建築計画ニュース043

−2000年度 大会報告特集号−

日 本 建 築 学 会
建築計画委員会


1.建築計画部門 研究協議会

「ストック型社会の建築計画−プランニングからマネジメントへ」


2.建築計画部門 パネルディスカッション

「21世紀高齢社会における住まい・地域・まちづくり」


3.建築計画部門 研究懇談会

「wayfinding研究の展開とその計画学的意味を探る」


4.学術講演各セッション報告


学術講演各セッション報告

 

各系報告

■住宅系  ■施設系  ■計画基礎系  ■構法系

 

■5001〜5005
 地域施設基礎(T)

■5204〜5211
 ホール(2)

■5420〜5428
 内部空間

■5622〜5627
 集合住宅計画事例

■5006〜5010
 地域施設基礎(U)

■5212〜5219
 ホール(2)

■5429〜5437
 外部空間

■5628〜5634
 住環境の形成

■5011〜5020
 病院(1)

■5220〜5225
 図書館・ホールの利用圏域など

■5438〜5444
 ゆらぎ

■5635〜5643
 住環境の変容・共用空間

■5021〜5026
 病院(2)

■5226〜5231
 図書館

■5445〜5454
 都市空間

■5644〜5649
 住環境評価

■5027〜5034
 病院(3)

■5232〜5239
 展示空間

■5455〜5463
 空間のイメージ

■5650〜5655
 集落構成

■5035〜5039
 病院(4)

■5240〜5246
 スポーツ・レクレーション

■5464〜5472
 空間評価

■5656〜5662
 積雪寒冷地の住宅計画

■5040〜5048
 病院(5)

■5247〜5255
 商業・業務

■5473〜5478
 空間構造

■5663〜5670
 環境心理・環境行動から見た住まい

■5049〜5055
 学校空間

■5256〜5262
 駅関連施設(1)

■5479〜5485
 空間モデル

■5671〜5677
 民家の継承と再生

■5056〜5063
 学校施設整備

■5263〜5271
 駅関連施設(2)

■5486〜5492
 人間流動・火災安全

■5678〜5682
 環境との共生

■5064〜5070
 環境学習施設

■5272〜5277
 火葬場

■5493〜5499
 事故・災害

■5683〜5689
 北京の四合院

■5071〜5077
 小学校

■5278〜5284
 共用施設・共用空間

■5500〜5506
 姿勢・動作

■5690〜5696
 中国南西部・タイ山地の住宅

■5078〜5084
 中学・高校

■5285〜5290
 平面分析・設計教育

■5507〜5513
 浴室・階段

■5697〜5702
 東南アジアの都市高密住宅

■5085〜5092
 学校複合化

■5291〜5297
 設計手法・設計情報

■5514〜5520
 手すり・引き手

■5703〜5710
 東南アジア島嶼の住宅

■5093〜5098
 大学

■5298〜5304
 コラボレーション

■5521〜5526
 滞留行動

■5711〜5718
 南アジア・アフリカの住宅

■5099〜5106
 児童施設

■5305〜5311
 FM(大学施設)

■5527〜5532
 歩行行動

■5719〜5725
 中国・台湾・フィリピンの住様式

■5107〜5112
 公民館

■5312〜5317
 FM(オフィス他)

■5533〜5537
 探索行動・モデル

■5726〜5731
 地域の住宅・建築計画

■5113〜5118
 集会施設

■5318〜5322
 FM・POE(地球環境)

■5538〜5544
 群衆流動

■5732〜5740
 高齢者・身障者住宅

■5119〜5125
 環境移行・グループホーム

■5323〜5327
 構法基礎理論

■5545〜5551
 安全・避難

■5741〜5748
 高齢者と地域環境

■5126〜5131
 グループユニット・グループホーム

■5328〜5333
 構法開発

■5552〜5557
 光・音・時間感覚

■ 5749〜5755
 住宅改善1

■5132〜5138
 全体計画・空間

■5334〜5341
 構法とサステナビリティ

■5558〜5562
 容積感

■ 5756〜5760
 住宅改善2

■5139〜5147
 居室・生活空間

■5342〜5351
 構法と歴史・文化

■5563〜5567
 空間イメージ

■ 5761〜5765
 住環境の管理

■5148〜5153
 高齢者地域施設

■5352〜5361
 木造構法

■5568〜5571
 ユニバーサル・デザイン

■ 5766〜5772
 集合住宅の計画・供給手法

■5154〜5159
 高齢者関連施設

■5362〜5371
 SI住宅 1

■5572〜5575
 住宅計画史

■ 5773〜5777
 スケルトン・インフィル型のハウジング

■5160〜5168
 障害者施設

■5372〜5379
 SI住宅 2 ・オープンビルディング

■5576〜5582
 ライフステージ・ライフスタイル

■ 5778〜5786
 ストック改善・再生

■5169〜5175
 視覚・聴覚障害

■5380〜5385
 空間把握など

■5583〜5591
 ライフスタイル(子供室)

■ 5787〜5795
 住まいとまちづくり

■5176〜5182
 バリアフリー・設備・空間

■5386〜5391
 空間の計測

■5592〜5597
 ライフスタイル(台所・畳空間)

■ 5796〜5804
 参加型の住まいづくり

■5183〜5189
 バリアフリー・福祉のまちづくり

■5392〜5402
 光・音による空間分析

■5598〜5604
 輸入住宅・戸建住宅の計画

 
■5190〜5194
 複合化・交流など
■5403〜5411
 環境行動
■5605〜5613
 高層住宅・都心居住
 
■5195〜5203
 ホール(1)
■5412〜5419
 環境心理・経路探索
■5614〜5621
 戦前の住宅計画・居住過程
 

 

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■住宅系

「住居・住環境」の本年の発表件数は233で,昨年より増加傾向にあり,多数の発表があったという点では一応の成果をおさめたと言ってよかろう。発表を研究対象によって大別すると,戸建住宅・集合住宅の住戸を対象とした住まい方・ライフスタイル等の研究,集合住宅の共用空間・外部環境・街区計画等に関する研究,住宅・住宅地の地域特性・地方性・伝統性に関する研究,住宅の供給方式や管理・運営等に関する研究,高齢者や障害者の住環境や住宅改善等に関する研究,海外の伝統的住居や現代住宅に関する研究等がある。
 その中から,本年の注目点を挙げてみたい。
 まず始めは,特定の集合住宅(ハイタウン北方)を計画事例として取り上げたセッションであり,具体の計画・設計方法と居住実態とを連携させた複数の研究グループによるディスカッションの場として有効であった。本年ははからずも話題の集合住宅があったためこうしたセッションが成立したが,「計画研究」のあり方として,どこかにこうした「計画研究を統合する場」があってよいと思われる。研究の視点に,歴史性や時間軸的視点を導入した研究を多くみるようになっている点も注目される。例えば,「住宅計画史」のセッションでは浜口・西山等の論述を再考しており,「戦前の住宅計画・居住過程」「住環境の変容」のセッションでは住宅営団・同潤会・高度成長期の住宅計画を検証し,「民家の継承と再生」のセッションでは町屋や集落の再生を取りあげている。いずれも「住居・住宅地」の計画概念や方法を再考し広げる視点をもつといえよう。
 一方,近年の居住動向や検討課題を前提に,今後の住居・住宅地計画の方向を意識した研究も活発化している。例えば,コーポラティブやコレクティブなどの研究,環境共生住宅,高齢者・障害者のための住宅改善,社会資産としてのストックの改善や再生,スケルトン・インフィル型のハウジングなどの研究が挙げられる。
 戦後50年を経過し,計画研究の視点も,時間的広がりと時代的再認識を踏まえたものへと変化しつつあるといえよう。
 新鮮な切り口をもち,今後の住宅計画をリードする有意義な研究がさらに活発化することを期待したい。
 

沢田 知子(文化女子大学)

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■施設系

■ 発表題数の傾向 - 3大テーマは「学校」・「高齢者関連」・「病院」
今大会の施設系発表題数は、284題であった。内訳は、地域施設基礎10編、病院38編、学校50編、児童8編、公民館・集会12編、福祉71編、ホール26編、図書館11編、展示8編、スポーツ7編、商業・業務9編、駅関連16編、火葬場6編、複合化・共用12編であった。時代の状況を反映して福祉関連が発表題数の1/4を占め、中でも今後より一層研究の展開が求められる高齢者関連が41編で、病院や学校と並ぶ3大発表テーマとなっている。
■ 発表会場の制約
発表会場は、高校の校舎という事で、各教室が狭く、会場によっては座る場所が少なくて入口にあふれたり、廊下(教室の廊下側上部に開口部がある)での立ち聞きを余儀なくされた人達が現れた。発表に関心がある人達が自由に入れて、活発な討議を保証する意味からも、必要なスペースを持つ会場の確保が重要である(会場校には御世話になっておいて申し訳ないが)。
■ 意味のある研究と意味の無い研究?
建築計画懇親会の会場で耳にした話だが、「病院」のあるセクションの会場で質問者から発表に対してかなり厳しい指摘がなされた事を数人から聞いた。研究の発表に対して、その問題点を指摘し、討論を行う事は勿論重要であり、発表者も質問者に明確な回答を行う事が必要である。今回の発表でも質問及び回答の時間が足りないので、セクション終了後に廊下で続きをやっている光景を度々目にした。私共の学生は、終了後に廊下でさらに質問者から丁寧にアドバイスをしていただいていた。この様な光景は、真摯に研究を発展させようという意志が感じられて好ましい。しかし、今大会のみでなく、時々「この研究は意味が無い」と切って捨てる様な質問が見受けられる。十数年前の「学校」の発表会場では、あるグループによって集中的にこの種の質問が見られた。指摘を受ける発表にも勿論の事問題があり、質問する側にも「研究の質を高めたい」、「過去に類似の研究があるのにそれに触れていない」等の意図や研究の常識を踏まえての発言と思われるが、結局は質問者がその分野の研究を本当に発展させようと考えて質問しているのかどうか質問者自身も問われている事を私自身も含めて肝に銘じたい。
■最後に、今大会でこれまでの継続的な研究や、新しい研究、一歩一歩積み上げている研究等284題もの施設系の研究が発表され、活発な議論が各会場で展開された。今後の施設系研究の新たな展開に期待したい。
                                  

渡邉昭彦(豊橋技術科学大学)

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■計画基礎系


■構法系

日本建築学会大会という年中行事は、「公式に」遠くへ出かける大きなチャンスである。筆者も若い頃は、自分の発表のあるセッションだけに顔を出すと、さっさと「自主的視察」へ出かけたものだ。「本職」である建築視察は無論のこと、旅行・登山・鉄道趣味を満足するためにも、遠くで大会があるほど嬉しい。だれしもそう思うのは当然であり、北海道や九州で大会があると発表題数が急増し、大会のあり方委員会などで真剣な議論が行なわれるが、東京近郊の番になるとその議論もどこへやらである。パネルディスカッションにご出馬をお願いしたところ、「郡山じゃ近いから行きたくない」などとのたまうパネラーもいるぐらいである。しかし昨今では、いろいろ責任も増え、また研究協議会・パネルディスカッション等にも興味深いものが多くなって、大会3日間フル出席が普通となってしまった。
 さて構法計画の分野の学術講演だが、以前は会場に長老クラスの大先生の姿を見掛けたものだが、気付いてみたら筆者に近い世代がもはや最長老クラスになっている。だから、発表に対してもなるべく質問するよう努めねばならない。
 構法計画の分野の研究発表は例年50題程度で、1部屋・1日で何とかおさまっていたが、今年はついに1日におさまる数を越える発表数になったのは嬉しいことである。発表内容は、1日目については例年から大きな変化は無かったが、2日目の発表はいずれもSI住宅に関する発表であり、発表者の顔ぶれも聴衆の顔ぶれも、1日目の例年の構法計画の発表の「常連」とはいささか異なった。
 今年の構法計画の発表は、構法基礎理論、構法開発、構法とサステイナビリティー、構法と歴史・文化、木造構法、SI住宅、オープンビルディング、のセッションに区分されている。各セッションの発表内容の詳細については、それぞれの司会者がコメントする筈なので各論は省き、ここではあくまで筆者個人の立場から気付いた事だけを勝手に書く。
・構法基礎理論:
 ビルディングエレメント論に端を発する構法計画学の理論研究については、例年、理科大グループの発表が主であったが、井口研究室が先生の定年で消滅し、今や理科大の構法計画基礎理論研究は真鍋研だけとなった。この一連の研究も、今年度筆者が学会賞をいただいたことで、一応の纏まりを得たことになるものの、研究は継続している。
・構法開発:
 新構法の開発に関する発表が今年もいくつかあったが、30年ぐらい前に類似の開発があったことを発表者がどれぐらいご存じだろうか。もっと時間を取ってじっくりいろいろ質疑応答したいところだが、時間が無い。
・構法とサステイナビリティー:
 総論・全体像を得意とする構法計画の分野の研究者は、立ち上げ・導入時期のまだレールの敷かれない段階での研究参入は多いが、実質的研究が世の中のあちこちで行なわれるようになったらもはや用済み。リサイクル等に関する研究にも、新たな視点を発見してそれを「布教」したら、次の視点を考えよう。
・構法と歴史・文化:
 構法計画の分野では、2日目のSIを除けば、変遷史がらみの発表は最も多かった。各部構法計画小委員会傘下の「部品・構法の変遷WG」も、設立5年目を迎え、近代・現代の構法の変遷史研究が継続的に行なわれているが、WG自体は研究の連絡、情報交換等を目的とし、調査研究自体はそれぞれの研究室で行う。今後は構法計画という「身内」に留ることなく、歴史の部屋へも発表に出かける元気を持とう。
・木造構法:
 木造構法は、構法の中でも主体構造の構法ではメインを成す分野である。ひところ全国各地の木造に関する調査が多く見られた。無論それ自体でも消えて行く伝統的な構法や生産体勢等の記録と言う意味はあるのだが、ただ調べるだけという段階にとどまらず、構法をどう記述し相互の位置付け等をどう説明するかという視点に立てば、この分野はさらに奥が深いものとなろう。
・SI住宅:
 今年の構法計画の発表の2日目では、公団等のKSI住宅開発事例が10題、他の9題もSI住宅関連の発表であった。研究テーマにも時流というものがあるが、今年のSI住宅ブームはいつまで続くか。出席してみたもが、発表内容の関係者が会場の聴衆の多くを占めていたとの印象を受けた。建築計画では関連連続テーマを3編までと制限しているが、他の分野では1セッション全部続きものという例も少なくない。今回のSI住宅関係発表は、ややそれに近かった。
 閑話休題。筆者の研究室では、学内の卒業論文・修士論文の発表会で、研究室全員に全テーマの発表を聞くことを義務付けており、少なくとも大学院生にはこのルールはほぼ守られている。他の研究室の連中は、自分の研究室の発表か終ったらどやどやと団体で退席して行くのが普通で、廊下へ出てから声高に喋りながら去って行く。卒研生・大学院生全員が入り切れる部屋がないという実情もあるが、練習を聞き飽きた自分の研究室の発表だけ聞いても面白くない筈。それに、寧ろ他の分野でどんなことを研究しているか、また卒研・大学院生活に入って、ふだんあまり一緒に時間を過ごすことの無くなった友人がどんな研究をしてきたか、聞く方が面白い筈。
 学会大会の発表でも同様の感想を持つ。せめて構法計画の発表は、全部聞いて、興味があったらあとで廊下ででも発表者を捕まえて積極的に話し合う、というのが、本来の学会大会であろう。研究室の大学院生にも、構法計画の発表は1日目だけは全員全テーマ義務だ、などと言いつつも、冒頭で述べたように自分のことを考えると後ろめたくない訳ではない。大学院生諸君には、せっかく公に出張してきたのだからできるだけ多くの建築を見てきなさい、と言ってあげたくもなる。

