編集方針


『建築雑誌』2008年―2009年 編集方針
編集委員会委員長 五十嵐太郎

 

――今期の『建築雑誌』では、こういうことをやってみたい、という抱負はありますか?

 まずは変えること、記憶に残ることが目的です。表紙などのデザインは松田行正さんにお願いして、海外雑誌のような新しい雰囲気になったと思います。自分で書きたいことは他の媒体でもできるので、むしろ、学会誌ならではの建築の専門を横断するような特集を組みたいと考えています。
 まさに「雑」誌ですね。考えてみると、「建築」というジャンル自体がいろいろな技術をたばねる雑誌的な志向をもっている。
 「Architecture」の語源もそうですね。
 また1月号の「建築雑誌は必要か?」や「建築学会作品賞を問う」のように、啓蒙的に「これを知りなさい」というよりも、論争となる問題を提示し、「テーマ自体を疑いながらやる」のは通奏低音になるかもしれません。
 今後も、ポスドク問題、環境は建築の光明たりえるか、などの特集を予定しています。そのためか、毎回、五十嵐委員会は異常に時間がかかります。これまでにも二期、編集委員会に所属したことがありますが、それと比べても、やはり長い。


――「変えたい」というのは、今の『建築雑誌』が良くないと感じているからですか。

  まだまだ掘り起こせる可能性があると思うからです。ただ、3万5千部を発行する『建築雑誌』は、部数的としてはもはや専門誌のスケールを超えているのに、同時に専門誌であれ、という引き裂かれた要求がそもそも課せられていますね。


――3万5千部というヴォリュームに対して、何か戦略はありますか。

 もちろん、読みやすくする工夫はいろいろ試みます。元『日経アーキテクチュア』の編集長だった編集顧問の細野透さんの協力で、レイアウトを変えたり、小見出しを入れたり、ライターを積極的に導入して、インタビューの文面を読みやすくします。
 あと、これまでの大特集主義を解体して、第一、第二特集をつくることで、読むとっかかりを増やします。今回は編集委員の公募も初めて行いました。
 けれども、全会員が全ページを熟読するのが目標だとすれば、基本的には勝ち目がない戦いですよね。『建築雑誌』に限定せず、いわゆる学会誌の起源を考えると、本来、会員同士の情報交換が目的だから、ニューズレターみたいなものから始まっている。現在、後にある情報ページの方が先で、前にある特集のほうがおまけなのです。
 しかし、どんな組織もそうでしょうが、会員数があるスケールを超えたところで、さまざまな専門をもつ全会員の関心を常にひきつけるのは難しい。だから、できるだけ会員の声を反映しつつも、どうやっても全員が読むわけではないし、限られた任期のなかで、これがいいと信じてやるしかない。


――学会外部の人間にフィードバックされることはないですか。

 すぐ外部にフィードバックすることを求めるならば、社会ネタに関わるアグレッシブなテーマが必要ですね。建築の内輪話だけでは、外部の人は読まない。ただ、『建築雑誌』はそもそも書店売りをしないメディアだから、もともと読み手が限定されている。そのおかげで、教育に関するトピックなど、他の建築雑誌ではできない特集も可能になります。特集の良し悪しが売り上げによって評価されることもない。
 だから、ぶれずに制作できる長所と時代に鈍感でありえるという短所の両方があります。現在、次々と建築雑誌が減っている状況で、もっとも歴史のある『建築雑誌』こそがもっとも先鋭的であるような内容も試みたいです。