建築計画ニュース046

−2002度 大会報告特集号−

日 本 建 築 学 会
建築計画委員会


1.建築計画部門 研究協議会

「これからの計画系教育はどうあるべきか―計画教育の変革のビジョン−」


2.建築計画部門 パネルディスカッション

「社会制度と空間デザイン―住宅と都市のグランドデザインをどう構築するか―」


3.建築計画部門 研究懇談会

「コンバージョンによる建築空間の再生」


建築計画部門 研究懇談会

「コンバージョンによる建築空間の再生」

報告者 角陸順香(東京大学)

 本研究懇談会は、8月4日(日)9:00〜12:00に開催された。司会は小畑晴治(都市公団総合研究所技術センター所長)、副司会は石塚克彦(積水ハウス滑J発事業部)のもとで、主旨説明後に総説、主題解説及び討論が行われ、全体のまとめが行われた。

主旨説明:松村秀一(東京大学)
 既存の建物を異なる用途に変えて再生する「コンバージョン」をテーマに取り上げた理由は2つ。近年注目されている既存のストックの有効活用(リノベーション)という観点、既存のオフィスビルを住宅に転用する例は海外では多く、都市空間の再生に寄与するという点から、都心部のオフィスビルを住宅にコンバートすることによって住民(生活者)を再び都心に呼び戻し、業務都市として発展してきた街を生活都市として再生するのにコンバージョンは役割を果たしている。その観点から、都市再生のための有効な手段のひとつとして、既存のオフィスビルを住宅に変えていく、ということを考えた。
 東京を例にとれば、2003年問題、品川、汐留、六本木などで行われている大規模な複合用途のプロジェクトをみても、ほとんどがオフィス床であり、さらに余るのではないか、と指摘されている。さらに2010年問題、オフィスで働く人の人口が減る為に、またオフィスが余ってくると予想されている。
 日本のそれぞれの都市でオフィスがあまってくる事が予想され、これを住宅に転用していけば、都市のあり方そのものも、次の時代に向けて変えていけるチャンスと捉えることもできる。
 本懇談会の論点は@取り壊して建替えるほうが容易では、という疑問に対しての考えA海外事例は数多いが、日本特有の障害は何かBどういう建物がコンバージョンに適しているのか、という建物特性C地方都市の中心市街地でのコンバージョンの可能性Dコンバージョンは建築の設計手法をどう変えていくのかEコンバージョンの進展が社会にとってどんな利益をもたらすのか、等とし、広くこの問題を議論するきっかけとしたい。

主題解説
@ 主題解説1 海外事例
「コンバージョンによる都心再生−ニューヨークの場合」 脇山善夫(東京工芸大学)