真鍋恒博(東京理科大学)

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■5001〜5005 地域施設基礎(T)

本セッションは一つのセッションになるほどのテーマでないものが寄せ集められたという感があり,突っ込んだ議論にならなかったのが残念である。5001(三輪,ほか)は,地域施設の利用構造が属性により異なるという立場で,今回は女性にターゲットをあてて調査を行っている。対象施設が図書館とプールという女性の利用が高い施設のみに限定しているのが惜しい。5002(山田,ほか)は,高齢者が利用する施設について,その利用構造が市部と町村部で異なることを示して施設配置の提案をしている。ただし,発表者自身も結論を急いだと発言せざるをえなかったように,町村部が市街化することまで見越した提案が望まれよう。5003(植木,ほか)は,河川流域の施設計画の実態を調査したものである。まだ研究の初期段階であろうが,それでもヒアリング調査すれば容易にわかりそうな事項まで,わざわざ地図上で推定することもないと思われる。5004(斎,ほか)は,市庁舎の空間構成を調査したものである。会場からタイトルが「公共空間」であることの意義について質問があった。5005(酒井,ほか)は,岡山県の辻堂の研究である。<その14>というから随分と長い継続研究であるが,徐々に全貌が明らかになってきていると思われる。今後,このような施設が市街化の波の中で,どう継続すべきなのか考えさせられた。5006(無漏田,ほか)は,備前焼の釜の新設に同意書が必要であることから,新設が難しくなって現状を報告している。確かに住民にとっては,釜は煙を出すだけの迷惑施設なのであろうが,なんとか文化との共存はできないものかと感じた。

横田隆司・阪田弘一(大阪大学)

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■5006〜5010 地域施設基礎(U)

5007(伊丹他)は、ニュータウンの戸建て住宅地における自然発生施設の外部空間構成について現地踏査し、中でも物販や飲食の業務部分が周辺の街並みに影響を及ぼしかねないことを指摘している。景観を損なう自然発生施設への考え方や今後の展開について質疑があった。5008(大野他)は、若年単身者の食事・食品購入・入浴・散髪・洗濯の施設利用や生活意識などを調査し、遅い時間でも利用できる施設の需要が高く、定食屋、コンビニ、銭湯などを日常的に利用し、利便性を重視した居住地の選択が行われていることを報告している。研究の狙いを考えると、調査事項の質疑に対し町内会活動への参加状況や苦情も調べているとの回答では不満が残る。5009(鈴木他)は、吉祥寺駅周辺における30年間の施設の立地変化を分析し、美容院は入れ替わりが激しく、住宅地内分散から駅前集中傾向を強め、喫茶店は現在では駅以外の立地もみられていることを指摘している。副題である施設の再編成への展開方法や立地変化のみられる業種数に質疑があった。分析業種30のうち2業種しか結果が示されていないことから起きる疑問といえる。5010(歳森他)は、5009で得られた最寄駅、幹線道路までの直線距離、最近隣距離をもとに情報量クラスターを用いて施設の分布変化による業種を分類している。5009と同じく、分析方法の記述に大半を割き、余白があるにも関らず分析結果の記述が少ないのは残念である。

無漏田 芳信(福山大学)

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■5011〜5020 病院(1)

5011-2病室面積・室形状に関する研究(井上,西室田,友清)では、日本の病室面積の最低基準が欧米に比べて極めて低いことが示され、医療法の改正に伴う見直し等に生かせる現実対応型の研究成果が報告された。これに対して、車いすで移動・移乗できる適切な病室スペースを確保する必要性等が指摘された。5013緩和ケア病棟・環境療法士の必要性に関する研究(山本和恵)では、緩和ケア病棟における患者とその環境の急激な変化に対応できる療養環境整備の専門職として独自の立場から環境療法士の提案がされた。5014個室病室増加に関する研究(中山茂樹)では、個室が最も望ましいという立場から、個室と4床室の必要率を比較検討する報告がされた。これに対して、多床室としてなぜ4床室のみ取り上げているのかという疑問が出された。5015多床室ベッドまわり環境コントロールに関する研究(熊谷、竹宮、上野ら)は発表者が欠席であった。5016-8急性期病棟・多床室の研究(遠藤、高田、豊田、古谷ら)では、サンデッキ型病床配置提案のための一連の調査、建築、家具に関する報告がされた。これに対して、個室か多床室かの議論が沸騰したが、個別に環境をコントロールしたいという点は共通するのではないか、むしろ病室性能の明確化が必要等の指摘がされた。5019-20緩和ケア病棟に関する研究(八木、津野、古谷)では、全国実態調査結果の報告がされた。これに対して、現時点での施設数が75施設と増えていること、屋外環境の整備についてもあわせて分析する必要性等が指摘された。総じて、個室か多床室かという点に議論が集中したセッションであったが、日本の病院における多様な患者のそれぞれに対応できる病室のクォリティスタンダードに関する研究を進めることがまずもとめられると感じた。
                           

野村みどり(東京都立保健科学大学)

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■5021〜5026 病院(2)

本セッションは全編が小児の医療施設に関する研究となった.少子化の時代にこのような研究が数多く発表される傾向は心強いものがある.5021,5022は既存の小児病棟を対象として,入院患者の生活行動調査及び入院環境評価調査を実施し,加えて施設環境変更後に再度入院環境評価調査を行うといった介入調査を実施している.サンプル数の問題や,介入後の変化を1回しかとらえていないことなど,今後の研究課題のあるが,調査に使い捨てカメラを利用するなど新たな調査手法の試みが伺える.5023は小児病棟をあそび環境の視点から捉えることに着目し,遊び環境の時間的変化の実態を明らかにすることを目的としている.あそびの場のひとつであるプレイルームと廊下との配置関係からその利用特性を述べているが,それが調査病棟の特殊解を越えるものとして普遍化できるかどうかの検証が必要かと思われる.5024は文献レビューと施設訪問をもとに米国の小児医療施設における施設環境計画の考え方との現状を報告したものである.文献に関しては参照した文献がどのような位置づけで書かれているものなのかが明らかにされていない.また,紹介されている小児医療施設がどのような背景で計画さえ,運営されているのかが明らかにされていないために,正確な理解がしにくいとの指摘がなされた.5025,5026は米国の病院における小児患者の支援プログラムについて,Association for the Care of Children's Healthの活動とともに紹介をし,小児病院や養護学校におけるその内容について報告を行っている.

筧 淳夫(国立医療・病院管理研究所)

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■5027〜5034 病院(3)

5027〜5028(平野、呂、他)は、NSとNCいわゆる分散看護拠点を持つ病棟の看護業務の分担状況を、諏訪中央病院の調査に求めたものである。議論では、分析の方法に工夫すれば、重要な動線が抽出できるのでは?看護動線が短縮できるのでは?等の他、動線は長短ではなく内容が問題であるなど、故西山先生の「建築計画に於ける動線:S.11年建築学研究」に遡るような意見が出された。精神病院6題のうち5029〜5030(横田、阪田、他)は入院患者の行動特性調査、5031〜5032(田中、宮城、他)は最近建てられた病院の平面図を基に病室のタイプや病棟の面積構成を分析、5033〜5034(松原、石崎、他)は入院患者の退院の可能性を患者属性とデイスペースにおける生活行動と絡めて分析したものである。議論では、患者の行動を調査した論文に対して、疾患によって行動が異なるはず、閉鎖病棟・開放病棟の患者分類ではなく、疾病を明記して欲しいとの注文が付けられた。さらに、10年も20年も入院している患者がいるが、このような施設を、病院としての研究対象として見なして良いのか?と言う意見まで出された。本セッションは、病院関連の発表8題のうち6題を精神病院が占め、時代を反映したとも言える珍しい年で、議論を続けたかったが時間切れで残念であった。
             

友清貴和(鹿児島大学)

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■5035〜5039 病院(4)

本セッションはそれぞれ別個の課題に取り組んだ論文で構成されていたため、以下ではそのそれぞれについて行われた議論とコメントを述べる。5035は病院外来部門の案内支援システムを開発し、その操作性などの評価をまとめたものである。築計画者は空間の構成をこそ研究すべきで、何故こうした案内支援システムに関わるのかといった指摘もあったが、やや矮小化した議論とも思える。また5036では市中の薬局の待合いスペースについて空間の構成を類型化し、コミュニケーションの発生との相関を捉えた研究であるが、仮に薬剤師と患者とのコミュニケーションを意味しているとしても、何故四方山話が必要なのか、といった会場からの疑問に応え得ていない。5037は診断機器周辺での医療行為から所要室の必要寸法を求めようとするもので、こうした積み上げ面積が「適正」なのかといった疑問が示された。が、そもそもこの方法が、最小限空間を求めることに行き着かざるを得ないことを理解しておくべきである。5038では物品供給部門のSPD化の状況を管理運営システムとの相互関係で明らかにしたものである。5039は、これまでの医療施設系の研究とは異色のものであったが、抗菌建材の性能について実証的なデータを示した点は評価される。ただ医学系の論文のレファーなどにやや弱点があり、感染に関する基本的理解と抗菌の意味などを踏まえた今後の研究に期待したい。

山下哲郎(名古屋大学)

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■5040〜5048 病院(5)


■5049〜5055 学校空間


■5056〜5063 学校施設整備

5056〜5063の8編は、学校施設整備と表題がついたセッションであるが、内容は多岐にわたっている。表題で内容を紹介すると、5056の野崎は、子供の参加による学校施設整備の関する研究、5057の木村は小学校建築における建築空間の設計方法に関する問題提起、5059の馬渡・他は、教室のリ・モデルによる小学校校舎の再生に関する研究、5060〜5061は韓国における現代化小学校の空間構成の特徴と転用、5062の鈴木、他は小学校におけるコンピューターを利用した学習場面からみた情報学習環境の構成に関する考察、5063の赤穴・他は教育施設における情報環境・スペースに関する調査研究である。主に小学校を研究対象とした施設のあり方に関する論文である。尚、5058の加藤の余裕教室転用に関する基礎的研究は発表辞退である。内容を概観すると、5056は、内容自体大変興味深い発表であるが、OHPなどの図版があれば更に理解が深化したと思われる。設計に具体的にどのように適応可能であったかの質問がでた。5059もまた、施設更新時に学習環境をどのように再整備していくかという現代的かつ重要な研究課題と考えられる。ただし、教室の活動パターとイノベーションとの関連が、いまひとつ対応していないのが残念である。今後の展開を期待する。5060〜5061は韓国のこれからの学校建築の方向を探る研究である。2編を通して現代化小学校の特質と各室の機能別転用を考察しているが、その内容を発表会場で理解する事は難しく感じられた。海外が研究の対象であるという事情があるものの、このセッションでよかったかとの疑問が残る。5062と5063は教育施設の情報環境を考察したものである。情報環境自体が今後の教育の場で重要な事項と考えられるが、いずれの研究も型の設定とその特徴の考察段階である。課題が重要であることからも今後の展開が大いに期待される。
    

藍澤 宏(東京工業大学)

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■5064〜5070 環境学習施設

環境学習・自然・緑環境など、校外・校内の屋外学習環境を取り上げた発表が7編まとまってなされた。これらをまとめてみると、屋外スペース、地域環境、地域施設などの環境学習の場の全体像が浮かびあがっている。5064、5065の2編(講演者の都合による発表辞退)は生活科の地域学習の観点から教材となりうる都市施設を含む地域の多様な構成要素をピックアップ、整理したものである。5066(朝井)は校外学習施設として環境学習に利用できる施設を紹介している。5067(後藤)は校内の緑・土・水等の環境について、5068(藍沢)は校外のそれについてピックアップし、それぞれの用途を示している。また、これらの自然・農空間が地域住民の学校教育への協力・参加を促す機会として期待できることを示唆している。5069(太田)は校内・校外の自然を活用した屋外学習環境を細かくピックアップし、学習教材として利用する環境要素と対応させて分類・整理している。これらの発表の背景には、地域・生活施設や環境も学習空間であり、また教育・学習空間(教室)の機能を持つべきだとする意識が共通しているように思われる。「教室」空間としての計画論へ向けて、それぞれの研究の今後の深まりを期待したい。そのためには研究者間の言葉と概念のばらつきを整理しておくことも必要であろう。5070(保坂)は校地の緑被率と児童の遊びを関連づけようと試みている。

木村信之(昭和女子大学)

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■5071〜5077 小学校

5071(山中・関澤)は,番組を単位として作られた京都の上京第二十七校及び柳池校の小学校の平面分析から教育機能と町組の行政と生活機能を合わせ持つ複合施設であった点を再評価する報告である。 もともと学校の機能は教育と地域の生活機能が複合化される視点が必要であるとするスタンスの研究である。フロアーからこれらの研究から複合化の新しい知見が見いだせるのかとの質疑があった。5072〜74(上野・倉斗・力安)は, 学年単学級の小規模小学校における学習・生活活動場面の実態分析から,標準規模(12〜24クラス)とは異なる学年スペースや交流,特別教室等の空間構成のあり方を見いだそうとする報告である。 フロアーから1クラスでも,クラス人数によって,空間構成が異なるのではとの質疑があった。5075(山口・重村・他)は,多目的スペースをもつ教室まわりで異学年集団による共同活動の実態を報告したものである。5076(三島)は,オープン化された小学校のワークスペースと教室空間における児童の領域構成を行動観察し,集まりの定位や個々の集まりの場面を抽出,集団の人数と広がり,対人関係と物理的関係の位置を定量化させた報告である。5077(山田・大原)は,小学校の中庭空間の利用状況を観察することにより,内部空間と外部空間の連続性を誘発する中庭空間のあり方の知見を活動の連続性,小さなスペース,アクセスの視点から分析した報告である。5078〜79(伊藤・宮本)は,普通科高校における教科教室型運営方式を想定した,必要教室数の算定方法について,新しい算定式を示した。講座数が学校により異なることが予想されるため,企画・設計段階で手軽に算出できる算定式とはならないかとの質疑があった。5080〜81(高橋・周・西村)は,単位制高校における生徒の居場所選択を携帯電話の保有との関係からアンケートと行動観察調査をもとに調査した報告で,携帯電話の保有と居場所選択には強い関係かせ見いだされたが,学内情報の伝達手段にはなり得ていないとの報告であった。

吉村 彰(東京電機大学)

