2002.7.15 環境心理尺度ファイルWG 小島隆矢

ポートフォリオ手法群

 

はじめに

 

 我々の分野(環境心理およびその周辺分野)には、調査項目は定められていないが、調査および集計の方法、結果の出力と読み方は定められている、という手法がかなりある。どこまでを本WGで扱うかなども考えたいが、とりあえずそうした手法の代表選手として、ポートフォリオ手法群についてレビューした。

 

ポートフォリオ手法群とは

 

 「手法群」というのは、小島が勝手にそう呼んでいるだけ。

評価項目アセスメント(優先順位づけ等)のため、何らかの軸を縦横にとり、項目を布置した図を使う手法の総称。(類似の手法がいくつもあるし、小島もいくつか考案した。)

 

1.ベネフィットポートフォリオ(CSポートフォリオ)

 

 ベネフィット・ポートフォリオ法とは、新製品開発や設計改善の手法としてカリフォルニア大学のJ.H.Myersが考案したベネフィット構造分析と、企業の商品戦略を検討する手法としてアメリカのボストン・コンサルティンググループが考案したプロダクト・ポートフォリオ・マネジメント手法をもとに、()竹中工務店技術研究所の宇治川、武藤らが環境改善手法として考案したものである。

 ベネフィット構造分析では、ある製品のユーザーの感じるベネフィット(効用)を表す項目について重要度(または必要度)と満足度(または充足度)を多段階尺度で調べる。そして各項目の重要度と満足度の平均値の差を求め、その大小によって新製品や設計の仕様を検討するというものである。 プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント手法のポートフォリオとは「書類入れ」を意味し、ある企業の様々な製品が総合的に最善となるように管理することを目的とする。製品をそれ自体の魅力(市場の成長性)と自社の強さ(市場占有度)の2つの側面から評価し、守る製品、攻める製品、育てる製品、撤退する製品を定めて管理するものである。

 ベネフィット・ポートフォリオ法では、この上記2手法の考え方を取り入れ、以下のようにして全体的な改善のための改善点の優先度を検討する。まず、評価対象を構成する要素や技術(改善点の候補)を選び、横軸に満足度、縦軸に必要度や重要度をとって各要素を布置する。重要で満足度が高いという要素は評価対象のセールスポイント、重要だが満足度が低いのは改善が要求される点である。重要度が低くて満足度が高いのは、そのまま放置しても、場合によっては仕様を下げてもよい。それから重要でなくて満足度も低い要素は無視してもよい。

 本手法は、地下執務空間の環境を順次改善していく生活実験などに用いられており、元来は環境改善のために考案されたものであるが、例えば商品やシステムの改善などにも準用可能であると思われ、今後は幅広い分野で応用されていくことが期待される。

(以上、「労働の科学」誌上のキーワード解説に寄稿した文章)

(より詳しくは→ 日本建築学会編:よりよい環境創造のための 環境心理調査手法入門,技報堂)

 

補足:

・マーケティングなどの分野では「CSポートフォリオ」の名で使われている。

・「商品企画7つ道具」などにも取り上げられている。(7つのうちの1つの柱、ではない)

・重要度を、総合評価との(偏)相関係数で定義するというタワケたことが流行っているが・・・

 

2.品質分類ポートフォリオ

 

・小島が考案。まだ未公開。

・「当たり前品質と魅力的品質」に着目。

 

「当たり前品質と魅力的品質」とは

 カメラの機能を例にすると、露出やピントを自動で調節してくれることは、現在においてはもはや当たり前のことであって、それを実現している商品の評価を特に上げるものではない。しかし、手ぶれまで自動で補正してくれるとなると、その機能に魅力を感じて購買を決定する人が出てくるであろう。

 狩野らは,このような問題を説明するため、商品の品質要素は、物理的充足-不充足と心理的満足-不満足の2元的に捉えるべきであるとし、以下の分類を提唱した。

1) 当たり前品質:充足されないと不満だが充足されても特にうれしくない項目

2)一元的品質:充足されないと不満,充足されるとうれしい項目

3)魅力的品質:充足されなくても不満はないが充足されるとうれしい項目

4)無関心品質:充足されてもされなくても,不満もうれしくもない項目

5)逆評価品質:充足されると逆に評価を下げる項目

 新しい品質要素が画期的な新商品とともに市場に登場し、普及するまでの変遷を考えてみると、まず、当初は新しい機能に飛びつく人(魅力的)、拒否する人(逆評価)、どちらでもない人(無関心)が混在する。その品質が多くの人に支持され、市場に定着すると、今度は充足されないと不満を感じるようになる(一元的)。さらに完全に普及すると、ありがたみがなくなっていく(当たり前)。逆に、普及・定着していた品質要素が市場から消えていく過程は、