 紹介:超高層ビルの調査でNYに行き、超高層ビルがほとんど壊されておらず転用されていることに気付き、調査の観点がコンバージョンに移った。
 超高層オフィスビルの建物と敷地の長期利用に関して調査する上で、大規模な改修工事を行ったり、コンバージョンを行ったり、あるいは解体そして建替えを行ったり、という一連の動きを見てきた。
 超高層ビルを長期にわたって使っていく上で、どういう風に利用されているのか、ということを調べていて、そのままオフィスとして使われる、大規模な改修が行われる、あるいは壊される、という一連の動きを見ていて、その中でコンバージョンという行為があったので、全体の大きな流れの中でコンバージョンを位置付けられるのではないか、考えて捉えている。今日は、取り壊された超高層ビルを紹介後に、コンバージョン事例を紹介する。
事例1 シンガービル(超高層オフィスビルの取り壊し事例)
 NYで取り壊された超高層ビルは10本。シンガービルは1908年竣工。マンハッタン島の南に位置する。47階。186.5m。当時は世界一の高さ。全くの新築ではなく、既存の建物にタワー部分を増築するかたちで造られた。平面積はかなり狭い。1967年から1968年にかけて取り壊された。そこまでビルが存続した要因は、ロワーマンハッタン地区の中で、非常に目立った建物であり、絵葉書にも沢山取りあげられて、ランドマークとして重要なものであった。建設から50年経過後に100万ドル超かけて改修工事をしており、その後も使いつづけて行く姿勢が見られた。しかし、1960年代から、ワールドトレードセンターの敷地、チェイスマンハッタン銀行の建設などによって周辺地域の利用価値が上がって、その後様々な超高層ビルが建てられているが、USスチールの社屋の建設計画があり、これが取り壊しの要因の一つであると言える。また、シンガービルを含む区画が容積率の余っているものが多かったこと、1962年にビルオーナーのシンガー社がビルを売却、移転してしまったことも要因としてあげられる。敷地の説明。シンガービルの取り壊しというのは、「経済行為の手段としての超高層オフィスビル」と考えられる。しかし、シンガービルの取り壊しの頃から、アメリカでは歴史的遺産、ランドマークの保存をしていこうという動きが強まったので、必ずしも、「シンガービルの取り壊し」は「経済行為の手段」としてだけ捉えられるものとは考えていない。
事例2 TIHT(超高層オフィスビルのコンバージョン事例)
 47階建ての超高層ビルをコンバージョンした、コンドミニアム・ホテルとコンドミニアム・アパートメントの複合施設。マンハッタン島のセントラルパー クの南西の角にあるコロンバスサークルにある、東側にはセントラルパークの風景が見える。ら色1968年建設のガルフ・アンド・ウエスタン・ビルは、建設後か々な問題があった。大規模な再生を行うまでの問題点は、てお@非対称性及び剛性不足による揺れがあったA耐火被覆としてアスベストが使用されり、その健康被害が懸念されていた画がB低層部分の外装、大理石やカーテンウォールが劣化していたCオフィスとしての条件不足、設備や平面計時代遅れになっていたいうD床面積8割を占めていた最大テナントの転出Eオフィスビルに対する需要が弱化してきた、などがあげられる。GWビルとオフィスビルからのコンバージョンを決定するにあたってどんな要因があったのか。現行条例下では容積率が既存不適格であったので、ボリュームを増加させない範囲で改修しなければならなかった。また、オフィス需要が弱化していたため、集合住宅などへの転用が考えられるようになったが関連条例によって、集合住宅の容積率は1200%までとなっていたので、ホテルと集合住宅の複合施設となった。
工事内容:アスベスト除去のため、躯体のみ残して、カーテンウォールやEVの設備を全て取り払い、スケルトンのみの状態からコンバージョンを行った。揺れへの対策としては各階5箇所に耐震壁の設置、或いは床の増し打ちをした。低層部分がコンドミニアム・ホテルで、高層部分がコンドミニアム・アパートメント。下から順に工事をして、ホテルが出来たら、ホテルだけ運用して、上の階を造っていくために、設備部分は別系統となっている。セントラルパーク側の住戸数を増やして、それぞれの単価を上げられている。現在ある条件を十分に生かして、状況をうまく読み込んだ改修計画が行われている事例である。各専門主体が持つそれぞれのノウハウが活かされており、物件の状況を十分に把握したコントラクターによる提案があり、「Time is money」を最優先とした工程及び工事計画が行われた。
事例3 ロワーマンハッタン(超高層オフィスビルの地域規模でのコンバージョン)
 マンハッタン島の最南端。NYに最初に超高層ビルが建て始められた地区、逆に言えば、古い超高層オフィスビルが多い。それに対してミッドタウンは1930年頃、ロックフェラーセンターが建てられ、戦後に超高層ビルが多く建てられた。TIHTはこちらにある。

 シンガービルの取り壊しには「経済行為としての手段」というだけでなく、「歴史的遺産の保存の動きを誘発する要因」という意味合いもあった。TIHTの再生は、現在ある条件を十分に生かして、状況をうまく読み込んだ改修計画が行われている事例であった。ロワーマンハッタン再生では、行政による資金的な優遇策が非常に手厚く行われているだけでなく、コンバージョンを行う事を宣伝する為の主体、NYにおいてはAlliance for Downtown New YorkというNPOの存在が大きい。また24時間都市として成立させるには、生活環境の整備が課題とされている。