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■5078〜5084 中学・高校


■5085〜5092 学校複合化


■5093〜5098 大学


■5099〜5106 児童施設

このセッションは、児童施設を扱ってはいるが、それぞれ内容と方法が異なり、各研究者の姿勢や個性が報告に現われている。5099、5101(村田、佐藤他)は保育園児の行動、集合を分析している。施設計画の分野で発表するならば、アフォーダンスの概念に関する丁寧な説明が欲しい気がした。5100(山田)の発表は好感をもてたが、保育園に求める機能及び調査の解釈に少し飛躍を感じた。5102から5104(堀部、佐藤、三浦他)は、昔自ら設計した施設の調査報告で、一般のものと比べ、設計も運営もよいことは理解できる。今後の発展のためには問題点の提起も欲しい気がした。5105(中村他)は、施設構成と利用者の実態に基づいた研究であり、利用者数に影響する要因について自ら考察しているが、今後、具体的な検討が欲しい気がする。5106(渡辺他)は、児童施設の大人への貸出利用を報告しているが、他施設との複合化や有効利用の観点から興味深い。以上、敢えて課題を指摘したが、いずれも、短い梗概の中でよくまとまった真面目な研究であり、是非、継続して発展させて頂きたい。最後に、現在の発表形式は以前と比較すると、発表や討論の時間は確保できるが、他分野の発表と時間が重なっている。児童施設の分野は研究者の人数も少ないので、発表時間が少なくなっても、他分野の研究者が参加できる方がよいように思われる。プログラム編成は難しいが、検討して頂ければと思う。

宮本文人(東京工業大学)

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■5107〜5112 公民館


■5113〜5118 集会施設


■5119〜5125 環境移行・グループホーム


■5126〜5131 グループユニット・グループホーム


■5132〜5138 全体計画・空間

例年通り、司会を担当した研究発表に対するコメントを記させていただく。5132,5133(赤木他)は、老健入所者及びその家族へのアンケート調査に基づき、在宅介護支援の視点からみた老健の役割と課題を明らかにしようとしたものである。入所前と退所後における利用者と家族の意識、介護状況及び居住環境について聞いた上で、利用者、家族間に入所の希望や在宅介護に対する意識をめぐる落差があること等を指摘している。重要なテーマを扱った研究であるが、意識と客観的状況の相関、入所前と退所後の変化といったポイントが浮かび上がるところまでには至っていない。 5134(趙他)は福島県内の老健22施設において浴室、脱衣の広さと職員の満足度との比較検討をおこなったもの、5136(藤本他)は老健26施設を対象に浴室、脱衣室面積、さらに浴室内の洗い場、浴槽面積、カラン数の規模算定を、入所定員、最大利用者数、介護者数をもとに行ったものである。職員の働き易さや満足度のみから浴室や脱衣空間の評価をすべきでないことは言うまでもないことであるし、そもそも高齢者施設の入浴空間について研究対象を絞り込む前にまず施設における高齢者の生活の全体を視野に納めておくことが重要である。近年、高齢者施設における入浴をめぐっては大きな変革が始まっており、従来おこなわれていた"人体洗浄"としての入浴介助から個浴、中間浴、夜間入浴、マンツーマン入浴介助など利用者の視点にたった様々な試みが全国規模で普及しつつある。5135(朝倉他)の老健を対象とした施設内事故やけがについての研究についても、ただ事故やけがの発生について職員対象のヒアリングアンケート調査をしても、結論は本報のとおり「ベッド柵の徹底」や「目配り・見守り強化」といった「管理強化」や「職員の人員増加」の要請に帰結するのがおちである。そもそも転倒などの事故発生頻度は、施設のケア方針と強く相関しており、各施設が利用者のなに(生活の質あるいは?)を大切にして運営をしているかに大きく左右される。利用者の視点をも視野に入れた研究の展開を望みたい。なお、5137(竹田他)は当日無断欠席であった。

外山 義(京都大学)

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■5139〜5147 居室・生活空間

1日目の午後ということもあり、本セッションを含む午後の部は立ち見参加者がでるほどの盛況ぶりであった。本セッションの発表概要を記すと以下のようになる。5139(立松、ほか)は、ショートステイ用居室のタイプ分類を行い、居室タイプによるケア内容等の相違を分析している。しかし、居室タイプはショートステイ定員との関連が強いと考えられ、ケア内容等とショートステイ定員との関連分析も必要と思われる。5140・5141(芦澤、山田、ほか)の2編は、個室型特養の居室内におけるベッド配置等をはじめとするしつらえを、主に窓、壁、出入り口等の建築的要素から分析したものである。ベッド等の配置は介護度あるいは障害等の影響も考えられ、この面からの分析も必要と思われる。なお、梗概はそれぞれで完結するよう、章立て、図表番号等配慮願いたい。5142(張山、ほか)は、東京都区部における特養の居住環境を居室フロアー単位に分析したものである。なお、食堂、浴室等の設置についてはフロアー規模との関連が深く、その面からの分析も必要と思われる。5143(齋藤、ほか)は、老健及び特養における車椅子使用者の生活展開を考察したものである。なお、生活の広がりにはプランが大きく影響すると思われるが、その視点での分析に乏しいのが気になる。5144(山本、ほか)はユニットケア型特養の、5145(井上、ほか)は既存施設の改良(一部ユニット化)特養の共用空間における入所者の滞在場所と行為内容について分析したものである。5146・5147(三輪、西、ほか)の2編は、特養共用空間において絵画等の展示が及ぼす視認反応への影響を分析したものである。絵画の場合には、絵の内容、大きさ、数量、配し方等も視認反応に影響することが分かっており、これらの具体的影響度合いについては今後に期待したい。
                        

瀧澤雄三(小山工業高等専門学校)

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■5148〜5153 高齢者地域施設


■5154〜5159 高齢者関連施設


■5160〜5168 障害者施設

5160-61は社会福祉施設の地域社会への統合を経緯をケーススタディした報告である。このテーマは、脱施設化、障害者の自立と社会参加論が芽生えた25年前からの課題である。取り上げられた地域はかなり格差がある。地域への統合は比較的好意的な解釈であるが果たしてそうであろうか。「施設」は地域社会にとって新しいモノの対象ではなく、実は古いモノであったと言えるのではないか。5162は知的障害者のグループホームの現状分析である。宿泊体験型、福祉就労を目的とした定住型、一般就労を目的とした定住型に区分して、訪問観察調査により、さまざまな居住実態を解明した。またグループホーム評価の基本目安を生活の質、本人や家族の安心感、満足感とした。5163はグループホーム入居者(精神障害者)の入居前後の「自律度」変化を調査した報告である。結論として、一般的な生活力の自律度は高まるが、社会参加つまり、対外的な交流度はそれほど高まっていないことを明らかにした。5164は知的障害者の建築計画に関する研究である。東京を中心とした3つの施設を対象とし、ヒアリング調査を実施しているが、施設における集団生活の限界、施設と人権問題、あるいはノーマライゼーションをどの程度理解しつつ考察したか課題も残る。5165は母子施設の空間構成に関する研究である。発表を聞いて課題に思ったのは母子施設の今日的役割である。緊急一時的な必要性は感じながらも住居空間として捉えるか、従来の保護的施設として考えるかが、研究の分岐点、考察視点に重要といえる。5166はユニットバスにおける手すりの使用状況を実験的に把握した研究である。実験の成果はある一定の位置に取り付けられるだけでなく、どこにでも取り付けられるユニットバスの標準的開発に向かうのではないかと考えられる。5167はシットスキーヤーのスキー場利用の現状評価である。スキー場という一定の利用限界を考察レベルでどのように位置づけるかに関心を持つ。報告されているようにソフト面の対策が具体化されなければと思われるのであり、人的配置の課題を明らかにしたい。5168は地域福祉の観点から地域福祉センターが果たしている役割を研究課題としている。時に震災後の利用実態を明らかにし標準プランへの計画課題が明らかにされた。本セッションを通じて言えるのは研究のゴールの明示、そしてその位置づけをあらためて明らかにしたいと言うことである。

高橋儀平(東洋大学)

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■5169〜5175 視覚・聴覚障害

誰もが使いやすい建築、都市環境、すなわち建築、都市環境のユニバーサルデザインの実現に向けて、視覚・聴覚障害の視点から多くの問題提起、解決方策の提案があった。5169(今井、他)は現状の車いす用トイレを視覚障害者が利用する際の問題点を指摘し、その解決策を提案している。ユニバーサルデザインという視点から、その提案は車いす用トイレに限らず、一般のトイレに展開されていくことが期待される。5170(尼崎、他)は鉄道駅の情報表示について、高齢者の視力低下、黄変化の疑似体験を通して問題指摘を行っている。問題のいくつかは過去にも指摘されていたことではあるが、鉄道事業者が行った自己点検的性格を持っていることが興味深い。5171(鶴見、他)は視覚障害者のガイドヘルパーとしての経験を基に都市・生活空間のバリアを指摘している。5172(村嶋、他)は近年の統合教育の普及、少子化等を背景として進展している盲ろうあ児施設の規模縮小や他機能への転用等などの現状を建築計画的視点から分析、考察している。「統合教育推進」等の流れの中で将来的に盲ろうあ児施設はどうあるべきか、という課題も示唆されているように思える。5173(生貝、他)、5174(高橋、他)は聴覚障害者(中途失聴者、難聴者)の日常生活におけるコミュニケーションの方法、問題点及び利用しにくい施設とその理由について詳細な調査・分析を行い、対面型のコミュニケーションの問題、車内放送等の情報入手・理解の問題、及び情報の発信者、受信者の間にバリアとして存在する「騒音」の問題等を明らかにし、音環境とその代替措置となる視環境の改善の重要性を指摘している。5175(吉田、他)は音楽堂において難聴者が実際にどのように聞こえているのかを実査により検証している。ここで得られたデータは音楽堂等の音環境の改善に資するのみならず、難聴者が抱えている問題の理解という視点からの疑似体験手法への活用も期待できる。

佐藤克志(日本女子大)

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■5176〜5182 バリアフリー・設備・空間

建築計画「5176 - 5182」司会;吉田あこ・前川佳史「5176-77」(田中・老田)身障トイレの性能をユニバーサル使用の立場からチェックしたもので、会場から「視覚障害者がわざわざこれを使わなくても」との質問もあったが、障害種への特別対応性能から誰でも使えるとは何か!の時代を反映したものとの解答があった。興味深い研究である。「5178」(岩田)被験者を晴眼者が眼隠しと耳栓をつけて実験している。会場より「耳栓の意味」につき疑問が出された。基本的討論が必要に思われる。「5179-80」(前田・野久屋)事故因のモデル化で環境整備の方向を探った研究。「5181-82」(野阪・井川)視覚障害者とアイマスク付きの晴眼者との歩行動作の比較。多様な五感活用の様を種々のデータでわかりやすく表現している。 以上、障害特性対応の物的環境指標追究はそれぞれに味わい深い。また、「トイレやスロープだけでなく、普通の人の楽しむ空間にも肉迫すべき」との意見もあり討議は活性化した。
 

吉田 あこ(実践女子大学)

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■5183〜5189 バリアフリー・福祉のまちづくり

183は最初からいきなり、欠席であった。本来、大会発表は多くの発表を聴講するために参集した関係者の前で発表し討議して意義があると思われるが、梗概集に掲載されればよしとするのであれば問題である。5184は海洋性レクリエーション施設のバリアフリーに関する研究と言うことであったが、会場からの質問、意見が出たように研究の視点や方法の曖昧さが指摘された。5185は箱根の温泉旅館を対象としたバリアフリーということであったが現状と課題の一般的な認識にとどまっていたが、今後の計画への解決方法の提案が期待される。5186は市場製品の手すりの状況について現状を調査した研究で興味深いが、今後これらの標準化に関する検討や実験等による検証が重要である。5187はアジア諸国のアクセシビリティに関する現状を法律の整備状況で比較検討を加えたものであるが、実際の運用状況や現地での整備状況など今後必要と思われる作業がある。形式的な比較にとどまらず、より地域の実情に基づた調査も必要であろう。5188は福祉施策の実態を自治体の状況比較で調査したものであるが、研究の目的からすれば調査方法や分析方法に置いてさらに検討を要すると思われる。統計的な数値に反映されない地域の実情をどのように把握し、計画へ反映されるべき指標としていくのかが最大の課題である。5189はひとにやさしいまちづくりにむけた施設主の意識を調査したものであるが、サンプル数の少なさや設問内容に課題があるように思われる。今後の整備に向けた計画手法をソフト面、ハード面と簡単に分類できない関係をむしろ明快に示すことが期待される。全体として、バリアフリーなどに関する調査研究はいろいろと増加しているが、個別の地域や施設などで同じようなことを繰りかえしているように思える。そろそろ福祉のまちづくりの研究もワンパターンから脱却する必要がある。

田中直人(摂南大学)

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■5190〜5194 複合化・交流など

5190〜5194(複合化・交流など)本セッションは、高齢者・幼児・障害者などの弱者の複合施設について、主に相互の交流の実態を把握して、空間構成との関係を報告したものである。5190〜1(田端、末田他)は、高齢者と幼児施設の複合化について、「創発的交流」をキーワードに、施設の空間特性と交流の実態を明らかにし、空間構成との関係を分析している。5192(本庄他)は、学校施設と高齢者施設の複合化について、交流の実態から施設計画の問題点を指摘した。5153(岩下)は、遊び場での障害者と健常者の「居合わす場面」と遊具の特性との関係を考察している。5154(鈴木他)は、障害模擬体験の学習プログラムの中で、今後のバリアフリーのあり方を検討した。本セッションに限らず、実態把握の研究では、さまざまな視点から膨大の数の調査が行われ、大会で発表されている。多くのデータが蓄積され、これらのデータの中には、有用な知見が得られている。しかしながら、これらの資料が一つのまとまった情報として、整理されていないことを痛感する。多大なエネルギーと費用を掛けたこれらの資料を、いかに整理・統合して集約・公表していくこと、また建築計画にどのような形でフィードバックしていくか、の議論を検討する場の必要性を感じる。
    

積田洋(東京電機大学)

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■5195〜5203 ホール(1)

室内楽ホールの視空間物理量と心理評価の関係をさぐる泉美都紀他(5195)の研究は、一連の研究成果を踏まえて興味あるデータを提示している。緻密な研究なので結論に至る筋道の丁寧な解説を望みたい。同様の手法を用いたオペラハウスの空間特性についての浦部智義等(5196)の研究も、舞台装置や人間による視角欠損の影響の仕方が分かり興味深い。ホールのアプローチ空間のクラスター分析を行った実川俊之他(5197)の研究については、規模比較や心理量との関係など今後の発展を期待したい。屋田幹也他(5198)、及び幸和紀等(5199)による世田谷パブリックシアターの備品収納状況の調査限定された規模における備品収納空間と舞台の広さの優先順位等について研究討論の話題を提供した。村田小太郎等(5200)の研究は公立文化ホールの空間構成と生涯学習センターとの空間構成と違いについて把握を試みたもので、その連続性の指摘は示唆的である。樋口修敬等(5201)の平土間ホールの類型化は演目と利用者の属性から分類を試みている。もう少し内容に立ち入った分析を期待したい。井上友亮他(5202)及び青池佳子他(5203)による新国立劇場におけるオペラ公演時の舞台機構(吊り物、迫り)の利用状況の研究は、膨大な調査量による精緻な研究であり、新国立劇場の舞台機構の使われ方が単なる演出効果というようりはドイツのオペラハウスのように演出を支えるインフラ的な機能を総合的に果たしていることを示している。

清水裕之先生(名古屋大)

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■5204〜5211 ホール(2)


■5212〜5219 ホール(2)


