意見公募

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環境性能規定とアカデミック・スタンダードと問われて

MessageType: 意見
Username: 古瀬敏
UserAff: 建設省建築研究所
UserEmail:
日付: 99/08/04
時刻: 11:46:47
リモート名: 133.9.4.208

Comment

1)学会規格・標準は法的規制とはまったく無関係である。こういうとおかしいと言われる方もおられようが、しかし、そう考えるべきである。英語ではCodes &Standardsというが、法規はいうなれば義務規制、一方の規格・標準はいわばガイダンスにすぎない。法規制は、これ以下は社会合意として認められないということであり、標準はそろばんその他の要因を全般に考慮するに当たっての物差し、目安である。たまたま、ある水準を法規制で引用して導入することはあるが、それは唯一であるよりは同等性の保証としてであることが少なくない。 2)また、法規制の例として住宅の性能表示制度が言及されているが、この制度は義務ではない。趣旨説明ではあたかも義務的規制と理解されているように読みとれるが、そうではない。結果としてデファクトになるかも知れず、とくに中古住宅流通ではそうなる可能性が高いが、義務ではない(この自由選択制である点をうまくとらえて住宅金融公庫融資の基準金利に「バリアフリータイプ」を押し込んだのが、筆者である。公庫融資利用が義務であれば、より高水準の要求はとても無理であろう)。そもそも義務的に法規制ができるのは、いうなれば安全・衛生・バリアフリー(これについてはまだ社会合意が得られていないが)・持続可能性(ただしこれは環境行政―炭素税など)に限られるのは一般的に合意されているのであり、それ以外は「規制」対象ではない。ただし、筆者は現在の建築法規で規定されている「最低基準」が内容・水準とも現状のままでいいと言っているのではない。 3)建築学会がほんとうのStandardsをつくりうるかどうかについて、筆者は大いなる疑問を持っている。現在、建築学会は、いうなれば学術・芸術・技術の三位一体を主張している。しかし、建築基準法改正審議にあたって出された学会としての見解を省みると、上記の立場(職能)の違いによって思惑が異なっていて、結局まとまった見解が出せなかったのは明白である。また、前述した住宅性能表示に関して、学者・研究者の発想を主体とした最初の案が素人にはわかりにくい自己満足的なものであったことは、学術の立場にいる限りは社会的な意味づけを理解していない(する必要がないと考えている)ことの証拠であろう。これは関係者の一人としての自省でもある。翻って海の向こうでStandardsがどういう形でつくられているかを見ると、それらは学会ではなく実務者団体によって、あるいは標準組織で、異なった利害を持った関係者の調整を経て作成されている。この調整というのは、有り体にいえば現実を踏まえた妥協以外のなにものでもない。学問としての厳密さを最優先するきらいのある「学術」の立場、さまざまな規制で手を縛られることをなにより嫌う「芸術」の立場、実務と経済性を無視することのできない「技術」の立場、すべて建築をつくる側にいるこの三者の調整をすることすら困難と考えられる建築学会が、自分で「規制を念頭に置いた標準」作成に乗り出すのはやめた方がよかろう。もちろん、純粋な学術論理に 基づく「Standards」をつくるのは、社会に直接的な影響をもたらすものではないから、どうぞと申し上げる。


最終更新日: 2000/07/21