間であったこともあり、先生から二部構成とする提案をいただき、それぞれに質疑応答を行うこととなった。
 第一部(14:30〜15:30)では、東日本大震災からの復興の現状と課題、および建築学会の取組みについて、沢山の貴重な写真を踏まえながら紹介された。避難者は2014年4月現在、約26.3万人(避難所にいる67人含む)と未だ多く、津波被害の大きな地域と原発被害の地域で復興の進捗が大きく異なる。建築学会では震災対応として特別調査委員会を立ち上げ、“岩手・宮城支援”、“福岡支援”、“首都直下等将来の災害への対策”の三グループに分かれて取り組んでいる。宮城県では10年計画の復興が行われているが、人手や建材の不足から中々進んでおらず、2020年の東京オリンピック開催にむけて東北復興の人手不足が加速することが危惧されている。避難者が生活する典型的な仮設住宅では、断熱不足・結露・換気不足・騒音・害虫侵入など様々な環境的課題がある。その一方で、天井高が通常より高い例、木材をふんだんに利用した例、住戸の出入口を対面型にして屋根を掛けてコミュニケーションを取りやすくした例、オートキャンプ場の自然の中でずっとこのまま住み続けたいと思わせる例など、良質な仮設住宅への新たな取り組み事例についても示された。福島県では、除染の進捗に対して住民帰還が中々進まない状況が報告された。これらの震災関連において、一般市民に対してどのように学会が関わっていくべきか等、約15分間質疑応答がなされた。
 第二部(15:45〜16:20)では、地球温暖化対策を含めた地球環境諸問題に関して、1990年から現在までの建築学会の取組みや、関連団体と共に2050年までにカーボンニュートラル化を目指した提言について紹介された。また、都市景観の質の向上といった社会的資産としての良好な建築・街並み形成支援や建築教育支援、学会の国際化や産官学連携・情報発信などの組織運営についても示された。これら報告内容および学会の今後の在り方等について、約25分間もの活発な質疑応答がなされた。
 質疑応答の後、聴衆全員が大きな拍手を持って吉野先生への感謝の意を表したが、吉野先生から「支部講演の中でも非常に活発な議論が行われたものとなった」と感想が述べられると、会場は再び大きな拍手に包まれた。最後の会長訪問地として相応しい盛り上がりを見せ、講演会は当初の終了時刻16:30を大幅に延長して成功裏に終了した。
 講演会終了後、同じ建物内にあるカジュアルダイニグBONにおいて、懇親会が行われた。講演会参加者の殆どが懇親会へ参加し(61名)、講演会での熱気がそのまま懇親会へと持ち込まれたようであり、まず北陸建築文化賞表彰式が行われ、すぐに乾杯を求める声が上がった。その後、北陸支部長および学会長の挨拶と続いたが、吉野先生は講演会同様に支部会員の交流が非常に活発で活気があると感じられたそうである。懇親会も予定の時間をオーバーするほどの盛り上がりを持って、19:15頃に閉会となった。