■5220〜5225 図書館・ホールの利用圏域など


■ 5226〜5231 図書館

本セッションでは6件の公共図書館に関する研究発表があった(1件欠席)。前セッションの図書館関係5件と合わせて11件となり、ここ数年ほぼ同数の発表となっている。5226[打矢他]は蔵書新鮮度の過去30年間の経年的な変化状況を示したものであるが、公共図書館普及の初期に意義のあったこの計画指標が、規模が拡大している現在の捉え方としての有効性について検討が必要ではなかろうか。5227[熊谷]は読書環境形成の運動の経緯を報告したものであるが、建築計画論との関係や意義・展望の説明が不十分の印象が残る。5228[北岡]は、近年の規模拡大に伴って配架の分かりやすさが必要との視点から既存館の配架状況を報告したものであり、今後の展開が待たれる。5230[津森他]も同じく規模拡大にともなった機能スペースの分化や設置状況を示し、機能スペース間の隣接関係のパターン化を試みたものである。5231[清水他]は公共図書館の利用者スペースを面による分節単位による類型化や検索機の配置位置と効果などについて示している。これら2件はいずれも調査結果の分かり易い示し方と計画論としての今後の展開を望みたい。図書館はわが国では急速に普及・発展してきた施設のひとつであり、その過程の各段階において求められる有り様や対応した計画論の内容が変化してきたといえる。いずれの研究も発展段階を考慮すべき研究とみることができ,将来展望を示すような研究への展開を期待したい。

冨江伸治(筑波大学)

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■5232〜5239 展示空間


■5240〜5246 スポーツ・レクレーション


■5247〜5255 商業・業務

商業・業務(5247〜5255)は、始めの3編がオフィスを、後の6編が商業空間を対象としていた。5247はオフィス居住者の環境評価の経年変化をまとめたもので、事前に想定される調査バイアスへの対処について積極的な議論が展開された。5248,5249はオフィス環境の嗜好を視覚情報を主手段として判別する一連の研究で、調査方法に関する質疑応答が行われた。5250は商業空間のパブリックアートに関する報告であり、内容は稚拙であるが、話題性のあるテーマだけに今後の展開が期待される。5251は中心市街地活性化事例の分析で、紹介事例数が少なく論旨の構成に無理が生じていた。5252は沖縄で戦後直後の形態のまま存続している市場の実態調査報告で、貴重な題材として継続的な報告が期待される。5253はコンビニエンスストアを多角的に捉え将来像を予想する試みであったが、論旨に不明瞭さが残った。5254は商店街の店先空間での交流に関する報告で、丁寧な調査内容に基づく展開であり一般化への意向が問われた。5255はパチンコ店内の休憩スペースに関する調査報告で、パチンコ店利用者の休憩時間は5分未満が6割以上と大変に短い等の、興味深い結果が示された。パチンコ店を研究対象として扱うことの意義、モラルの捉え方と建築計画への反映方法等について議論が交わされた。当セッションでは身近な調査対象から業務・商業空間の実態を捉えようとする試みが過半であったので、本来ならば比較的聴衆に理解されやすい内容であるにも拘わらず、全般として発表者の説明不足からその補足を促す質疑に多くの時間を費やしたことが残念であった。発表者側に一層の工夫・改善をお願いしたい。

木多彩子(摂南大学)

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■5256〜5262 駅関連施設(1)

地域施設としての「駅」の役割は、近年かなり多様化してきている。そのひとつが移動拠点としてのターミナルの性格から生活拠点としての複合的な機能を持ちはじめたことに表れている。鉄道施設が建築計画学の範疇に確実に入ってきたことは、担当した7題の発表者の所属を見ても明らかである。研究内容は、1)河合、小澤、浜本らによる東京およびその近郊での駅の利用客に関する実態調査から地域との関連を明らかにしようとするもの、2)佐々木、星らによる事業に基づく駅周辺整備計画に関する指針を提示しようとするもの、および3)佐藤、柳澤らによる駅の性格に対応した計画手法を検討したものの3つに大別できるが、いずれも鉄道事業者という視点からのきめ細かな分析内容であり、また一般的には入手しにくいあるいは調査が困難な内容を含んでおり、これらの研究成果は今後の駅施設の研究あるいは設計に大いに役立つものであり評価したい。このような研究に望まれるのは、1)調査データそのものが貴重であり、大会の発表としてまとめたものだけではなく、可能な範囲で原データがネットワークを通じて公開されると、関連研究をしている者にとっても、また設計者にとっても有益な資料となりうるため、ぜひデータベースの整備をお願いしたいこと、2)経年的な駅利用状況の変化、整備手法の変化などを知ることが計画学では重要であり、研究が継続されることを期待してまとめとした。

渡辺仁史(早稲田大学)

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■5263〜5271 駅関連施設(2)


■5272〜5277 火葬場

当セッションは、火葬場に関連する6題である。1編を除くと八木澤他(共立女子大他)による発表という偏りがあり、聞く人も質問をする人も減少し、司会者の質問がどうしても多くなる。この様なケースでは、発表者相互に質問や意見交換する等、発表者側も工夫をしてもらわないと活発な討議という様にはなりにくい。八木澤他による5編は、法律施行細則による行政指導、使う側が求める火葬場像、建設の合意形成プロセス、業務委託による運営形態、平面構成から見た葬送行為に関する発表である。5編それぞれが現状の火葬場建設又は建築における重要な問題点を探る研究発表であり、火葬場をめぐる課題の多さを示すとともに、この種の施設をめぐる研究者の充実の必要性を痛感させられると同時に、欧米で試みられている住民参加型の公共施設の計画手法が最も必要な分野の1つと感じた。他の1編である藤木他(都立大)の発表は、火葬場建築の空間に着目した研究であり、空間を空間配列・連続性・外部要素の導入の3つの視点から傾向を探ろうとした研究である。この発表では、一連の葬送行為を流れ作業的に扱いやすい空間構成に対して、空間の繋げ方と変化の導入によって、その印象を防げるとしている。以上、このセッションの火葬場建築も、高齢化社会を迎えてより一層の研究層の充実の必要性を痛感した。

渡邉昭彦(豊橋技科大)

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■5278〜5284 共用施設・共用空間


■5285〜5290 平面分析・設計教育


■5291〜5297 設計手法・設計情報

本セッションは、設計案の試行錯誤を支援する解析モデルや視覚表現モデルに関する報告(5291−5294)と、組織における設計情報の共有と伝達に関する報告(5295−5297)に分かれる。5291(大橋他)は、高速道路のインターチェンジやサービスエリア等の配置計画について、最適解を求めるための解析モデルの考え方についての報告した。事例を踏まえた具体的な研究成果に期待したい。5292(欠席)。5293(田中)は、線材と接合角度に一定の制約を与えたジョイントのモデルを使い、対話的に曲面の構造体の自動生成と代案選択を繰り返すツールを提案した。ツールが設計者の代案選択傾向を学習しながら、論理的な設計条件と設計者の審美眼の両方を満たす代案を次々提示するという提案は興味い。5294(西郷)は、簡易なラピッドプロトタイピングツールの、スケッチ段階における活用の可能性について報告した。すなわち、三次元CADデータを基に、スタイロフォームブロック等から凸な形状の立体を自動切削加工するツールである。複数の三次元モデル試作結果を踏まえ、目的応じた加工精度の選択が重要なこと、最終形を適切に分割することで、凹形状を持つようなモデルも対応できることなどを紹介している。5295と5296(日比野、下川、他)は、共同作業参加者が、地図を媒介に、地域の街並みや建築物に関する情報をWeb上に蓄積してゆき、それを相互に共有するシステム(建築デジタルマップ)を提案した。金沢市を事例に文字、静止画像、動画像、CADデータなどを登録したシステムを試作し、データの作成登録および、蓄積したデータの検索参照の過程を通じて建築教育に活用できると、見通しを述べている。5297(宮越他)は、企画から実施設計に至る過程における担当者間の設計情報引き渡しの現状や、そこで発生する不整合の問題について、実務者に対するヒアリング調査結果を報告した。設計図書に内在する不整合に加え、コミュニケーション不足から生じる不整合があり、今後、後者の解消策研究が重要なことを指摘している。

両角光男(熊本大学)

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■5298〜5304 コラボレーション


■5305〜5311 FM(大学施設)

このセッションでは、千葉工業大学の嶋村仁志先生が指導された研究7本の発表が行われた。それぞれの研究に対するコメントではなく、全体に関する感想を書きたい。すべての研究にファシリティマネジメントの視点を持ち込み、大学の様々な施設(研究室、演習室、実験・実習施設、学生食堂キャンパス)を有効に使うための調査を、様々な視点(使われ方、在席率、バリアフリーなど)から実施している。大学の施設は、ともすると非効率な使われ方をしているのにまったく気がつかずにそのまま使用されていて、施設が有効に生かされていないことが多い。さらには、一部のクレームを受けて、きちんとした調査を経ずに施設に手をいれた為に改悪につながるケースなども見受けられる。つまり、施設の問題を発見したり、クレームが本当に問題なのかを客観的に判断することがとても重要であり、ここで発表されている研究はそいうった要望に答え得るものであると考える。さらに言えば、建物を計画するだけではなく、できた施設をいかにうまく使うかは社会的にもとても重要な課題であり、これらの研究は、実際の施設の運営にとても有効な調査となっている。計画学研究が抱えている、研究と実務との遊離の問題への一つの解答でもあり、研究がそのまま実務に直結する意義のある研究といえよう。

仲 隆介(宮城大学)

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■5312〜5317 FM(オフィス他)

司会を担当したのは5312から5317までの6編である。5312および5313は、一連の研究であり、施設の建て替えによる執務空間評価を継続的に行っている。ユーザー満足度評価が必ずしも一般的でない状況下おいて、この種の研究の意味はおおいに評価できるが、研究対象に対して研究成果を具体的に活用した成果が期待される。5314は、南アフリカにおけるノンテリトリアル・オフィスに関する事例研究であり、異なる執務文化の報告として興味深い。しかし、研究の目的、それに対応した調査の方法、分析の方法が明確に示されないために、研究の位置づけが不鮮明になっており、より詳細な報告が望まれる。5315は、昨年提案された「ホテリングオフィス導入にに関する損益シュミレーションモデル」にあふれ率と改造費用のパラメーターを加えて、シュミレーションの精度をより高める試みである。実例への適用よる研究の実証性が待たれる。蛇足ながら、報告の紙面に空白があり、限られた紙面を有効にたかった配慮が欲しかった。5316は、遺伝的アルゴリズムを用いた空間のゾーニング支援システムの試行結果の報告である。膨大な研究内容を要約しすぎたところがあり、報告の焦点が必ずしも明確ではない。的を絞った報告を期待したい。5317は、複合建築の事例としてホテル建築を対象に事業収支と建築型の関係を分析した報告であり、画を援用した新しいモデルの可能性を提案しているが、実用に供するためには、従来行われていた方法とのより体系的な比較検討が必要であると考えられる。

嶋村仁志(千葉工業大学)

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■5318〜5322 FM・POE(地球環境)


■5323〜5327 構法基礎理論

第一日目の最初のセッション、また会場が東京から新幹線で通える距離にあると云うことで、開始時点では殆ど発表関係者のみという状態であったが次第に参加者が増えた。5323は、飲食空間を構法計画的見地から整理したもので他の様々な行為に対しても同様の整理の可能性を示している。5324は、伝統的な民家の狭小敷地における工夫を現代建築に活かす視点で研究したものである。本梗概では主として手法を示しているが整理された結果にも興味が持たれる。 5325は、採光方式の体系的分類・整理を行ったものである。従来の実例を抽象化したものと体系的に整理したものの違いに説明が欲しいところである。 5326は、玄関まわりを構法計画的に整理することで、設計手法の全体像を明らかにすることを試みている。要求性能が時間や状況によって変わることを組み入れて整理することで更に興味深い内容になると思われる。 5327は、窓まわりのディテールを構法計画的に整理したものである。窓面の大きさ、連窓の効果や、格子や桟による窓面の分割の効果なども窓のデザイン上の重要な要素になると思われるので体系の中に組み入れられれば設計に役立つと考えられる。このセッションの発表は全て同一の研究室のものであったが以上5題を並べてみると行為、特殊条件、機能、単位空間、部位といった切り口で構法を整理体系化しており研究対象が数限りなくあることが示されている。

小西敏正(宇都宮大学)

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■5328〜5333 構法開発


■5334〜5341 構法とサステナビリティ


■5342〜5351 構法と歴史・文化

本セッションでは、海外の伝統構法を活用したプロジェクトから我が国の歴史的な各種構法の変遷まで、多岐にわたる内容が発表され、質疑応答が行われた。5342(庄屋他)は、紅海地域においてサスティナビリティを有する伝統的な日乾煉瓦造をレビューし、この構法の応用と開発の可能性を探り、引き続き5343(小草他)では、実際に建設された実験棟の評価を行い、今後対処すべき問題点及び対処方法を示した。5345(唐見他)は、陸屋根における断熱防水構法が我が国で普及してきた過程とその要因を明らかにした。5346(大島他)は、建築部品・構法における要求性能の変化過程の体系化を試み、住宅の水廻り設備を例に民間と公団における要求の差異を明らかにした。5347(加藤)は、戦後のガラス代用品の概要を、「銀線」と呼ばれる実例などを挙げて示した。5348(林他)は、我が国の戦前(1910〜1945)におけるRC構法の変遷を示した。5349(朴他)は、昭和10年代に東京都内で建設された木造アパートの特徴を示した。5350(志岐他)は、旧東京市営古石場住宅のブロック造が、実用段階にあった大正期のブロック構法の貴重例であることを解体記録から明らかにした。5351(中野他)は、文化財建造物における構造補強構法を明らかにし、構造的欠陥に対応した部位ごとの補強方法の体系化を行った。5344(若島他)は、発表者の都合により未発表である。

山畑信博(東北芸術工科大学)

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■5352〜5361 木造構法

古民家再生がブームとなって久しいが、復元に徹したものからファッションとしての古材利用まで、再生方法は千差万別である。5352「古民家の再生による架構と空間構成の変容について」(堀江)では、必ずしも元の民家本来の特質が生かされているとは言えない再生事例をとりあげ、架構と空間構成の変容をつぶさに追いながら、再生とは何なのかを問いかけている。5353「保存民家に見られる木造軸組み構成とその環境性」(角本)は、現物の実測データをもとに、模型で再現するプロセスを報告しているが、模型という旧来の手段と、CADなどの新しい手段を併用しており、大学等での実習方法を組み立てる上で参考になる。従来の民家研究では注目されにくかった作業小屋に着目したのは5354「茨城県におけるタバコ乾燥小屋の構法と成立過程」(黒坂ら)である。ここではその原状を示すだけでなく、本来の用途を終えてさまざまに転用されていく姿を詳細に追っている。工務店にとって合理化は不可避の生き残り策であるが、5355「山形県最上郡を中心とした地域における合理化の現状」(山畑ら)は、一地方における在来軸組構法の生産が、どの程度合理化の流れから取り残されているかを示している。都市部ではプレカット化が進み大工の手から木がどんどん遠ざかっていく昨今、本報を聞いて安堵を覚えたのは司会者だけであろうか。5356と5357は、ともに経営工学的な視点から木造住宅の工程を分析している。5356「木造軸組構法住宅の標準工程に関する研究」(金木ら)は、施工の合理化策として、工程の前後関係に着目している。一つ一つの作業手順を検討し積み上げていくことにより、標準的な工程図を示そうという試みである。5357「木造住宅の施工人工数と労務歩掛かりに関する調査研究 その2」(松留ら)では、各工程にかかる人工数を、現場調査によって求め、さらに地域や延床面積との関係を示している。5358と5359は、木造各部構法の変遷を報告している。5358「木造住宅における基礎および土台の変遷に関する研究」(井上ら)は、文献や図面などを手がかりとして、基礎および土台の変化をまとめている。5359「木造住宅の外壁仕上げ構法の変遷と地域差に関する研究」(福浜ら)は、工務店への大規模なアンケート調査によって、外壁が板壁からモルタル、サイディングへと変化していくさまを示している。5360「住宅の土壁構法に関する研究」(安村ら)も5359と同規模の調査により、土壁の採用状況や使用材料を報告している。ただし5358〜5360は概要を示すにとどまっており、これらを出発点とした詳細な変遷研究を待ち望みたい。5361「伝統木造技術の保存・継承について」(伊藤ら)は、歴史的建造物の保存作業にCGを活用することにより、「情報の継承」という新しい技術保存のありかたを提案している。ただしそうした手段が使える現場は時間的・コスト的に限られているのが現実である。今回は全体的に、「研究の落しどころ」に切り込むような教育的質問が出なかった。発表の未熟さもあろうが、よい質問が研究を育てるという側面を、次年度の大会参加者にはぜひご理解いただきたい。

