1995年度北陸建築文化賞受賞(作品)01

 珠洲市営斎場

 樺キ村建築事務所

   
    斎場ファサード 斎場ファサード夕景

斎場について
我々人間は、生まれてから死ぬまでに、いったい幾つの建物を使うのだろうか?
病院で生まれ、住宅に住まい、学校や会社へ通い、そして最後に斎場へ。
斎場の設計は、その市なり街に生まれ育って住んでいる全ての人が使う建物であるだけに難しい仕事である。

斎場は、本来の主役である『故人』と、実際に使う『遺族』の2つの主役のための建物であり、 それは即ち『死』と『生』で言い換えることができる。
次々建設されている新しい斎場のイメージはどうだろう。
床は花崗岩の本磨きで、壁は大理石か花崗岩・・・
そんな美術館かホテルのようなしつらえが、最後の瞬間に本当にふさわしいのだろうか ?

『自分たちはどんな所で燃やされたいのか ?』 『死とは ?』
『無宗教だけど宗教的な建物とは ?』 『天に昇る、地に還る』
『息苦しい人工照明だけの部屋で最後のお別れをするのは嫌だ』

そう、ストックホルムにあるアスプルンドの森の斎場・・・
あれは僕たちが望む斎場のお手本だった。
門を入ると、さーっと緑が広がり左手に白い斎場が・・・
ずっと奥に墓地が、右手には緑豊かな丘が広がる、そのシチュエーションだけで
遺族の悲しみも少しは紛れそうな気がする。
アメリカ映画のワンシーンにもある・・・
大きな樹の茂る芝生の中に穴が掘ってあり棺を埋める前にみんなで
最後のお祈りをしている。

人生最後の場所は、『死』のイメージを覆い隠すただ豪華な建築物ではなく
本来は、自然に包まれていく処であったはずで、昔は『野辺の送り』と呼ばれていた。
我々にとって斎場の設計テーマとして『自然』がふさわしいようであった。
『生』と『死』は自然の摂理の一つであり、自然を生かしてこそ、いつかは訪れる『死』を考え『生』を実感できる建物が造れるのではないだろうか。
太陽が昇る『生』を感じさせる東の方角からアプローチし、樹々の中の告別ホールで最後のお別れをし、日が沈む方角へと棺は運ばれる。
炉前ホールは、輝く星とその軌跡が最後の時間と空間を表し、棺が炉に送り込まれたときの悲しみが広がる自然の景色で少しは和らぐよう、大きなため池を最後にみせることにした。

告別室 告別室夕景
ピロティ 炉前室