1999年度北陸建築文化賞受賞(作品)01

 いまどきの田舎屋

 Strayt Sheep/長村寛行

   
   
  『田圃を二枚潰して造成しました』と言われて見せてもらった敷地に驚いてしまいました。運動会でもできそうな、青々と稲が植わった田圃に囲われて拡がる500坪という敷地なのです。次に、設計条件を聞いてもう一度驚いてしまいます。
『三人娘がいるんだけど、そのうちのどれかが珠洲に帰って来たくなる家を…』。そんなこと設計者が解決できるはずもなく、しかし簡単に「できません」と断るのも癪で…というわけで「頑張ってみます」と返事をしたのはいいけれど…。
公共施設ではあるまいにこういう贅沢な敷地を与えられて設計者は何を考えるべきなのか。住宅を設計するに当たって敷地条件は厳しいのが通例で、変形だったり、すごく狭かったり、隣地に建つ住宅との関係が難しかったり、道路と段差があったり、もっとすごいと敷地内に段差があったり…。それを逆手に取り敷地をうまく活かした住宅を考えていくのも設計の楽しみであったわけだけれど、そのどれにも該当しないということは、敷地条件が良すぎるということで、言い訳しようがない…。言い換えれば『あなたの実力を全て出していいものを創って下さい』ってことでしょうか。
この住宅は設計者にとって、「敷地の制約が少ない」ということは、こんなにも大変なことだったのかと初めて気付かされた仕事でした。これまで『もう少し広い敷地があれば…』なんて思っていたのですが…。
さて、この田舎の広大な敷地を活かすには…をテーマに考えてみましょう。敷地条件が厳しいという制約は「都市型の住宅」にありがちです。この住宅は都市型住宅と正反対の位置付けになるのは明らかなので、田舎の住宅の在り方について考えてみればいいわけです。都市部で住まいを設計するときは、土地の価格の高さゆえに狭い面積をどう効率良く使うかを工夫し、「無駄」を如何に空間処理で解決するかに力を注ぎます。
しかし、今回のような田舎の住宅では、その「無駄」こそが大切なキーワードになりそうです。