加藤雅久(居住技術研究所)

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■5362〜5371 SI住宅 1

本セッションは、都市基盤整備公団総合研究所で試作建設されたKSI住宅(公団型SI住宅)に関する報告である。内容は、開発のアウトライン(5362-5363)、新築時・リフォーム時のインフィル施工性研究(5364-5369)、クラディング構法(5370-5371)に大別される。5362では設計要件としてSI分離の技術・方法論を提案しているが、想定される床面積規模、リフォームを含めた形での市場性などとの関連性を含めなければ、その評価は難しいだろう(これについては建設省マンション総プロの担当というスタンスかもしれない)。5366で示されたインフィル施工の作業能率は、通常の内装工事と比べ劣っており、これは工法改良、技能レベル向上によって大幅に軽減できるとしている。しかし本報告の意義は、そもそも多様な要求に対応できる可変性を実現するためにはある程度の施工時間が必要となる点にあるのではなかろうか。5365,5367,5368はインフィルリフォームの施工性及びリフォーム時の廃棄物量、リサイクル量について検討しているが、特に再使用・再利用の定義付けがはっきりしていない。住戸内、住棟内、団地内、KSI住宅全体等、対象範囲によって再使用・再利用率は大きく異なることになる。最終日の早朝ということであったが、会場には溢れんばかりの参加者があった。SI住宅に対する大きな興味、期待の現れといってもよかろう。本セッションのような開発研究報告はポスターセッションとして行われたほうが、内容の理解がより図られたと考える。本年の構法計画分野の発表には、ポスターセッションが望ましいものが20題ほどあったように思われる。現状の持ち回り方式に多少の柔軟性を持たせてもよろしいのではないか。

角田 誠(東京都立大学)

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■5372〜5379 SI住宅 2 ・オープンビルディング

SIという言葉に関しては特に説明を必要としないであろうが、Skeleton(Support)&Infillの略である。またオープンビルディングという言葉は、CIBの委員会で用いられている言葉であるが説明は略す。このセッションの発表は以下の8題である。・5372 集合住宅におけるリフォーム対応技術の研究開発 その4(久保田孝幸・他)・5373 自由設計型集合住宅における居住者による住戸内部改善行為の実態に関する調査研究(國分真奈美・他)・5374〜76 集合住宅のスケルトンの改修キャパシティに関する研究 その1〜3(深尾精一、鎌田一夫、門脇耕三・他)・5377 戸建住宅のSI対応システムの開発(南山和也・他)・5378〜79 軸組住宅のSI対応技術開発(その1〜2)(大野義昭、伊藤俊一・他)これらを2つに分けてコメントを述べたい。
○ハウスジャパン関連
 5372、5377〜79は通称ハウスジャパン(生活価値創造住宅開発プロジェクト、通産省)の成果に関連した報告である。5372は内装システム、5377はツーバイフォーによるSI戸建住宅、5378と79は木造軸組構法によるSI戸建住宅の開発報告である。これらを含めたプロジェクト全体は2000年度で研究が完了し、詳細な報告が出される予定である。個々の研究成果に対する評価もその際に明らかになると思われるので、ここでは個別のコメントは省略する。 ハウスジャパンは研究対象が広範でSIはその一部に過ぎないが、研究の進展よりも世の中の変化のほうが早かったという感は否めない。居住者が自由に設計できる戸建にSIは必要かという議論があるが、現状の戸建住宅のもつ自由さ(我儘?)が寿命を短くしているのも事実である。さらなる議論の深化を期待したい。
○SI設計関連
 上記以外の報告は都立大の深尾研究室を中心として行われた研究成果である。いずれも今後普及が期待されるSI住宅の、Sの部分に注目してその成立要件の考察につながる研究である。 5374はSIの先駆的な事例とも見なすことができる自由設計の集合住宅、つまりコーポラティブ集合住宅を対象に、いわゆるインフィルの改善の状況を調査したものである。調査対象が4例に限られているのは気になるが、そもそも対象とすべき事例が少ないだけにやむを得ないであろう。特に意外性のある結果ではないが、次のスケルトンの改修キャパシティに関する研究と合わせると何かが見えてくるかも知れない。5374〜76は、設計内容の違いが改修に対する許容度にどう影響するかを、エキスパートジャッジメントの結果によって定量化しようとする試みであるといえる。その意義を否定するものではないが、第一人者の集合による研究だけにあえて辛口の評価をすると、今後の展開に対してはいささかの問題を含んでいるようにも思われる。 エキスパートに判断を求める場合、そのエキスパートは自分の経験に基づいて、理論の限界を越えた正しい判断をするであろうという期待がある。しかし未経験の対象についてはそのような判断の結果は必ずしも正しいとは限らない。いやむしろ正しいかどうかよくわからないというのが正しいであろう。今回の評価対象となんた集合住宅について、回答者が実際に改修工事をしたかどうかはわからない。また図面情報だけで果たしてどのような判断が出来るのであろうか。結局は巷間の「常識」で判断してしまっているという危険はないのであろうか。またIに関しては現状のものを前提としているのではないか。こうした制約の下での結果にどこまで意味を持たせられるのか。これが評者個人の疑問である。ここで求められたものは、SとIの分離を前提としてSの条件がいかにあるべきかということであろう。現状はIはSに従属した形で作られるが、もしシステムとして分離されるとSとIの間には力関係が生じるようになる。S側が多様なままであればIが柔軟に対応せざるを得ないし(時には対応不能もあるが)、逆にI側の対応能力が低ければS側でその多様性を排除していかなくてはならない。もしどちらも相手に合わせることがなければ、SIの分離そのものが成立しないことになる。結局はSとIの力関係のバランスをどの辺りに納めると考えるかである。システムをオープンにするときには、サブシステム間のインターフェイスの規定が重要であることは過去の研究が教えるところであるが、SIの場合にも同様のことが言えるであろう。今後SとIの相互の技術開発が混乱しないために、相互のインターフェイスに関する何らかの基準が提案されてもよいのではないかというのは、この発表を聞きながら感じていたことである。

小松幸夫(早稲田大学)

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■5380〜5385 空間把握など

「空間把握など」(5380〜5385)のセッションでは、空間の知覚・認知に関する研究3編、心象風景に関する研究2編、経路探索における場所のスキーマに関する研究1編が報告された。5380は、被験者に大学キャンパス広場の写真を見せて得た物的環境要素・雰囲気・行動に関する言語をもとに概念地図を作成し、言語相互の関連構造を明らかにしている。場所の知覚を理解する上で、言語の影響関係を検討することの意義について質疑がされた。5381・5382は連続報告であり、5381は、子供や大人が描いた心象風景のスケッチを基に、緑が想起されやすい場所の特性や、想起された緑と日常生活との関わりについて考察されている。引き続き5382では、心象風景に見られる緑と五感との関係について考察され、嗅覚や聴覚による体験との関係が深いという結果が示された。今後の展開として、スケッチの構図や緑との関わりについてより深い考察が期待される。5383では、特定のストリートファニチャーを消去した写真を被験者に提示し、その設置場所を類推させる実験を通して、ストリートファニチャーに関する場所のスキーマが抽出・分類されている。スキーマの分類におけるネーミングの妥当性や、研究対象とする場面設定の問題について質疑応答がされた。5384・5385は連続報告であり、空間体験において注目・記憶された空間構成要素が空間把握に与える影響を、建物内部における実験より検討している。5384は、写真撮影、イメージマップ、インタビューにより、被験者らが注目した空間構成要素を多面的に抽出しており、主に実験方法についての質疑応答がされた。5385は、空間構成要素の形状と空間把握特性との関係を調べているが、空間形状の分類に再検討の余地があると考えられる。当セッションでは、発表者と司会者との間の質疑応答が大半で、その他の参加者を交えた議論に発展しなかった。原因の1つに、5380、5384、5385は、実験・分析方法が複雑でありながら説明不足なため理解しにくかったこと。第2にセッションの構成に問題があり、相互に関心を持てる参加者が少なかったことが考えられる。特にスキーマの問題はwayfinding研究では重要なテーマであり、5383はそれら関連研究の中に構成した方が有意義な議論があったと思われる。

木多道宏(大阪大学)

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■5386〜5391 空間の計測

5386 は、欠席。5387・5388 は、通い慣れた道を対象にサインや地図ではなく、空間による認知距離の特性を明らかにしようという詳細な調査である。慣れた道では所用時間もよく知っていることもあるが、調査に影響を与えないかという議論があった。また「伸縮率」を時間距離で割ることに対する質問もあった。区間の傾向とその空間的情報との対応が明らかにされているが、上り坂の後の楽しい道はより短く、、といったシークエンシャルな傾向の分析へと発展が期待される。5389 は、前方がふさがれた「物体の前の位置の判断」として、特にテレビと壁の間についてのモデル化と実験による検証が報告された。今回は前方が塞いでいるのが背中をつけても座ることのできる壁であるが、「前方を塞ぐ」もの自体の方向性がある場合など、モデルの重ね合わせについても興味が湧いた。5390 は、人形をとその脇におかれた円柱の前に立ち、円筒の位置を答えてもらう。次にそのポジションを変えて答えてもらうという実験。答え方「自分の身体的方向」 「人形の方向」を使っているかを見ることで、概念上の基準を明らかにしようというものである。5391 は、複合商業施設を歩いてもらい、空間学習過程の特徴と空間のわかりやすさについて報告している。しかし目的地へという行動目標に対しての必要な情報を学習 している可能性があるという指摘がなされた。行動の状況に応じた学習過程の検討が望まれる。

長澤夏子(早稲田大学)

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■5392〜5402 光・音による空間分析


■5403〜5411 環境行動

5403、5404は建築・都市空間における人間と環境の関係についての発表であった。5403ではここ30年間の「新建築」誌に掲載された特徴的な公共空間を取り上げ、その設計コンセプトの分類と時代的変遷を考察している。コンセプトをキーワードとして6つに分類しているが、非常に近い概念があり、分類しにくいのはないかという質問がされた。5404は生活の中の「好きな場所」「重要な場所」において人々がその場とどのような関わり方をしているかを考察し、「好きな場所」を「自分の世界」と「別の世界」という枠組みで整理し、「別の世界との接触」を今後の計画の新たなキーワードとしてあげている。写真投影法ではなくアンケートで絵や文章を描いてもらうという手法についての質疑応答がなされた。5405〜5408は高齢者施設やその周辺におけるにおける高齢者の行動に関する研究の発表であった。5405は高齢者居住施設への入居により生じる環境の変化の不連続性を解消し、より豊かな環境を形成するために、被験者自身の「体験した場所」の写真がその一助となりうるかについて検討している。質疑応答では本文で使用された「ヒットする」という表現がやや不適切ではないかという意見が出た。5406は特別養護老人ホームにおいて建築的特性と入居者の生活様態との関係を分析し、それに引き続いて5407では入居高齢者の生活に言葉を当てはめて、「一人でいる」「寄り合う」「複数の中で一人でいる」に分類した上でそれぞれの行為を建築の関係を考察している。定位の場所として平面図上の領域の表し方について質問され、領域の大きさは精密な領域を表すのではなく、家具やスタッフとの絡みを示すものであるとの回答がなされた。5408は老人保健施設内で完結してしまうことが多い入居高齢者の生活を踏まえ、施設を以前生活していた街に近づけることが重要であるという認識に立ち、環境移行前後の入居者の社会関係の形成について分析している。質疑応答では「共用空間を従来生活していた生活していた街に近づける」方法について議論された。5409は児童施設における保護者の行動に関する研究の発表であった。これまで視点が子供のみにおかれていた児童施設について保護者の視点に注目し、その行動を物的環境、人的環境の両者により分析を行っている。対象施設についての質問がなされ、他の施設では親と子の場所がバラバラであることを踏まえ「親の居場所」をテーマにした施設であるとの回答がされた。5410では「Ecological Psychology」誌におけるaffordance研究の動向について発表された。生態心理学研究は大きく3つの分野から構成されているとしている。質疑応答では数学・物理学・哲学などに触れられ、幅広く活発な議論がなされた。

竹中むつき(大阪大学)

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■5412〜5419 環境心理・経路探索


■5420〜5428 内部空間

内部空間を中心に、空間の心理的評価や質に関連した様々な提案や試みの発表があったセッションである。5420(稲冨)の研究は、各方向の窓からの入射光の分布を周波数分布として捉える試みである。司会者より、対象とした茶室の様式との関係について質問があった。5421・22(井上、岡本他)は模型撮影装置を用いての空間シークエンスの研究である。司会者から、空間相互の関係性が問題となる場合は形容詞が中心のSD法では限界があるのではないかとのコメントがあった。5423(押田)は形態感情についての一連の研究で、今回は室内の家具配置を対象としている。評価項目と生活実感との関係についての質問に対して、SD法の一貫性のために評価項目を選定しているとの回答があった。5424・25(奥山、米倉)は美術館の吹き抜けに関する報告である。吹き抜けの心理的な意味、美術館らしさとの関係について質問があった。5426・27(槙野、川田他)は、住宅設計の場面において設計案が提示される手段(図面、透視図、模型)と施主のフィードバック(読みとりや要求)の関係を扱った研究である。会場から調査者のインタビュー能力の問題についてし、また司会者から、提示手段として言語的なものを加えてもよかったのでは・u毆)という質問があった。5428(竹内他)は、建築内部空間と被服デザインの関係を扱ったユニークな研究である。結果がどう生かさるのかという質問に対して、パブリック−プライペート空間の問題、さらには、ビルディングタイプとの関係へ発展させるとの回答があった。以上、空間をなんとか定量的に扱おうとする興味深い報告が多くあった。こうした果敢な試みは重要であるが、反面、安易な数値化が一人歩きすることによる弊害もありえることを考慮する必要がある。また、空間を評価するためには、従来使用されてきたSD法に替わる手法が必要とされてきているように感じた。

鈴木毅(大阪大学)

