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Vol.61 - 2018/01/09
《from 福井支所》
限界集落での集落再生・活性化活動 

多米淑人/福井工業大学工学部建築土木工学科 教授


□活動概要
福井県勝山市北谷町小原は石川県境の山間にある集落である。集落内は段々の石垣の上にたつ民家や小道を流れる小川、多くの草花など原風景が残る自然豊かな土地である。当集落は明治期において90戸、400人ほどの人々が暮らしていたが、38豪雪や56豪雪などを契機として、年々人口は減り続け、近年の平成18年豪雪によって多くの空き家が破損、倒壊し、現在は15余戸の住宅が残るものの、住民は2戸2人(集落人口は1人)という廃村の危機が迫った限界集落である。
この小原集落の再生・活性化を目指し、(旧)地元民と大工棟梁、福井工業大学建築土木工学科の連携事業として平成18年度に始まった小原ECOプロジェクトは、平成29年度で12年目を迎え、7棟の民家修復と休憩所1棟の建設、小原ECOプロジェクトが主催するイベント他に、学生が企画・運営したイベントも行っている。
期間中は修復が完了した民家に泊まり込んで、活動を行なうことから合宿生活による規則正しい生活や挨拶などの礼儀作法、当番制の食事・洗濯係、毎晩行なうミーティングなどによって総合的な人間力も育んでいる。
小原集落は集落人口が1人という廃村の危機が迫る限界集落ではあるものの、学生たちによる活動が、小原集落の資源・資産を活用し、集落の再生・活性化の一助になっていると考えている。さらに、このような活動は学生教育にとっても有意義であり、今後も継続していく予定である。


写真1 K家住宅(修復前)


写真1 K家住宅(修復後)

□古民家修復活動
これまでの12年間で修復した古民家は7棟(内1棟は継続中)で、この活動に参加した学生は述べ190名である。これらの活動によって、伝統的な民家の平面や構造だけでなく、細部の納まりなども直接観て、触れて体感している。また、大工棟梁らから修復に際しての材料の細工や加工などを指導して頂き、大学内の講義だけでは学べない生の知識を吸収している。
これまでに修復した古民家は、小原ECOプロジェクト主催のイベント時の宿泊先や休憩場所として活用している。

写真3 作業に励む学生たち(屋根葺替)


写真4 作業に励む学生たち(外壁張り)

写真5 作業に励む学生たち(大引のレベル合わせ)

□古民家deカフェ
平成26年度からは、平成25年度に修復が完了したD家住宅を活用して、「古民家deカフェ」をお盆明けから作業期間最終日前日まで運営している。このカフェは、市民の方々からの修復現場見学の希望や集落散策時の休憩場所が欲しいとの要望に応じるものであり、また、これまでの小原集落の活性化活動の紹介や周知を図るものである。運営は学生と教員が行ない、来客者へは修復状況の説明や民家の建築形式などの解説を行なった。
これまでの4年間で述べ240名余の来客者があり、「田舎の実家を思い出す。」や「古民家修復活動を行なっていることは知っていたが、小原にはきたことがない。カフェを開店していると知り訪れた。」、「古材(構造材や床板)と新材(壁板)のコントラストが美しい。」などの好意的な意見を頂き、カフェの運営は非常に好評である。また、当活動の意義や集落の現状などを直接、周知することができたことも大きな成果であった。

□受賞歴
これまでの小原ECOプロジェクトの活動によって、集落人口が1人であることは変わらないものの、交流人口は1,000人を超すようになっている。このような集落存続のための活動が評価され、下記の賞を受賞している。
・平成26年度:第10回 JTB交流文化賞 最優秀賞
・平成27年度:ふるさとづくり大賞 大賞(内閣総理大臣賞)
・平成28年度:第7回地域再生大賞 東海・北陸地区のブロック賞
・平成29年度:福井元気ふるさとづくり活動賞 最優秀賞






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