意見公募

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「アカデミックスタンダードとしての建築環境基準をつくるに当たって」

MessageType: 意見
Username: 尾島俊雄
UserAff: 早稲田大学理工学部建築学科
UserEmail:
日付: 99/09/07
時刻: 17:20:34
リモート名: 133.9.247.201

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1.建築界での環境工学分野の位置づけ  人間の行為は自然環境を破壊し、その影響が地球レベルに及んで、遂にアジェンダ21がつくられた。日本建築学会でも1997年COP3において建築物の寿命を3倍にすることと新築時のCO2を30%削減するという2項目をNGOの一代表として発表した。その中心に地球環境委員会と環境工学委員会の活動があった。しかし、問題はその実行であり、行動計画が早急に求められ、その支援のために日本建築学会としての行動規範と倫理綱領が作成された。1998年12月の理事会決定に続いて1999年春の評議員会を経て、5月の総会で決定される予定の「学会行動規範」。これに基づいて、AIJ基準がアカデミック・スタンダード として発令され、会員がこれを遵守していくことが望まれる。  1886年、「造家学会」として発足した学会は、1897年に「日本建築学会」と名称を変更した背景には、近代建築を地震に耐える安全な建物にしていくための学会員の決意があった。安全な建築を創るための材料や構法の研究開発が進み、学会創立50周年の1937年には「進む建築 導く建築」のスローガンも誕生した。日本はアジアでの躍進を背景に、その基盤整備に当たって学会規準は大きな役割を演じた。1945年の第二次大戦終了と共に1948年には建設省が内務省から独立。1950年には建築基準法が生まれた。この段階で日本建築学会規準の役割は大きく後退、戦災復興のため全国一律の行政基準に基づく仕様規定で建築士、建築主事による確認申請、受理、竣工、検査等のプログラムが定着する。かくして建築学会の構造や材料規準は、国家の行政基準を支援する形で、基準法の条例や解説の中で活用されるに過ぎなくなった。  1969年には31m高さ規制に代わって、容積規制下に建築基準法が改正された。その結果として、都心には多くの既存不適格建物を放置することになる。日本は高度経済成長期を迎えて、法的には38条の解釈が(財)日本建築センターに一任され材料、や構法の安全評定による大臣認定の形で超高層ビルが乱立し始めた。これを支援したのは、数限りなく発令された建築学会の構造や材料規準ではなかったろうか。加えて、ISOやCOP3、WHO、USA等の国際的な要望が、グローバルスタンダードの名の下に次々と今日の日本に押し寄せている。中でも環境基準はゴルフのハンディのようにonly one the earth で人類がSustainable Developmentするため、先進国がハンディを自己申告する。そのハンディとは環境基準そのものと考えられる。  図−1(図は梗概集に収録)は社会変動による環境規準の段階を示す。図−2(図は梗概集に収録)は環境工学委員会での各小委員会の作成すべきアカデミックスタンダードの位置づけを示す。 2.AIJスタンダードとしての建築環境規準の内容  AIJでの構造・材料系の学会規準は、前述したように歴史的経緯の中で乱発された観のある反面で、環境工学分野では余りにも少なすぎた。その理由は、建築基準法でも防災を除いて環境系で基準が制定されているのは採光と騒音程度で、日影や空気汚染は建築基準法の外にある。その理由は、建築の用途や立地、生活状況によって、また時代や社会状況の相違によって基準が異なるからであろう。戦災復興期にあっては特にその遵法性や計測評価、検査確認が困難であり、急いで制定して時代の波に遅れるようなことがあれば、かえって社会的にマイナスと判断されたからであった。しかし戦後は終わって、公害をはじめ各種の環境破壊やシックビルシンドロームを考えるとき、今や遅きに失している。1998年、建築基準法が仕様規定から性能規定に改正された機会に、是非とも性能評価のあり方を含め、生命、生活、生涯、コミュニティのそれぞれのレベルで主体者の尊厳を満たす環境基準を定める。その上で測定法や評価、さらにその普及に当たっての具体的行動計画を学会が起こすべきである。  ISO14000シリーズが社会的にもグローバルスタンダードとして日本の全分野に定着しつつある。またCOP3で地球環境への寄与策として、学会が声明を出し、日本政府も1990年時点に比してCO2 等を2010年まで6%削減を公約している。既に地球環境委員会ではアフターフォローとしてLCCO2の計算規準や1990年基準時の数値を議論し始めている。  また環境工学委員会では各小委員会で物理的性能評価に当たって、主体者としての人間系の居住や生理、心理、感覚の分類、要求性能と環境場の設定に当たっての時空間分離を定める必要がある。 図−3(図は梗概集に収録)は、主体者の存在する場の時空間状況の相違や社会変化によって、環境への要求基準が異なることを示したものである。  日本の行政改革で地方分権が進み、地域に根ざした生活文化が逅ャされると、各種の権利義務は小さな集団で完結しつつ、全体としてデファクトスタンダードが採用されるとすれば、その先駆けとして時空間限定のAIJスタンダードをつくる意義がある。


最終更新日: 2000/07/21