A主題解説2 海外事例(スイス)/「チューリッヒにおけるコンバージョンと都市再生」 澤岡清秀(工学院大学・建築家)
 1990年以降のチューリッヒ市における工業用途建築のコンバージョン事例の実地調査から、地区レベルでの再生について述べる。建物単体の5事例、チューリッヒ・ウエスト地区の再生について紹介する。スイスではコンバージョン・ビジネスはまだ成立しておらず、小規模な産業用途の建物を複合用途に転用する事例が多い。スイスのコンバージョンを支えるロジックを概観する中で、ロフト的空間の持つ付加価値、古い物と同居することを好む傾向、現行法では得られない容積率などの実利的側面、モニュメントの保存と登録・指導制度との関わり、エコロジーとサステナビリティとの関わりを見た。
 

B主題解説3 海外事例(イギリス)/「都市問題とコンバージョンの政策誘導 イギリスの事例を中心に」 南一誠(総務省)
 英国ではコンバージョンは、再開発による建替や大規模な住宅を小世帯用住戸に分割することと並ぶ、住宅供給の重要な手法に位置付けられている。ロンドンはコンバージョンの先進的な土地で、産業面でも既にコンバージョン専門のディベロッパーが成長しており、政府も税制上の優遇措置を取るなどして政策面で支援してきた。コンバージョンは都市レベルで建物ストックを有効にマネジメントする手段であり、行政によって地域レベルでのファシリティ・マネジメントが行われていると言える。現在はロンドン中心部でのコンバージョンは一通り終わり、梗概の副都心で進行している。オフィスビルの住宅転用2事例、工業施設の住宅転用1事例を紹介する。英国でのコンバージョンの成立要件は建物の立地が非常に重要である。日本での今後の課題の一つとして、不動産情報の開示があげられる。


C主題解説4 既存建物の再生事例を数多く手掛けた立場から/「リファイン建築について」 青木茂(青木茂建築工房)
 建物の耐用年数を伸ばすには、仕上げや設備が老朽化しても躯体はまだ十分使える、という認識が必要である。構造強度的に既存不適格の場合、単なる筋交いによる補強では建物重量が増すので、耐震上不利である。逆に不要な壁などを取り外し自重を軽くすれば、軽微な補強で現行法規に整合する。環境面から見ても、建物を全解体して新築するのに比較して、リファイン建築は20%しか解体しないので、産業廃棄物も20%である。さらに必要なエネルギー量も解体する80%、新築する80%を節約できる。工事のコストについても新築の50%に抑えられる。また、内外観共に新築並みのデザインが可能である。過去に手掛けた3事例を紹介する。


D主題解説5 大学での設計教育の中で/「ミラノ−変わらぬ街並みの内部で起こっていること」 難波和彦(建築家・大阪市立大学)
 社会的にコンバージョンの要請があっても、新築の設計を志向する建築家は少なくないが、大きな流れとしてサスティナブルな仕事をすることがデザイナーの生き延びる道である。この事から、大学での設計課題にコンバージョンを取り入れたので、その報告を行う。中低層の空きビルの現状調査後、空室率の高い4つの街区を選び、減築という手法を取り上げる等して設計を試みた。大学の研究室と地元の設計事務所との共同作業からコンバージョンの認知度を高め社会に浸透させていけたら、と考えている。


討論とまとめ
 小畑から日本の地方都市の中心市街地における再生の方策について、「区画整理と再開発の結果、どこも均質的な用途のものになってしまっている」、「不必要な容積率はさせるべきでは」という意見が紹介された。会場からの「駅前再開発ビルがコンバージョンの対象になるのでは」という意見に対し、難波、澤岡が海外に数多くある事例を紹介した。会場からの質問「ロンドンにおけるコンバージョン・ビジネスの業者や技術の実態は?」に対し、南は「マーケットは1棟で5戸程度の住宅しか供給されない小規模な転用が8割を占めているが、一方で一度に数百戸もの住宅を供給する大規模な改修事例もある。物件に応じて担い手は異なり『どの程度の投資をしたらどのくらいの価格で売れるのか』で動いている。技術的にはそれほど難しくない。むしろマーケットを的確に読む力が重要である」と回答した。青木が「技術ばかりでは受注に結びつかない。ファイナンスをどう調達するかが重要である」石塚が「銀行は事例が無いので融資をしない。再開発に関わるディベロッパーがコンバージョンという思想を持っていない事が障害、中小のビルオーナーにとっては行政の法的、資金的な支援が必要である」と述べた。

