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Vol.50 - 2015/04/01
《from 長野支所》
2014年11月22日の長野県北部の地震による
白馬村の被害
 

松田昌洋/信州大学工学部建築学科 助教

□ 地震の概要
2014年11月22日22時08分頃、長野県北部を震源としたマグニチュード6.7、最大震度6弱の地震が発生した。この地震によって長野県の多くの木造建築物が被災し、震源に近い白馬村や小谷村で建物の倒壊や土砂崩れなどの大きな被害があった。ここでは、白馬村の木造建築物の被害を中心に現地調査の結果を報告する。

□ 白馬村の被害
白馬村の中でも被害が大きかったのは、村の南部に位置する堀之内地区や三日市場地区で、山と水田に囲まれた傾斜地に比較的古い在来軸組構法の木造住宅が建ち並ぶ地域である。この地域の被害は甚大で、大破・倒壊した建物が数多く見られた(写真1)。住宅の他に車庫や農業倉庫の被害も目立ち、耐震要素となる壁が全くないシャッターのみの入口部分からつぶれるようにねじれて倒壊していた。

写真1 堀之内地区の被害状況

その他の被害としては、地面の亀裂や崩壊、擁壁の崩壊などが発生しており、中には崩れた擁壁や塀が建物へ寄りかかってしまっている状況も見られた。また、灯油タンクの転倒も多く、二次災害の危険性があることから、何らかの転倒防止策が必要となる。
被災建物の建築年を調査すると1981年以前に建てられた住宅がこの地域には多く、その過半数が大破以上の大きな被害であることが明らかとなった。建築基準法は1981年、2000年と改正され、その耐震規定が強化されている。特に1981年の改正内容は新耐震基準と呼ばれており、それ以降の住宅は新耐震以前のものに比べると、今回の地震における被害が全体的に小さくなり、さらに2000年以降のものはいずれも軽微な被害であった。
一般的に新耐震基準以前の建物は、木造住宅の耐震性能を確保するために必要な壁(耐力壁)の量が不足しており、現在の技術的観点からすると耐震性能が不十分であることは否めない。また、柱と梁や土台、筋かい端部の接合部が緊結されていないことや、基礎が鉄筋コンクリートではないことも被害拡大の要因となっている。

□ 今後の復旧に向けて
現在の耐震基準で建てられた建物の被害が小さかったことは、今回のような大きな地震に対する耐震性能を確保することが可能であることを示唆しており、耐震設計の重要性をあらためて明確にしている。今後の復旧にあたっては以前の状況に戻すだけではなく、専門家による耐震診断、そして耐震補強によって耐震性能を向上させることが非常に大切である。また、建築基準法における耐震規定は最低限必要なものであり、あくまで大地震時の倒壊防止を目標としたものである。大きな地震に遭遇した場合でも建物の被害をできるだけ抑え、地震後もそれまで通りに使用し続けるために、十分に余裕を持った耐震性能を確保していくことが望まれる。



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