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■5429〜5437 外部空間

本セッションでは、集合住宅地や地下街等の外部空間を評価するためのさまざまなモデル化の試みについて発表があった。いずれも興味深い内容であったので、若干気になった点を述べさせていただくに留めたい。5429(吉田他)は、囲み型配置計画による集合住宅地研究の第1報である。物理的・機能的指標による囲み型配置の類型化は妥当な分類だが、むしろ今後の心理的分析によって、この分類がどう変化するのかということこそに興味がある。5430(本臼他)は、集合住宅地の外部空間の動線を、グラフネットワーク理論で分析しようという研究である。ただ、グラフの諸元と現実の空間との対応について、いっそう詳しい議論を期待する。5431(中村他)は、集合住宅地の外部歩行空間の中心線から両側20mの範囲にある諸要素を比較した研究である。生活を支える物的仕掛けの分布を探る面白いアイディアだと思われるが、「20m」という値が、逆に分析対象や結論を限定しているとも言えるのではないか。5432(島田他)は5431とシリーズをなす研究であり、歩行空間の評価を心理量によっておこなったもの。しかし、形容詞対によるこのような分析が計画行為の指標になり得るという結論は、著者たちほどには実感できない。5433〜5435(西村・水野・瓜生他)は、地下街の天井がもつ心理的効果についての研究である。地域差や時代差への配慮や、「好感度」なる指標の意味についてのより詳しい説明がほしい。5436・5437(積田・相澤他)は、「アーバンコンプレックス」の外部空間についての心理量分析である。分析対象の定義が曖昧なため、結果として得られた分類は、その施設の規模や中味の差異に相当するという同語反復に陥ってはいないだろうか。全体として、空間をモデル化することで失われるものへの配慮が不足しているために、現実の空間や設計行為から遊離した分析が多いような印象をもった。

花田佳明(神戸芸術工科大学)

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■5438〜5444 ゆらぎ


■5445〜5454 都市空間

5445・5446・5447(船越・積田・橋本・小林)は、京都の景観に関する一連の研究である。5445・5446は、京都の広域的なイメージ構造をエレメント想起法により分析している。質疑応答では、「洛東」が2グループに分かれるなど、クラスター分析により新たな知見が得られたことなどが報告された。5448(山本・舟橋・鈴木ほか2名)は、駅前空間構造を視覚的遮蔽面の次数をもとに類型化した研究である。質疑応答では、対象空間のサンプリング方法の妥当性について議論があった。5449(幸山・鈴木・舟橋・本多)は、都市空間の視覚現象をギブソンの生態学的視覚論にもとづいて類型化した研究である。質疑応答では、従前のシークエンス研究との違いがどこにあるのか、という点で活発な議論があった。時間の制約で議論が尽くされなかったことが惜しまれる。5450(内山・那須・八木)は、都市部商業施設を平面概形、通り抜け、入口数、レベル差の大小と空間の統合・分割で類型化を試みた研究である。5451(睦野・近藤・若山)は、「ヴォイド」の形態特性により都市空間を分析した研究である。「ヴォイド」という切り口で、地上、屋上に拘わらず横断的に都市空間を考えようとする意欲的な試みであった。5452(山田・奥田ほか4名)は、ランドスケープアーキテクチャにおけるシークエンスの記述を「水平面変化グラフ」「到達距離変化グラフ」「構成要素の重なり」により分析した研究である。5453(伊藤・畔柳)は、21件の伝統的日本建築における空間構成手法を、水の性質を活用方法から分類した研究である。5454(小駒・中川・井出)は、都市公園の利用形態を吸引力度(時間・距離・利用頻度の合成得点)から分析した研究である。特に後半の発表者にとっては、十分な質疑応答時間がとられなかったと感じられたかもしれない。司会者として心からお詫び申し上げます。

横山勝樹(女子美術短期大学)

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■5455〜5463 空間のイメージ

*5455−5463 空間のイメージ
*「らしさ」について5462−5463
本セッションは5455−5457三軒茶屋のイメージ構造に関する研究、5458−5459は千里ニュータウン計画除外地区についての環境イメージに関する研究5460−5461は飯山市におけるイメージや隙間空間に関する研究であり、様々な街におけるイメージ構造についての研究が主なものであった。また、5462−5463などのように日本人と中国人の建築空間に対するイメージ研究など比較文化的なイメージ分析もみられた。全体的に活発な質疑応答がみられた。5455−5457については主に心理環境の意味特性を探る目的で形容詞による条件想起法を用い分析している。神楽坂についての既往研究と比較して三軒茶屋「らしい」、「らしくない」といった問題をめぐっていくつかの質疑応答があった。またクラスター分析の使用の是非についても討議された。5458−5459については千里ニュータウンにおける問題点が既成事実としてあげられていることについてその論拠について、また空間の分類項目の基準についての質疑があった。5460−5461については主にレパートリーグリット発展手法、クラスター分析を用い、手町を活かしたまちづくりを行うことを目的としてそのイメージを調べたものであるが、既に良い印象のある寺町について、なぜさらに調査を行うのかといった研究目的についての質疑がみられた。5462−5463については日本・中国建築の中から多様な建築物を選定し、それらに対するイメージ分析により「日本らしさ」、「中国人らしさ」を探ることを目的とし、S.D.法及び因子分析を行い分析している。日本・中国建築の中からサンプルを選定しているがその数が少ないこと、また選定基準が曖昧であることについての指摘があった。しかし、自国のものは形・バランスなどに影響されているのに対して、他国のものは色彩に影響されるといった問題の捉え方についての評価がみられた。


杉浦久子(昭和女子大学)

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■5464〜5472 空間評価

本セッションでは,空間評価をテーマに発表がなされた。本報告では,発表された各研究の空間評価手法等を整理することにする。5464・5465(新田他・瀧他)は,建築ファサードを撮影したカラー写真99を被験者20名に示し,「らしい」と思われる用途を回答させるとともに用途の判別理由を指摘させ,指摘された項目(窓・壁等)に対応する物理量を計測し,それらの関係性を用途ごとに検討している。用途の「らしさ」という空間評価を物理量によって説明している。5466(谷内他)は,4種類の住宅吹き抜け空間を,CADを用いて高さを3段階に変化させることによって,合計12種類のCGを作成し,それらを14形容詞対によって評価させている。評価結果は因子分析を用いて整理し,考察を行っている。5467・5468(廣野他・渡邉他は,7つのアーバンコンプレックス(UC)を対象に,水平方向に45°刻みで8方向,俯角について0°30°60°の3方向,合計24方向からの視点で捉えた外郭線で表されたCG画面を作成し,それらを20名の被験者に提示して,UCごとに最も良い印象を受けた視点の順位を回答させ,さらに,俯角ごとに27形容詞対を用いて評価させている。視点による空間評価の影響を考察している。5469(川上他)は,被験者34名に対し,「周囲に対しておさまりが良い建築,悪い建築」と感じたものを,それぞれ数十件ずつ撮影させ,撮影された写真をおさまり感に関して再評価させている。5470(浜田他)は,建築の雑誌に掲載された作品のうち,設計者が自然要素と屋根との関係についてコメントしているもの等を対象に,屋根と周辺自然要素との関係を捉えて分類している。設計者のコメントに表れる内容を空間評価として捉えている。5471(楊)は,中国と日本の中世における代表的な画家の風景画170点を対象にして,描かれた庭園の構成要素の出現頻度を分析し,さらに中国文学に影響を受けた庭園の分析を行っている。作家によって捉えられた内容を空間評価として捉えている。5472(山家)は,インターネット上の仮想都市であるサイバースペース23サイトの空間表現構成要素と,5サイトの移動表現を分析し整理している。表現の道具として用いられる「空間」という形式の評価をしている。
               

山口 満(信州大学)

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■5473〜5478 空間構造

ポスターセッションとして実施された。空間の構造をなんらかの数理的形式を用いて表現しようと試みている研究の報告が大勢を占めた(5474-5477)。一方で、既存建築物の転用についての研究(5473)、三次元CGデータの制作過程についての研究(5478)、も含まれていた。5473は、転用された既存建築物のいくつかについて、用途変更、転用の背景、転用手法の構法的側面、ボリュームで捉えた空間形態の変化等を整理したものである。5474は建築物(特に海外の伝統的住居)の空間特性を分析する手法としてレーブグラフの利用を提案するものである。本報告は手法の概要説明である。5475は人口密度に変わる手法を提案しようとするものである。人口密度指標がスカラーであるのに対して面積と形態とを考慮できる指標の構築を試みている。本報告は指標構築のための数値実験の経過を示すものである。5476は展開すると筒状になる形態の単位モジュールについて報告するものである。そのような単位モジュールの条件が整理されている。5477はグラフを用いた建築平面の表現形式(隣接)の拡張をねらうものである。田の字型平面構成のように面と面が(線ではなく)点で接触する場合の表現手法を提案している。5478は三次元CGデータの製作過程におけるいくつかのパターンを画面上に示される透視図(またはアクソメ)に対する印象評価の変化の仕方を用いて表現しようとするものである。

藤井晴行(東京工業大学)

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■5479〜5485 空間モデル


■5486〜5492 人間流動・火災安全

今回、安全計画はポスターセッションとなり、幅1.8m高さ0.8mの紙面にカラフルに研究成果が発表された。発表No.5486〜5499について概要を示す。テーマは、「人間流動、火災安全、事故・災害」であるが、発表はバラエティに富んだものとなった。No.5486〜5492は「人間流動、火災安全」のほか「裁判事例、告諭」などに及んだ。「人間流動」は大学キャンパスと駅の実態を観察し、前者は周囲の環境(障害物や壁、手摺など)からの斥力と引力という形で高さからの因子を分析している。後者は列車の運行とコンコースなどでの滞留と流動の関係を分析し、設計に役立てようとしている。どちらも緒に就いたばかりで、今後の研究が期待される。「火災安全」は防災計画書からの、共同住宅、ホテル、病院、老人福祉施設の廊下形式と排煙方式、バルコニーの種類や有無、行き止まり廊下など、就寝を伴う施設の課題を抽出している。特に中廊下の排煙問題に言及している。
また防災設備に関する研究では設備の関連性が指摘され、煙感知器の種類により、非火災報と作動信頼性が裏腹にあることが問題として指摘された。「裁判事例、告諭」については建築主の意識と環境、構造、防火の争点などが示された。阪神大震災などで明らかになった部分も多い。告諭は罰則を伴わない規定で建築基準法制定以前に出されたものであるが、大火を契機に出され、北日本に多いことが明らかになった。今後も研究を期待したい。No.5492〜5499は「事故・火災」を扱っている。遊技施設事故では、原因・対策を物的・人的な側面から体系化した上で,日米の事故データの分析を行っており、日米の事故原因の違いが指摘されている。エレベーター・エスカレータ事故では、過去の事故データを本に、エレベーターは建物側の原因による事例が多く建物の安全対策が必要であるのに対し、エスカレーターは低年齢層で事故が多く利用者側の不安全行動が主な原因であることなどが指摘された。氷雪事故では、老人福祉施設における避難施設の管理状況を現地調査し、冬期の避難計画の問題点を整理するとともに、システムダイナミクスにより、屋外階段の積雪による避難障害を考慮した避難シミュレーションを行い、2方向避難のあり方など雪国の特有の問題点が明らかにしている。文教施設の地下利用では、近年増加しつつある地下空間での浸水事故を背景とし、近畿地方の美術館・図書館を対象として地下空間の利用形態と浸水に対する意識・対策をアンケート調査している。美術館・図書館は、地下に貴重な収容物のある場合が多いにも関わらず、浸水に対する危機意識と実施されている対策との間に隔たりのあることが指摘されている。
 

富松太基(日本設計)/掛川秀史(清水建設)

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■5493〜5499 事故・災害


■5500〜5506 姿勢・動作

5500は、建築人間工学の研究を行う上で必ずハードルとなる、日常生活行為での「自然な動き」をいかに観察するかに着目し、ビデオによる解析手法の確立を試みた一連の研究の1つである。本編では観察者条件に絞り検討を行っている。精緻な研究で信頼性も高いが、それ故に字数の限界から研究の全体像が見えにくくなっている。可能な限り具体的な生活場面などを織り込みながら論を進めると理解を得やすいと思われる。5501は、椅坐位姿勢の支持条件を、骨盤傾斜と胸部弯曲の相互関係に着目し考察を加えたものである。発表者は身体運動学をバックグラウンドとして持っているが、今後建築学との融合をどのように図っていくのか注目したい。5502は、ベッドの高さと介護者の姿勢に着目したものだが、介護姿勢や被験者である介護者自身の条件設定に問題が残っている。被験者の属性、特に介護経験者数は本研究の最重要点である。モデル式を示すのは、今後の研究を待ってからでも良かったのではないか。5503は、介助者が操作する車いす通過の必要寸法を、建具形式の影響に着目して考察を行っている。本研究以外にも、車いすと通路や開口寸法に着目した研究

布田 健(建設省建築研究所)

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■5507〜5513 浴室・階段


■5514〜5520 手すり・引き手

5514(横林、ほか)・5515(田中、ほか)は、引戸の引手の形状・寸法と開閉力の関係を計測し、開閉力が操作負担感に及ぼす影響について検討したもので、襖や障子など和風建築に欠かせない建具のユニバーサル仕様に資する研究である。しかし現実には引手以外に桟や建具の縁に手をかけて開閉する場合が考えられるため、研究の前段階として開閉方法や引手の役割について整理を行う必要があったのではないか。5516(大嶋、ほか)は手すりの太さ・高さに対する若者と高齢者の嗜好を実験によって明らかにしている。手すりの評価は、手すりの外観や設置場所および求められる機能に影響されると思われるが、本研究ではこれらの要素が配慮されていないのが残念である。5517(嶋田、ほか)は墜落防止用手すりの高さの必要条件に関する定量分析である。また5518(北田、ほか)は墜落防止用手すりの足がかり高さと成人の行動特性に関する実験研究である。後者については、研究の本質から見て現実に危険度の高い子供を研究対象にした方が効果のある結論が導き出せたのではないだろうか。5519(國井、ほか)・5520(八藤後、ほか)は縦手すりを使用した立ちあがり動作の身体的負担に関する官能評価および動作解析を行ったものである。建具・手すり関連の既往研究は数多く、本セッションの参加者にも継続的な研究を積み重ねてきた者は少なくない。反面、これまでの研究内容や実験手法のレビューが十分に行われていないために、研究の新規性や発展性が明らかでないテーマも見受けられた。今後は、先達の研究成果を活かした発展性・応用性の高い研究が進展することを期待したい。

阪東美智子(兵庫県立福祉のまちづくり工学研究所)

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■5521〜5526 滞留行動


■5527〜5532 歩行行動


■5533〜5537 探索行動・モデル

このセッションは近年進展が著しい情報技術を活用した探索行動に関する研究で、まだ発展段階ではあるがこの関連研究は年々発表件数の増加傾向にあり、今後の展開が期待される分野である。ただ、研究方法が情報技術やその分析方法に依存しているため、その研究に技術的な制約や限界がかかり、研究の本来の目的に至る前の実験的段階でもある。発表およびその討議も、活発に行われたが、その議論が探索行動研究の内容そのものよりも、情報技術の活用方法やデータ整理上質問が多くなされた。5533と5534は、仮想空間を複数の被験者が体験できる通信型のシミュレーションを行ったもので、探索行動の際の被験者間の情報交換をネットワーク上でデータ化している。これは通常の情報交換がデータ化されにくい点を新しい情報技術活用で可能とし、興味のある研究であった。ただ、情報交換の内容が仮想空間の内容に大きく依存し、空間の再現性が結果に大きく影響することが想定され、仮想空間を使った研究の有効性に関する質問があった。5535〜5537は探索歩行・歩行行動時における注視行動をアイカメラ・ビデオで分析したもので、実空間の被験者の視野をビデオ映像で記録し、データ化している。5535は実空間での探索歩行実験での注視行動を分類し、そのモデル化、シミュレーションを行っている。5536・5537は中心視に対する周辺視に着目し、それの作用を明らかにするための特殊な視覚の制限装置とビデオ映像を組み合わせた実験装置を開発し、その有効性の検討、および実験装置を活用した行動分析を行っている。結論として、両研究とも実験方法やシミュレーションの妥当性を論じているが、その内容は新しい実験方法の有効性を確認するには不十分であるように感じられた。質疑でも、視認後の注視行動の変化や環境の学習の程度など、注視行動に関わる諸因子との関連が多くあり、被験者の属性・状況、環境条件の違いなどの検討および、注視行動の再現性の検証方法なども含めた展開が望まれる。