まとめ:安藤正雄(千葉大学)
 本懇談会の論点は@取り壊して建替えるほうが容易では、という疑問に対しての考えA海外事例は数多いが、日本特有の障害は何かBどういう建物がコンバージョンに適しているのか、という建物特性C地方都市の中心市街地でのコンバージョンの可能性Dコンバージョンは建築の設計手法をどう変えていくのかEコンバージョンの進展が社会にとってどんな利益をもたらすのか、等であった。
設計手法や計画手法の枠組みにどういう変化がもたらされるか、まだまだ建物のキャパシティをどうはかるか、価値をどうはかるか、計画手法はどうなるのか、は機会を改めて話すべき問題だと思う。
A コンバージョンの進展が社会にとってどんな利益をもたらすのか、については皆さんが断片的に触れたが、コンバージョンが単体ではなくて面的に波及して行くと言うことでは、澤岡先生が触れてくれた。この辺も実例が出てくれば改めて効果を紹介できるだろう。
残りの問題は強引に二つの点にまとめる。
Bどういう建物がコンバージョンに適しているのか、に関して、青木さんの言われたB級建築つまりありふれた建築で、オーナーがいて、市場の中であまり意味を持たなくなった建築をコンバージョン研究会も主眼において、これをどうするかと言う事を考えようとしている。また、今日は話題に出なかったが、バブルの時期に建ったツルピカのビルを証券化して売るということは、コンバージョンに含まれるとは思うが、我々はむしろそれを主眼には置いておらず、もう少し年を経てオーナーも持て余している建物をどうするか、おそらく定期借地権、借家権というものを使った利用権型のものをやっていく、そこが欧米に見られる中心市街地の再開発の、倉庫などのような立派なキャパシティを持っている建物をコンドミニアムにして分譲すると言うやり方と決定的に異なって行くだろうと考えている。そういう意味で日本のコンバージョンというのは、都市との問題、立地の問題がずいぶん出てきたが、例えばこれは産業構造の変化の中で、旧問屋街が成立していない、コンテクストの中で、オフィスを住宅にすると言う事を、具体的に考えて行く必要があると内部では議論している。
また、こういった都市再生の問題で言えば、南さんが報告されたが、地方都市や自治体によっては居住、アフォーダビリティの問題よりは、雇用の問題の方が重要であるということで、実はオフィスビルは中心市街地の空洞化の問題でもあるので、空洞化の問題を住宅が常に埋めるということが成立するのは非常に限られた場所と時代に他ならない。そういう意味では、中心市街地、都心に帰って来る時の郊外の問題にも忘れずに言及していくつもりである。
@取り壊して建替えるほうが容易では、という疑問に対しての考えとしては、青木さんがコストの話をしてくれたが、我々の委員会では当初から新築の半分の値段で、と言う目標を掲げていた。こういうことを検討していると、段々リアリティが出てきて、半分位出れば何かが出来そう、と言う感じになってきた。先ほどのどんなオフィスビルを、誰が、どんな事業方式でコンバートして、そのハウジングをどうやって維持管理していくのか、ということの詰めがまだ途上であるが、南さんも言われたことであるが、コンバージョンのビジネスの確立、我々の場合、どういうビジネスモデルが浮かび上がってくるかわからないが、これに的確なサービスを盛り込んで、日本型のコンバージョン・ビジネスとは何かということを、確立して行かなければならない、と考えている。もうじき答えに近いものが出ると思う。坪30万だが、そのうちのかなりの部分が構造にいくと考えられる。

 

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