1999年度北陸建築文化賞受賞(業績)02

 信州における伝統的建造物の
 
保存技術に関する調査と記録

 信州伝統的建造物保存技術研究会

   
    棟柱第1号表紙 棟柱第2号表紙

 本活動は、伝統的な建造物を保存する技術を調査した上で、その調査結果を報告書として完成させることを目的としている。保存技術に関する実態調査はこれまで個別になされてきたが、ここでは信州という地域に根ざした技術を対象に体系的に纏めている。
 これまで屋根・壁・基礎の体系として茅葺・塗り壁・石積みの全貌調査を「棟柱」1号とし、次年度に茅葺きをより詳細に探査して2号を纏めた。「萱葺き」では産地から実際の工法、架構の特質と分布までを明らかにし、「塗り壁」と「石積み」では個別の工法を詳細に記録した。また、全編に渡って、実際のヒアリング内容を紹介している。
 調査の方法は、保存技術を実践する職人や建造物の所有者から聞き取り、実際に現場を取材し、既往の研究内容と照合することによって行われている。信州伝統的建造物保存技術研究会(以下は信伝研)には、保存技術の各分野で活躍する多くの職人や伝統的建造物の所有者がおり、このネットワークを生かした調査が可能となっている。毎月行われる編集会議には、全県各地からの情報が寄せられ、そこから適任者が選定されている。
 聞き取りによって得られる情報は、時には学説に沿わない場合もあるが、より細かな継承の過程を明らかにするため、個々の事象を丹念に照合・検証して実状を把握する事に主眼をおいている。そのため、職人一人々々の言葉を大切に記録することに努めている。また現地の取材には、実際に完成した建造物のみならず、個別の材料の産地、作業場、建設現場の調査を重ね、その過程を網羅している。
 こうして作成された報告書は、全国の各研究・行政機関、図書館、研究者・関係技術者・信伝研会員に配布している。本調査は、今後もより多方面に進められ、伝統技術全般を網羅する予定であるが、各方面からの賞賛と新たな情報の提供を得ることができている。
 これらの活動は、急速に失われようとしている伝統技術の記録に留まらず、伝統的建造物自体と技術者双方の継承への啓蒙に繋がるものであり、北陸建築文化賞の候補足り得るものと確信し、推薦するものである。

棟柱第3号表紙 棟柱第4号表紙
棟柱第5号表紙