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Vol.49 - 2015/01/08
《from 長野支所》
中山間地域の未来学 

新 雄太/信州大学地域戦略センター 研究員

□時代が移りつつある
 ただなかにいる、そう実感します。私たちが年々疑いもなく歳を重ねていく先の生活にはさまざまな問題が待っているのだと信州に移住してよく知るようになりました。 人口が減り、高齢者が多く生きる国の未来は、ここ信州の小さな集落の多くで生じて久しく、すでに相対的な統計未来は絶対現場で前提となっています。 この“変化”を見過ごさない地元の熱はそこかしこでふつふつと沸いていて、再エネ、空き家、祭り、食、農、林など多様な取り組みが分野を横断するように確かに試みられています。 これらの身をもって俯瞰せざるを得ない眼は、現在の業務に資する部分が多いように感じています。

□中山間地域の未来学
 信州大学は、地(知)の拠点整備事業「信州アカデミア」の一環で、信州の未来を担う人材育成講座「地域戦略プロフェッショナル・ゼミ」を北信・中東信・南信の3地域で今年度よりスタートしました。 大学のもつ研究知と地域が培ってきた実践知を融合させた新たな試みで、教室に机を並べる従来の講座とは異なり、公民館や空き家など様々な場所でちょっと一風変わった講座を展開しています(写真1)。


写真1 空き家と土蔵を見学

私の担当している北信地域の「中山間地域の未来学T」は、学内外の受講生25名とともに約3ヶ月間の全15回の講座で、主に「やまざとの地域資源をどう生かすか」をテーマに上流と下流を橋渡しする人材を育成することを目的としています。 例えば、長野市七二会の平出地区のご協力のもと地域の宝物を探してまとめるフィールドワーク(写真2)や、郷土食である「おやき」づくりからパッケージデザインまでを行う「食とブランディング」の講座(写真3)、山にある資源だけしか使わない「やまざと遊び」の講座(写真4)など、多岐に渡ります。


写真2 平出地区の農家の家の大きさをカラダを使って表現


写真3 地元婦人会の方々に教わりながら郷土食「おやき」づくり実習


写真4 雪の日のソリ学

 現在、残すところ平成27年1月24日に開催予定の第15回「公開プレゼンテーション」のみとなりました(http://www.shinshu-u.ac.jp/institution/areas/cocpro/)。 長野市七二会地区をモデルとした事業案をグループごとに発表して頂くとともに、受講生それぞれの地域でのこれからの活動や取り組みも展示し、パネル・セッションを行う予定です。

□生きる教科書
 私の親世代は近い将来、すぐに高齢者と呼ばれるようになります。パソコンや携帯の使える電脳高齢者です。さらに生涯未婚の40-50代が増える世の中になるようです。 ネットで様々な出会いやオーダーができる時代に、果たしてワークショップやアナログなコミュニケーションは役に立つのでしょうか。 ツールや機械は驚くほど進化していますが、私たちの身体はさほど変わっていないとも実感できます。火起こしもすればパソコンもします。 余計に身体性を伴った場が価値を高めていく、この地方都市の山間部で何ができるでしょうか。 ある成果として得るには時間がかかりますが、地域の人々自身が主人公となって熱をもって向き合える地域づくり・まちづくりを泥臭く実践していきます。 めぐりめぐってやはり「人」であり、「教育」が鍵です。 それは例えば、職人の爪痕残る建築物のように、未来へのアーカイヴとして脈々と伝える生きる教科書をつくることなのだろうと考えています。



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