森 一彦(大阪市立大学)

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■5538〜5544 群衆流動

5538(佐野他)は,JRターミナル駅の群集を横断する歩行者を観察し,横断の可否と群集密度の関係を明らかにするとともに,「空間−時間系ダイアグラム」で歩行者軌跡を解析している。この手法の実用性をいっそう高められることを期待する。5539(間下他)は,単独歩行者かグループ歩行者か,健常者か高齢者かに分けて,追い越しと交錯の歩行行動の違いをさぐっている。解析手法には工夫が見られるが,観測された事実の記述にとどまっていることが惜しまれる。5540(佐藤他)は,駅の自動改札の出場者に着目し,改札進入時の歩行速度,各出場改札機の利用率の変化,遠方改札機選択率を調べ,興味ある現象を明らかにしているが,群集密度と歩行速度の関係の値は従来知られているものと異なることを司会から指摘した。なお,5539と5540(同じ研究グループ)では,健常者と高齢者を対立的にとらえているが,問題がないか再検討願いたい。5541(青木他)は,ラッシュ時の混雑緩和と到達時間の短縮を目的として扉毎の乗降人員調査を行い,乗降分布と階段位置の関係を解明する試みである。長年の調査経験とデータの蓄積から,この手法では上限に近いよい予測結果を得ている。今回までの一連(11編)の成果をまとめて,計画系論文集等に投稿されることを勧める。5542(都築他)は自動改札口での流動係数(流率)と密度の関係を求め,その要因を分析するとともに,改札前に生じる最大滞留人数と滞留の最大長を求める式を提示している。5543(森田他)は,調査例が少ない中小通勤駅4駅において夕方ラッシュ時の自動改札前の滞留長さ,自動改札での流動係数(流率),自動改札前の密度,階段での流動係数(流率)を調査し,柵内コンコースの規模算定に必要な基礎資料を得ている。5544(長谷川他)は階段とそれにつながる通路の接合部付近での群集流動特性を調査し,階段における流動係数(流率)と階段幅員の関係式,許容密度以下となる幅員比(階段幅と通路幅の比)を示している。5542〜5544は一連の研究(その2〜4)となっているが,今後の展開を見通し,相互の関係を明確にされるとなおよいであろう。群集流動のセッションを4年連続で司会しているが,今年は例年にも増して討論が活発であった。特に鉄道関係者の明確な問題意識と,同業者間の真剣な質疑応答が印象に残った。また,毎年どこかのセッションで見られるのであろうが,私がたまたま参加した別のいくつかのセッションで熱のこもった討論が行われ,知的張感を味わうとともに,司会進行の重要さを再認識させられた。
               

吉村英祐(大阪大学)

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■5545〜5551 安全・避難


■5552〜5557 光・音・時間感覚


■5558〜5562 容積感

本セッションの発表内容は、いずれも空間の物理量と人間の感覚量の関係を実験的に検討したものである。5558(関戸他)と5559(丹羽他)は、空間の容積を表す新単位「包」に着目した連報で、容積の知覚に関する実験と、空間の印象評価に関する実験を行った。被験者は、基準空間をもとに容積が可変する比較空間について、その容積感の違いや印象を判断した。その結果、容積感の相対比較ではあまり大きな差異が認められなかったが、被験者の姿勢条件の違いによる影響が確認されたことなどが報告された。「包」が、空間を計る実用的な単位に発展するか、次報に期待したい。5560(彭他)と5561(橋本他)は、室空間における間仕切りが与える心理的影響に関する続報である。5560は、被験者の位置・姿勢の違いが空間の使い分けと開放感・閉鎖感の評価に与える影響について、5561は、被験者の位置・姿勢の違いが自分の居場所の確保と目障りの評価に与える影響について、実験室実験により検討した。その結果、開放感は間仕切りの高さや横幅の漸増によって閉鎖感に評価が変局することが検証された。自分の居場所の確保や目障りの評価は、被験者の位置や姿勢によって異なる傾向があることが認められた。多様な家具類に占められた実際の室空間の中で、本研究が今後どう展開するのかを期待したい。5562(加藤他)は、閉塞空間がボリューム変化した場合の期待感と物的条件の関係について、CGアニメーション映像を用いて評価分析した。その結果、地下施設などの閉鎖空間における期待感は、目的空間への通路の空間断面における高さ幅員比に強い影響を受けることなどが検証された。

 若井正一(日本大学)

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■5563〜5567 空間イメージ


■5568〜5571 ユニバーサル・デザイン

このセッションでの発表は、バリアフリ−デザインやユニバ−サルデザインについての設計のための研究ではなく研究資料の動向やそれらのデザインが建築の中でどの様な形で、どの程度実現されているかの実態調査及びその利用品質、ユ−ザビリティの概念などが浸透し評価されているかを論じ、今後の問題を追究している研究が集められていた。という意味では現実を踏まえようとした新しい視点の研究であるが、具体的な内容では、相変わらず手すりや段差の有無などに論点が行き着き、現在の人間工学研究の問題点に気づかず、容認している点が気になった。人が使いやすいということは、人間を抜きにして成り立つのであろうか。すべて機械にまかせセンサーで認知させ、機能を発揮させるシステムにすることが使いやすい良いデザインであると考えられていることに疑問をもつ。水栓1つを例にとっても、必要量の水が自由に使えず、一定量の水をしかもタイムラグをもって供給する「センサー付水栓」や、水はねが激しく水量の調節機能の幅の乏しい「レバーハンドル」、高齢者には使いにくい「タッチ式スイッチ」など、最近の人間工学的機器の開発は、人間の能力を無視して機器で代行させようとする手法が何の疑問も持たずに用いられている。人の能力をひきだし、その乏しい能力を有効に使い向上させることには興味がないようにみうけられる。それは人にやさしいといいながら、結果的には人を排除しているデザインになっていると考えられる。それらがユニバーサルデザインという名の下に多用され、便利さが追求され、人を無視し人間の能力を退化させるしくみに加担していると思えてならない。建築人間工学研究全般を見渡しても、そうした視点に疑問をもつ研究が全くみられず、どの研究も同じ方向を向いているのも気になることの1つである。
     

北浦かほる(大阪市立大学)

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■5572〜5575 住宅計画史

5572(青木)は『日本住宅の封建制』を取り上げ,後の住宅計画に多大の影響を与えた浜口の提案が「見当違いであったこと」を筆者自身が認めており,歴史的変遷をみても提案とは逆方向をたどっていることを挙げ,十分な現状認識が欠落した提案は方法を誤ることを提言している。戦後50年の住宅計画学を振り返り今後に示唆を与える発表である。5573・4(宇杉ほか)は,近代の住宅平面形の型が成立した経緯を,西山による武田博士の講義受講ノートと,西山自身が行った講義メモの記述内容を考察することから明かにしようとしている。「室方位図」を分析し平面型の形成期を明かにする着目点は理解できるが,歴史的な背景と根拠をより明確化し説得力ある論旨を展開する必要がある。5575(秋元)は,店舗付き住宅の計画に対する示唆を得るため,昭和初期に実施された設計競技「住宅附き商店建築懸賞図案」の計画案を分析している。歴史的な足跡から計画概念を再考しようとする試みは評価できるが,当設計競技の位置づけや分析結果の活用に関する計画学的な根拠をより明確化し,論文の意義が伝わるよう改善するのが望ましい。「住居・住環境」の区分の冒頭に位置づけられた当セッションは,歴史的題材を基にして「住宅計画」の概念や方法を問い直そうとする研究であった。「住宅計画学」を問う発表は今後も重要といえよう。

                沢田知子(昭和女子大学)

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■5576〜5582 ライフステージ・ライフスタイル

 7題の内、前半がライフステ−ジに、後半が個室のライフスタイルに関する論文であった。質疑、討論も比較的活発に行われたが、十分な議論をするまでには至らなかった。時間不足も一因と思われるが、発表内容の一部に、計画的な主張の明確でない発表も含まれていたことも大きな要因と思われる。以下、発表内容を列記し、若干のコメントを付記する。5576(鈴木など)の研究は、家族構成の変化と住宅変更の実態から、変化がライフステ−ジにより異なることを報告。会場からも指摘があったが、計画にどう結びつけていくか明快な説明が欲しかった。5577・5578(沢田・丸茂など)の研究は、3LDK・4DKの比較的大きな住戸の居住者は標準世帯ばかりでなく、壮年・高齢期の居住者が多くなっている実態を報告し、標準世帯を対象としたnLDK型平面一辺倒で供給されている大型住宅の現状批判の論文。その通りであり、非標準世帯用平面の提案等今後の発展を期待したい。5579は、欠席。5580(鹿戸など)は、「個室の装いと満足度」について女子大生にアンケ−ト調査した報告論文。結果をやや断定的に記述している点が気になった。5581(山崎)の研究は、夫婦別寝に対する希望と実態とで調査者(女性)を類型化し、夫婦間の会話頻度や親密度との関係をみた論文。住戸計画にどのように提言するのか今後を期待したい。5582(市川・小谷部など)の研究は、「個室群住居論」に相当する都市居住を調べ、住居は都市居住の拠点の1つであり、他の拠点との相対関係で住居の意味も変わること主張した論文。他の拠点を「親の家」としている事例が相当数あり、調査対象者が本当に「個室群住居」居住者かという疑問が残った。

笠嶋 泰(大同工業大学)

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■5583〜5591 ライフスタイル(子供室)

このセッションでは、住まいにおける子ども室の位置、家具保有や家具配置等の物理的現状、および、それらを子どもの生活(住まい・地域)との関連で捉えた調査・研究の発表が中心であった。これらの発表に対し、数多くの質疑応答があったが、そのいくつかを以下に紹介する。「子供室の位置からみた住空間の子供に及ぼす影響について」(5583)では、「「空間的要因」(子供室の位置・形態)が最も大きく関連する「生活的要因」(食事状況、就寝形態、家事参加等)はどのようなものか」という質問がなされ、発表者からは、「直接の関連は検討してないが様々な「空間的要因」のマイナスを「生活的要因」が補う状況が見られた」といった返答がなされた。 また、「子供と家族との接触・コンタクトが生じるかどうかは,そこに人がいるかどうかに影響されるであろうが、時間帯との関係はあるか」との質問に対しては、今後の研究課題とするとのことであった。「子供室における家具の保有率に関する研究ーライフステージと平面型による考察」(5584)では、「家具保有率の違いについて室面積以外で対応できる方法があるか」の他に、「就寝形態と子供室の位置との関係、家具利用者についてはどのようになっているか」等の質問がなされた。前者に対しては「ライフステージによる家具保有率の違いに加えて、平面型による違いを今後分析していきたい」とのこと。また「これを含めて今後の課題として行っていきたい」とのことであった。「住宅におけるこどもの空間に関する研究ーその家族のために設計された住宅における思い出を通してー」(5585)に関しては、「幼児の空間認知は未熟であると思うが、部屋のつながりまで理解しているか。対象とした「子ども」とは何歳くらいの頃か」に対し、「12歳ころの思い出」との返答がなされた。しかし、「12歳はすでに空間認知が刷り込まれた後ではないか」といった質問、「部屋のつながりよりも物も対象とすべきではないか」や「部屋のつながりより、むしろ記憶に印象付けられた空間認識がインプットされているのだと思う」等の意見や感想が述べられた。「中高生の生活と居場所に関する研究」の一連の発表(5586〜5588)に対しては、「居場所の定義をどう考えるか。中高生の居場所の切り口をどう考えているか」の質問がなされ、「中高生自身が居場所をどう捉えているかを聞いている」ということ、また、「空間と家族(友人)があいまって居場所ができていると考えており、実際の生活の場所は友人と学校が多く、中高生にはそれ以外の居場所がないようだ」との答えであった。さらに、地域施設における調査方法・調査時間(答:普段の利用時間である)、ロビー利用に女子が多い理由(答:今回調査では多かった)、中高生の施設としてビルディングタイプの施設が成り立つと思うか(答:地域の特徴を考えるべきである)、中学生と高校生の違いはあるか(答:中学生は外出しない。男子の方が女子より家にいる。それはテレビゲームをしているためではないか)、等の質疑応答がなされた。「女子大生の自室における家具の配置の規定要因」の連続する3発表(5589〜5591)に関しては、「家具の配置は面積や方位、住居形態によっても違うと思う」といった問題提起や、「設計のチェック項目をつくることを目的としているのであれば、すでに作成されているのではないか、研究目的は何か」との質問がなされ、「設計者の考えている、あるいは予想する以外の事実があるのではないかと思う」といった返答がなされた。以上がこのセッションの主な質疑応答の内容であるが、全体として質疑応答の時間が短く、なかなか議論を深めるまでにいたらなかったのが残念であった。

山崎さゆり(調布学園短期大学)

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■5592〜5597 ライフスタイル(台所・畳空間)


■5598〜5604 輸入住宅・戸建住宅の計画


■5605〜5613 高層住宅・都心居住


■5614〜5621 戦前の住宅計画・居住過程

5614〜5616は住宅営団が対象。5614(北山・大月)は文献調査から営団が計画・設計・生産の各段階での合理化されたシステムの確立を目指していたことを示した。5615・5616(塩崎・矢田・中山)は大阪支所の事業に注目し、営団の宅地開発による隣接地域への影響の考察と開発住宅地の敷地特性について営団設計基準及び関東との比較分析を行った。これら発表に対して当時の規格・基準を現在でどう捉えるかとの質問があった。5617〜5619は同潤会アパートが対象。5617(河合・大月)は清砂通りアパートでの各号館独自の住環境運営に注目してその形成過程を詳細に示すと共に、共用空間の使い方が各号館の居住者像と運営方法にも因ることを明らかにした。5618(大垣・宇杉・紫牟田)は囲み型住棟配置に注目し、囲み空間のウチ・ソトと住戸内部空間の私・公の関係からみた空間構成要素による囲み型のタイプ分けを行った。会場からは対象選定理由とタイプ分類という分析方法に関する質問があった。5619(後藤・高橋)は単身者専用の(旧同潤会)大塚女子アパートを対象に、共用空間の使いこなし方を個人の行為依存場所と物理的・社会的環境条件との関係から考察している。会場からは古い住宅での現代生活の様相をどう捉えるかとの質問があった。以上の歴史的観点を内包する住宅研究に対して会場から研究のねらいが問われ、昔のものを今に結びつけ展開することの危険性や歴史を記録することの価値の高さを指摘する意見があった。5620(曽根)は追跡調査によりパイロットハウス居住者の経年変化を捉え、家族タイプの多様化の現状を報告した。会場からは家族タイプと住戸プランの関係について質問があった。5621(安田・古谷)は公団賃貸住宅での住まい方をモノに注目し、個人の領域形成や世代間の収納感覚の違いを考察している。会場からは世代間での違いの理由に関する質問や表出と散らかりを見極めることが必要との意見が出された。このセッションでは会場からの質疑や発表者間での討論等活発な議論があった。