当たり前 → 一元的 → 魅力的→ 無関心・逆評価

の順をたどる。

また、一般には、当たり前品質や一元的品質を充足した後にどんな魅力的品質を付加するかを考えるべきである。

 

品質分類のための調査方法

 ある評価項目が、その人にとってどの品質に相当するかを調べるためには、各項目について、以下のような選択肢による意識調査を実施する。その回答から、逆評価を除く4分類のどれに該当するかが分かる。

・もし、悪い状態であったら、どう思うか:気にならない/絶対いやだ

・もし、よい状態であったら、どう思うか:喜びや満足を感じる/不満がなくなるだけ

 調査結果を、評価項目×品質分類(上記2つの設問の組み合わせからなる4カテゴリー)のクロス集計表として対応分析を行うと、確かに、「当たり前 - 一元的 - 魅力的 - 無関心」の一次元に並ぶ。この軸は、意識の中で期待されている普及度というべきか・・・

 

品質分類ポートフォリオとは

 対応分析の項目のスコア(あるいは、当たり前を4点、一元的を3点、魅力的を2点、無関心を1点として計算される各項目の回答者平均点)を縦軸、各項目の評価(満足度や良い悪い)の回答者平均点を横軸にとって、評価項目をプロットしてみる。ある2つの院生室の結果を例示する。

 縦軸で上方の項目ほど、良い状態であることが「当たり前」であることを示す。このような右上がりの傾向は自然であり、意識の中での普及度と、現実の達成度が概ね一致していることを示している。

 ところが、この院生室の場合は、

・達成されているのが当たり前であるにもかかわらず評価が低い項目(左上)

・そうそう達成されなくても仕方がないと思えるが、ここでは評価が高い項目(右下)

が、かなりある。前者は改善の優先順位が高い項目、後者は現状の長所であり、リニューアルなどによって失われないようにしたい項目といえる。

 

補足:

・横軸を客観データ(普及率、性能水準など)に出来れば、より面白い。

・他の方法同様、特定のユーザー、特定の評価対象に対する、小規模なデータでも意義がある。

 

3.美点欠点ポートフォリオ

 

・小島が考案。

・複数選択式あるいは自由記述で、対象とする空間・地域・商品などの「よいところ」「悪いところ」の回答を求める。(自由記述の場合は適宜カテゴライズした後、)縦横の軸に「よいところ」「悪いところ」の指摘頻度をとり、項目をプロットする。

・以下は、ある2つの住工混在地域の調査結果(複数選択式による)。それぞれの地域の美点、欠点、賛否が分かれる点などがよく分かる。

 

4.価値ポートフォリオ

 

・「定義法」による調査結果のまとめ方として、林氏(資生堂)が考案?

・現状を定義:「あなたが現在使っている○○とは?」

→(   )で、(   )で、(   )であるものです。 (自由記述で定義させる)

・理想を定義:「あなたにとって理想の○○とは?」

→(   )で、(   )で、(   )であるものです。 (自由記述で定義させる)

・現状と理想を縦横の軸にとって、記述度数で項目をプロットする。

 

5.潜在不満ポートフォリオ

 

・小島が10年くらい前の大会で報告した。(まだ名前は付けていなかった)

・自由記述で不満をあげてもらったときの指摘頻度を縦軸、

・通常の方法で項目を並べて段階評価させるという方法で調べた不満度の平均点を横軸とする。

・右下にある項目は、聞かれなければ意識に上りにくいが、評価させると不満が高い項目(潜在的不満項目)

 

6.平均-分散プロット

 

・縦横の軸に平均と分散をとり、項目をプロットすることもよく行われる。

・若林さんの発表の中で類似の手法が紹介されます。

CSポートフォリオのどちらかの軸を平均でなく分散とする方法が、どこかの特許だとか(?)