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Vol.59 - 2017/07/06
《from 新潟支所》
雁木による手づくりのまちづくりの国際的展開 

棒田恵/新潟大学工学部建設学科 助教


□協働の手づくりの町づくりの概要
新潟大学工学部建設学科では、長岡市栃尾表町で住民と大学が協働する雁木による手づくりのまちづくりを平成9年より継続的に行っています。雁木による手づくりのまちづくりは、表町区民・学生・専門家・まちづくり団体・地域企業が協働で雁木を少しずつ自力建設する特徴ある活動です。建設学科の3年生と住民がチームをつくり、コンセプトの立案、住民との検討、デザインの生成、空間デザイン、プレゼンテーション、材料の選定、ディテールの工夫、建設までを一貫して経験しながらおこなっています。平成28年度で20年を迎え、計18棟の雁木と、まちづくり拠点である「雁木の駅」が表町に建設され、毎年歯抜けになった雁木をつくり足し、雁木のまち並みを保全しています(写真1)。


写真1 長岡市栃尾表町の雁木のまち並み

□平成28年度の活動
平成28年度は本活動の20年目の年であり、毎年参加している、新潟大学・新潟工業高等学校の学生・生徒に加えて、新津工業高等学校、職業能力開発総合大学校(東京・小平)、大連理工大学(中華人民共和国・大連)の学生・生徒の参加を得て、国際的にも広がった雁木づくりの活動となりました。
平成28年度は、4月から6月にかけて住民と学生・生徒とがチームをつくり、雁木デザインの検討、7月末に雁木デザインの中間発表を行いました(写真2)。9月末の最終プレゼンテーションには、日中の生徒・学生が、模型、パネル、スライドを用いてプレゼンテーションをしました。発表後、住民、専門家、新潟大学の卒業生からコンセプト、使い方、構法などに関して質疑が行われました(写真3)。その後、模型とパネルは、2週間の雁木の駅で展示され、住民による投票が行われ、住民投票の結果を受け、10月に新潟大学・まちづくり委員会委員長・表町区長・長岡市栃尾支所建設課による検討の結果、大連理工大学の雁木デザインが採用されました。11月から2月にかけて大連理工大学の雁木デザインの実現に向けて、設計変更・実施設計・見積もり・部材の発注を行い、3月から4月にかけて建設しました。2月には、この活動で初めてとなる長岡市長による表彰式が開催されました。
大連理工大学の雁木は、駐車場と車庫で異なる高さの屋根とし、雁木前面と背面の桁の高さの違いをアーチの梁によってつなぎ、また、欄間を栃尾の手まりと上杉謙信の毘をモチーフにしてデザインしています。雁木の部材寸法の調整、閉鎖的な欄間、施工方法の検討、建設コスト削減などに関して、デザインコンセプトを損なわないように、大連理工大学の学生と図面データのやりとり、中国での打合せなどを丁寧に行い、建設されることになりました。完成した雁木は、日中の意匠デザインを融合した雁木であり、また施主の思いや20年目の国際的な展開の状況を反映した雁木の景観を新たにつくり出しています(写真4)。


写真2 旧小澤家住宅周辺の歴史的町並みを考える会の役員会の様子


写真3 9月に行われた住民へのプレゼンテーション


写真4 中国大連理工大学による「毘の雁木」

□今後の展開
雁木による手づくりのまちづくりを開始してから20年が経過し、高齢化に伴う活動体の変化など立ち上げた当初と状況が異なってきている一方で、毎年、住民と協働した実際の住環境形成、国際的な活動の展開、まちづくりを経験した卒業生の継続的な活動参加が行われる特徴的な活動になっています。私は、このまちづくりが育んできた住民・卒業生との関係、国際的な協働体制等を活かしながら、次世代のまちづくり目指し、今後も長岡市栃尾と関わりながら活動していきたいと考えています。




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