北陸の建築やまちに関する各種情報をお届けするウェブマガジン[AH!]



⇒ 一覧に戻る
Vol.51 - 2015/07/01
《from 長野支所》
読書発電所 施設見学 

岩井 一博/信州大学学術研究院(工学系) 助教

□事の発端
少し前の事である。長野県南木曽町にある読書発電所を見学した。事の発端はこうだ。大学祭で実施する「親子体験教室」のテーマを決めなければならない。→ 工学部らしいものづくりを体験させてあげたい。→ 身の回りにある不要なものを活用して何か作れないか。--- 等々の議論の末、最終的に水力発電機を作ることになった。そのため私を含めた数名の担当者が、その仕組みに関する知識を得るため、見学可能な読書発電所を訪ねることになったのである。

□福澤桃介
読書発電所はご存知の方も多いと思うが、”よみかき発電所”と読む。大正12年に大同電力によって建設され、完成時の出力は40,700キロワットで当時は最大規模を誇っていた。その後、水利権を継承した関西電力によって再開発され、117,100キロワットの規模にまで拡大された。現在、読書発電所の施設のうち、発電所本館、柿其水路橋(かきぞれすいろきょう)、桃介橋(ももすけばし)が国の重要文化財に指定されている。この発電所を建設したのは、福澤諭吉の娘婿の福澤桃介である。彼は、読書発電所を始めとする木曽川の電源開発に力を注ぎ、電気事業の活動により「電力王」の異名を取った。

□読書発電所本館(重要文化財)
読書発電所本館は、間口50m、奥行き20m、高さ18mの鉄筋コンクリート造である。外観はアールデコ調で、半円形の窓や屋上に突き出た明かり窓が特徴的である。内部は吹き抜けの大空間になっており、そこには発電機が4台設置されている。建物の裏手には、内径2.9mの鉄管が3条あり、112m上方の水槽から水が落ちて来る。この鉄管も建設当時の物で、今も現役で働いている。(写真1)


写真1 読書発電所本館 外観

□柿其水路橋(重要文化財)
上流にある読書ダムから取り込んだ水は、木曽の山中を刳り貫いた導水管を通り、下流の発電所に送られる。その総延長距離は8.5kmに及ぶ。途中、導水管は山中に対して直行する渓谷で分断されており、そのため水路橋を造って水を横断させる必要があった。それが柿其水路橋である。発電所と同時期に建設されており、全長が142.4mの鉄筋コンクリート造で、中央部の2連アーチ橋と両端部の桁橋から構成されている。また、水路の幅は8.8m、深さは5.5mで、この溝の中を水が悠然と流れていく。(写真2)


写真2 柿其水路橋 渓谷を横断する水路橋

□桃介橋(重要文化財)
 桃介橋は、読書発電所より2.2km上流の木曽川に架けられた木造吊橋である。福澤桃介により、大正11年に発電所の建設資材を運搬する目的で造られた。建設当時はトロッコが通っており、今でもそのレールの痕跡を見る事ができる。橋の全長は247mで、木製の吊橋としては有数の長さである。橋脚は3基あり、そのうちの中央の橋脚には河川敷に下りるための石段が設けられている。(写真3)


写真3 桃介橋 2本のレール跡が確認できる

□親子体験教室
 これらの施設を、関西電力の担当の方に半日に渡って説明して戴いた。 結局のところ、私は建物や橋に見入ってしまい発電機の仕組みについては無関心でいたが、同行した電気や機械を専門とする面々のお陰により、無事に「親子体験教室」を開催する事ができた。写真は、その時に親子で作ってもらった水力発電機である。不要になったCD、ペットボトル、フィルムケース、モーター、LEDライトを組み合わせている。帰る際に見せた子供達の笑顔は、今でも忘れることができない。(写真4)


写真4 水力発電機 回転すると赤色のライトが点灯する

(謝辞)  読書発電所の施設見学において、丁寧な説明をして戴いた関西電力株式会社木曽電力システムセンター運営係 古谷清司係長に心より御礼を申し上げます。



Copyright(C)1996- Architectural Institute of Japan/Hokuriku Branch. All Rights Reserved.