浅沼由紀(武蔵工業大学)

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■5622〜5627 集合住宅計画事例


■5628〜5634 住環境の形成


■5635〜5643 住環境の変容・共用空間

5635〜5636(柴田・東方ほか)は、郊外戸建住宅地の変容の実態を通して、環境秩序を形成・維持・変化させる要因について考察。その1では一般的な住宅地、その2では街並み協調型の住宅地が対象。変容の差異と、分節規模などのフィジカルな条件やコミュニティとの関係について、さらなる考察が望まれる。5637(三宅ほか)は、公団ひばりが丘団地を対象に、外部空間や公共施設の利用実態と居住者の要望を調査。図書館や出張所の利用が多いことを報告。5638(在塚)は、住宅営団三和町住宅地内の小公園の時代的変化と住民運動との関わりを考察。住み続けることが可能な住宅地形成の条件について、考察から得られた知見を分かりやすく示してほしい。5639(池添ほか)は、基盤再整備住宅地(昭代団地)における居住者の住環境への関わりを時間経過の中で考察。計画単位としての住区や街区の明確化が、居住者の管理意識に好ましく作用していることが報告された。5640〜5641(柳橋・谷口ほか)は、既成住宅市街地内に点在する身近な公共オープンスペースに着目し、その1では面積・形状・活動領域・遊具等の現状について、その2では開放性に関して接道と透視性の状況を大量調査のデータを基に報告。5642(吉田ほか)は、多摩ニュータウン内の住区を対象に、街区内道路および駐車場とプレロットの配置関係特性を、50m圏と100 m圏を組み合わせて分析。ペデからのアクセスが十分に考慮されていない実態を報告。5643(谷口ほか)は、近畿圏で過去5年間に分譲された集合住宅での子育て支援施設やサービスの付設実態を報告。キッズルームや電話健康相談など、1割強の集合住宅に付設。
     

 初見 学(東京理科大学)

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■5644〜5649 住環境評価


■5650〜5655 集落構成

集落構造に関する研究に対しては、全く素人の司会者ですが、素人なりの感想を述べておきます。
・ 5650(丸茂他)は柳川の水路と屋敷との関係を論じたものである。一本の水路の上流から下流に向かって屋敷の格に従って配列され、取水、排水、庭への取水等さまざまな利用形態が混在して使われていたことは容易に想像される。問題は「水路と水の流れを維持する」という原則が、とくに飲料水として使われていた時代の日常生活の中でどのように決められていたかについて、より具体的に論ずることが望まれる。・ 5651-5653(江崎、吉田、島田他)は終戦食後の沖縄、小湾集落が接収され、強制的に移住させられたケースの村づくりに関する調査である。伝統的な「クサテ思想」による村づくりが、非常に困難であったことは容易に理解できるが、その中にもしぶとく生き残る思想の断片でも、見つけることはできなかっただろうか?・ 5654-5655(牛窪、菊池他)は、沖縄の伝統的な集落の構造を規定する重要な要素として、村落シーサとウタキを取り上げていて興味深い。今後の新しい街づくり(将来、基地返還が進行する場合を含めて)のために、どのように活かされうるかという考察に発展して欲しい。

志水英樹(東京理科大学)


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■5656〜5662 積雪寒冷地の住宅計画

このセッション7題は、積雪寒冷地という厳しい環境条件下での住宅計画をいかに考えるか。研究発表のエリアは、北海道(5題)と秋田県(2題)。建築種別は、戸建住宅と集合住宅を扱ったものに2分され、研究は、相互の関わりがあるもののプライベートな領域に接続するセミパブリックな空間の現状(5656〜7)、雪処理対策(5659〜5660、5662)、高齢者に関わるもの(5658、5660〜5662)に大別できる。積雪寒冷地にあって閉鎖的になりがちな住環境に関し、[近年開放的動向や個の公への表出]が見られることを、5656〜7が戸建住宅と集合住宅において調査研究している。戸建住宅では雑誌に掲載された近年の設計図書から空間構成を抽出し、その空間ヒエラルキーが公的に向かっていることを手法の系統図作成により導出、「設計計画に近隣コミュニケーションを誘発する姿勢」があることを指摘している(5656)。集合住宅にあっては、空間の公私の区別が戸建住宅ほど序列的ではないが、公的とされている通路空間に緑など私的あふれだしの現象を見ることにより「玄関まわりの個性化とイメージアップ、近隣との接点を希求していること」を指摘、設計計画にあたって、玄関前の公的空間に敢えて「柱の凹凸やアルコーブの必要、陽光に配慮した方位性」が北の地方にあって大事なことであるかが解る(5657)。雪処理対策については、積雪寒冷地の戸建住宅にあって深刻な問題であり、その方策が模索されている。自力で行うか人の手を頼んで行うか、またハード面での雪落止めや無落雪、融雪などさまざまな対策が試みられている。それにも拘わらずその問題や苦労は解決していない。「自力方策では機器に頼る融雪装置の設置や他力の業者依頼」、それも適わぬときは「戸建てから除雪負担のない集合住宅への移転へ」と傾斜している(5659)。高齢化社会での居住形態は、高齢者単独と家族同居になり、近年の設計資料では高齢者が単独でも行動しやすく、また家族そして近隣とコミュニケーションのとり易い位置と形態が表われている(5658)。しかし要介護がすすむことによって当然介護者の負担が大きくなり、福祉サービスを含めた介護分担が必要となってくることがわかる。そして雪処理の難しい豪雪地帯では、高齢者の居住継続の在り方まで求められている(5661〜2)。こうしたことは高齢者や家族の「体力と経済性、近隣との関係、その地への愛着度」によって対応策が決まってくるが、今後ボランティア・NPOそして季節型労働者による援助など地域でカバーするシステム、制度が必要とされる(5660),(5662)。

永瀬克己(法政大学)

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■5663〜5670 環境心理・環境行動から見た住まい


■5671〜5677 民家の継承と再生


■5678〜5682 環境との共生


■5683〜5689 北京の四合院


■5690〜5696 中国南西部・タイ山地の住宅


■5697〜5702 東南アジアの都市高密住宅


■5703〜5710 東南アジア島嶼の住宅


■5711〜5718 南アジア・アフリカの住宅


■5719〜5725 中国・台湾・フィリピンの住様式


■5726〜5731 地域の住宅・建築計画


■5732〜5740 高齢者・身障者住宅

5732〜5740は高齢者・身障者居住に関するものである。 5732は在宅での高齢者と、それを介護する人の生活の関係に着目し、負担の多い配偶者や介護する子の生活への配慮と、その間での介護の交代を視野に入れた可変性のある空間構成の必要性を論じている。5733と5734はアルツハイマー型と脳血管性の2つの型の痴呆性高齢者の在宅の住み方の調査報告で、寝室配置や団らん室との位置関係では、脳血管性型に他者との近接化傾向が、アルツハイマー型には回避化傾向が見られることを指摘し、住宅計画にあたっては、2型間の要求の相違に配慮することが重要であることを述べている。従来の痴呆性高齢者の在宅生活の研究を一段と深めた点が評価される。5735は親子同居の居住形態が多い韓国にあって、同一敷地内で分家する習慣が見られる済州島での調査を通じ、今後の韓国での隣居型親子二世帯居住の可能性を探っている。同島においても親子両世帯とも設備の近代化、生活の利便性追求、プライバシー確保の要求は強いとの報告。5736と5737は親子両世帯が距離的に離れながらも密接な関係をもちつつ居住する(筆者らはこれをサポート居住という)ものが少なくないことを指摘し、この観点から西日本の市町村の住民課調査を通じて最近の両世帯の居住位置関係の動向を探っている。特に子世帯が親元と自らの就業地との中間に居住する「準近居」の増加が目立つこと、それと都市特性との関係の分析が興味深く、研究の深化を期待したい。5738はシルバーピアに居住する者が、居住期間の経過と共に健康状態、意志の疎通、記憶などがいかに変化するかを詳細に捉えた記録で、膨大な事例の確保が結実して入居後の諸活動の変化と時間との関係がクリヤーに把握されている。5739と5740は全国の自治体に対して身体障害者向け公営住宅の供給の実態を問うた結果の報告で、供給戸数の不足、多様な障害への配慮の欠如、ハードとソフトの一体化の不徹底を指摘し、問題解決の一つの個別対応設計に自治体は関心を寄せつつも、供給実態はまだまだ不十分なレベルにあることを指摘している。
        

志田正男(東北工業大学)

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■5741〜5748 高齢者と地域環境

(5741、王青ほか)による、在宅高齢者の閉じこもり現象の一因が、ヘルパーなど他人の介入や自宅内への来訪に否定的な姿勢をもつ家族の心理にもあるとの指摘は示唆的である。(5742〜5744、内田・西出ほか)による、機能面にとどまらない高齢者の居住環境のあり方を求めるために、高齢者と地域との様々な相互作用を「とりつぎ」なる概念で捉えた点はユニークである。今後、「とりつぎ」概念の厳密な定義、データの定量化によるより高い客観化が望まれる。(5745、5746、志田ほか)による、農村部や郊外部に比較して都心部居住高齢者の近隣との交流密度が薄いとの指摘は、今後の地域施設・環境整備にとって有用な知見である。(5747、渋谷ほか)による、高齢者にとって住み慣れた環境の記憶との心理的な連続性を有する居住地更新計画が重要との指摘は肯ける。写真投影法以外の方法との複合による精緻な実証が望まれる。(5748、狩野)による、都市在住高齢者の転倒事故において、比較的元気な前記高齢者による自宅外の事故が多いこと、また同伴者の行動ペースに無理に追随するすることから事故が発生するとの指摘は有・u毆)用である。これら高齢者の生活環境についての研究対象は要介護高齢者と比較的元気な高齢者に大別されるが、今後は、これまで研究の蓄積に乏しい後者に力点を置き、高齢者を対象とする生活環境のシビルミニマムの形成を追究することが望まれる。

上和田茂(九州産業大学)

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■5749〜5755 住宅改善1

いずれも高齢者・障害者のための住宅改善に関連した研究報告である。5749(我謝他)は那覇市の助成事業利用者の改善プロセスを把握し、理学療法士の役割や、申請者・施工業者の意識により改造過程が異なることを示している。5750(橋本)は、英国のロンドン市およびノッティンガム市のHouse Adaptationに関わる仕組みや支援制度の詳細を調査している。5751、5752(青柳、増子他)は、福島県内のリフォームヘルパー制度に関連して、前者は利用者に対する訪問調査から寝室を改造したケースを報告している。また後者は、制度に協力した施工業者にアンケート調査を行い、保有する知識や今後の意向などを把握している。5753(星野他)は住宅相談のケース記録の分析から、建築関係者と医療・福祉関係者の対応方法を比較し、建築関係者は身体特性の把握が不十分になりがちなことなどを指摘している。5754(西川)は、広島地域の建設業者にアンケート調査を実施し、バリアフリー住宅への改造工事で最も難しい箇所は「開口部の拡幅」であることなどを把握している。5755(宮本)は、滋賀県の住宅関係事業者にアンケート調査を行い、長寿社会対応住宅設計指針への対応や意識を把握しており、住宅メーカー等と大工では対応の違いが大きいことを示している。本セッションでは、多様な地域の住宅改善の取り組みや関係者の意識について報告があったが、介護保険開始以降、各地域の仕組みは大きく変わっている。このようにそれぞれの動向や課題を報告・意見交換し、個々にそれを持ち帰ることで、各地域にあったよりよい仕組みづくりにつながることを期待したい。

蓑輪裕子(東京都老人総合研究所)

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■5756〜5760 住宅改善2

5756(向野他)は、マンションとケアハウスの高齢居住者を対象に一律的な高齢期対応の必要性に関する調査を行い、現状評価に差異はみられず、マンションでは将来、ケアハウスでは現在必要とする率が高く、年齢や健康状態は段差解消や手すりの設置要因にならないとしている。データに基づく論述がされず、説得性に欠ける。5757(橋本他)は、高齢者・障害者の身体状況と動作能力を5つに類型化して、浴室改造前後の入浴動作変化を行為度と自立度という指標から考察し、自立度が特に低いグループの改善は困難であることを指摘している。5758(村井他)は、5757の行為度と自立度の関係を動作能力別に比較し、行為度は概ね向上しており、自立能力がある群では自立を促進、入浴が困難な群では介護量を軽減していることを明快に示している。健康状態・障害種類、浴室の広さや形状による影響や、身体機能、心理面に着目した評価が必要という質疑などがあった。5759(中他)は、リホームヘルパー制度を活用した上野市の住宅改修事例のうち、町家型、田の字型など6事例の改修内容や生活の及ぶ範囲の実状を報告している。5760(箕輪他)は、本人または介護者の生活・動作、気持ちに関する4次元、27項目に対する評価結果をもとに住宅改造効果を客観的に捉える指標を検討している。改造後3年、5年という状態における影響などの質疑があったが、尺度の妥当性など今後の課題が少なくない。
       

無漏田 芳信(福山大学)

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■5761〜5765 住環境の管理


■5766〜5772 集合住宅の計画・供給手法


■5773〜5777 スケルトン・インフィル型のハウジング


■5778〜5786 ストック改善・再生


■5787〜5795 住まいとまちづくり

本セッションは、住まいからまちへ、生活からまちへの連続的視野の中で位置付けられる研究として括られるが、その対象や視点は多岐にわたり、まとめて議論するのは難しい。5787、5789は伝統的な建築物活用の視点からの研究であるが、この場合、それらの地域資源を如何に現在の生活に結びつけるかという点が重要になってくる。一方で、5788では、住民の行動規範に注目し、伝統的街並みが残る地域と景観条例による街並み形成を目指す地域を比較することで、景観条例の有効性を高めようとしているが、伝統的建築物そのものの活用ではなく、住民と環境との関係性をこれからのまちづくりに活かそうとしている点で興味深い。また、5795は、まちの風景や住民の心に刻まれた思いも含めて、まちの特性を映画という媒体を通してあぶり出そうとしており、生活とまちの接点という意味では実態の掴みにくいアプローチであるため、今後の進展が注目される。5790、5791は、「都市らしさ」再生には路地、横丁、街角といったアーバン・ティッシュの存在が重要であることを、江戸の街と近年のプロジェクトを分析する中で述べているが、やはり、生活と密着した路地の延長線上に生き生きとした街があるという概念を、具体的にはどのような手法で実現していくのか、これからの展開が期待される。福祉的視点にたった生活とまちとの関わりとしては、5792、5793では、障害者施設と商店街との共存関係を店舗改造というハード面の環境整備状況から考察し、5794では、地域の相互扶助的ネットワークというソフト面での環境の中で高齢者が生活する構造を明らかにしている。地域特性を要件としながら成立してきた環境を、今後支援、発展させるためには、行政や専門家の役割等を含め、システムとしてどのように捉えていくかが課題となろう。

福田由美子(広島工業大学)

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■5796〜5804 参加型の住まいづくり


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