北陸の建築やまちに関する各種情報をお届けするウェブマガジン[AH!]



⇒ 一覧に戻る
Vol.54 - 2016/04/01
《from 福井支所》
近代化遺産を活かしたまちづくり 

若杉実/敦賀市教育委員会事務局長


□敦賀市のまちづくり
敦賀市は、日本海側の奥部に位置し、古代から、北陸と中京・京阪神をつなぎ、また対岸諸国との交通の要衝として発展してきた(写真1)。このことは、中心市街地に所在する越前国の一宮として位置づけられる北陸道の総鎮守氣比神宮の存在からもうかがうことができる。
また、7年後の平成34年度末には、北陸新幹線敦賀開業が実現することから、敦賀市は交通の要衝としての新たな発展の転機を迎えている。
このような中、現在、敦賀市が最も力を注いでいるのが、近代化遺産を活かしたまちづくりである。特に、北陸新幹線は高速旅客鉄道であり、その整備効果は観光面に強く影響を与えることから、今後のまちづくりの方向性は、北陸新幹線の整備効果である観光振興に寄与する受け皿づくりを行うことが強く求められている。
また、この観光振興に主眼を置く受け皿づくりにおいては、観光客が何を望んでいるのかといった視点が重要となる。観光といった日常の中の非日常において、観光客は、限られた時間を単に観光地の食や建造物のみを楽しむのではなく、当地が育んできたこれらの有形の事物の背景に流れるストーリーや人々の営みそのものを感じることを求めている。
このことから、敦賀市においては、オンリーワンの地域資源である近代化遺産を活かすことをまちづくりのテーマにすえて取組んでいるところである。


写真1 重点港湾敦賀港と市街地

□金ヶ崎周辺整備構想の策定
しかし、近代化遺産を活かすといったテーマ性は、生得的に敦賀市行政、市民の中にあったわけではない。むしろ、敦賀市民の市民性は、港まちの気質から新進気鋭を好み、歴史や文化を軽んじる傾向があったと言えるかもしれない。 このような市民性の中、近代化遺産を活かすことに、大きくまちづくりの方針の舵を切ったきっかけは、平成24年5月に策定した金ヶ崎周辺整備構想であった。 金ヶ崎周辺整備構想とは、赤レンガ倉庫や旧敦賀港線、ランプ小屋等の鉄道や港の敦賀の近代化遺産が集積する金ヶ崎周辺地区において、北陸新幹線敦賀開業を含めた長期的な将来を見すえ、一体的な整備を展望する構想である。この策定にあっては、庁内での検討から、市民ワークショップの開催、そして学識経験者を交えた策定委員会での議論を経て、足かけ2年の歳月をかけて、丁寧に市民の意見集約に努めたところである。 この周辺整備構想は、「敦賀ノスタルジアム」を全体コンセプトとしているが、この「ノスタルジアム」とは、郷愁を意味するノスタルジーと博物館を意味するミュージアムを組み合わせた造語であり、鉄道と港の近代化遺産が集積する金ヶ崎周辺を国際港として最も隆盛を極めた明治後期から昭和初期の郷愁を体感することができる、周辺地区全体を博物館として見立て、整備するというコンセプトである(図1)。


図1 金ヶ崎周辺整備構想将来イメージ

□敦賀赤レンガ倉庫の整備
敦賀赤レンガ倉庫は、金ヶ崎周辺整備構想における先導プロジェクトとして位置づけられ、周辺整備構想の策定にご尽力いただいた学識経験者や組積造の専門家の知見を取り入れながら、2年半の期間をかけて整備を進めたところである(写真2)。
赤レンガ倉庫が誕生して110周年の記念年となる平成27年10月14日に、構想策定の中で、最も市民からの要望が高かった、飲食機能やミュージアム機能の導入を図り、飲食店3店舗が入居するレストラン館、そして国内最大級の敦賀の鉄道と港の歴史を体感することができるジオラマ館としてリニューアルオープンした(写真3)。
北陸新幹線敦賀開業に向けた近代化遺産を活かしたまちづくりは緒に就いたばかりであるが、敦賀赤レンガ倉庫の整備は、超長期的な展望の中で、学識経験者等の助力を得ながら、市民の意見を集約した上で、新しいまちづくりに舵を切るエポックメイキングとなる事象であるとともに、これまで歴史や文化、そしてこれから生じる地域の魅力に重きを置いていなかった敦賀市民の市民性をも変革する、大きな可能性を秘めていると期待している。


写真2 敦賀赤レンガ倉庫(外観)


写真3 北棟「ジオラマ館」

?金ヶ崎周辺整備構想策定及び敦賀赤レンガ倉庫整備の経緯
 平成23年3〜5月
    金ヶ崎周辺市民ワークショップの開催
 平成23年8月〜平成24年5月
    金ヶ崎周辺整備構想策定委員会の開催及び金ヶ崎周辺整備構想策定
 平成24年10月〜 平成25年3月
    金ヶ崎周辺デザインガイドライン策定委員会開催及び
    金ヶ崎周辺デザインガイドライン策定
 平成25年4〜8月
    赤レンガ倉庫整備計画策定専門委員会工法検討ワーキンググループ開催及び
    耐震補強等工法の決定
 平成25年9月〜平成26年3月   
    赤レンガ倉庫実施設計業務及び赤レンガ倉庫整備計画策定
 平成26年4月〜平成27年10月
    敦賀赤レンガ倉庫竣工
 平成27年10月14日
    敦賀赤レンガ倉庫リニューアルオープン



Copyright(C)1996- Architectural Institute of Japan/Hokuriku Branch. All Rights Reserved.