オランダ,ケイエンブルグ(Keyenburg)
−庭の改修プロセスを通してコミュニティが成熟−

 ケイエンブルグ団地はオランダにおけるオープンビルディングの2番目の実施例である。 1984年春に完成。ロッテルダム近郊の新都心として開発された地区に所在する。 地域住宅協会が所有する比較的所得が少ない人のための1〜2名用住宅で、1戸当たりの面積は50u(最上階は45u)、総数は152戸。 家賃が入居者の求める住環境の水準に応じて決められたオランダにおける最初の事例でもある。 CADを活用して、設計段階で入居者の求める住環境のコストと、その結果としての家賃を算出し、工事費や家賃の節減を行っている。

写真1 ケイエンブルグ外観 写真2 共用庭への入口
看板には部外者立ち入り禁止の表示。
写真3 共用中庭を囲む廊下 写真4 ケイエンブルグの共用中庭
住民の手により改修された後

 4階建ての住棟4棟が大きな中庭を囲んで配置され、公道に面した1階部分には商業施設が入っている。 上層階の住戸には4ヶ所に設けられた共用階段から、中庭に面した廊下を経由してアプローチする。 中庭には団地の住民以外も自由に立ち入ることが出来る。 一時期、中庭に草が茂り、不審者が潜んでいるとの声が居住者から出されたことがある。 中庭の環境を改善するため、居住者自身が協議して現在の姿の中庭に整備した。 建設当初、中庭はほとんどデザインらしいことはさていなかったとのことである。 土地建物を所有する住宅協会は、中庭の環境整備に5000ギルダーの予算を用意して、住民の取り組みを支援した。 中庭は、最近治安が悪化してきたため、閉鎖することを検討中である。

 道路と同じ4階レベルにあるハンディキャップ者用の住宅を調査した。 居住者の老夫婦は1984年10月の建設当初からの住民である。 設計段階で建築家に要望したことは、 日中家の中にいることの多い足の不自由なご主人が窓から戸外を眺めやすくしてほしいということであった。 浴室へは当初から段差無しで入れる構造になっている。 この住宅は身障者用住宅であるため一般より面積が広く、住戸内部に構造壁(サポート)がある。 入居してから20年近く経つが、内装や設備(インフィル)、構造(サポート)壁に空けられた開口部などは、 建設当初のまま、変更されずに元の状態で使用されている。 この地域では住民の入れ替わりが乏しく、入居者の高齢化が進んでいる。 入居当初のまま、改修工事をほとんど行わずに、老朽化した状態の住宅に住んでいる高齢者が多い。 若い世代が入居し、居住者の入れ替わりが盛んなモーレンフリート団地とは対照的である。

写真5 身障者用住戸の玄関 写真6 身障者用住戸の居間
腰壁の高さを低くして、車椅子から外部を眺めやすくしている。
写真7 身障者用住戸の居間 写真8 身障者用住戸の居間
 かつてオランダの集合住宅では収納キャビネットの設置が義務付けられ、ハウジングアソシエーション(住宅協会)が所有し、 居住者は改変、処分することが許されていなかった。 ハブラーケン氏によると、収納キャビネットは「サポート」だったのである。 現在は、居住者は収納キャビネットを自分の意志で処分することができる。

 先に見たモーレンフリート団地においてもケイエンブンルグ団地同様に、団地の中庭の環境が悪化して、 住民同士が協議する必要が生じた。中庭の問題が契機となり、住民と住宅協会の間で話し合いが行われ、 その成果として住宅の内部の模様替えについても、入居者が模様替えしても良いというルールが作られることになった。 モーレンフリート団地もケイエンブルク団地も、完成当初、中庭は植栽などがほとんど施されていなかったとのことである。 入居後、住民達が話し合って中庭を整備したプロセスは、結果的には団地内のコミュニティ意識の形成につながり、 運営管理方法についても具体化に協議することに発展するなど、思わぬ波及効果を生み出すことになっている。

 入居後、共用空間の管理運営方法や空間のあり方について、住民自らが協議をすることは、コミュニティの成熟に有効である。 貸住宅の場合、土地・建物の所有者は住民の活動をサポートすることが必要と言える。

参考文献
1. Lukez, Paul. 1986. New Concepts in HOUSING: SUPPORTS in Netherlands. Cambridge:
  NETWORK USA.
2. Kendall, Stephen and Teicher Jonathan. 2000. Residential Open Building.
  New York: E & FN Spon
3. Bosma Koos et al. 2001. HOUSING for the Millions. John Habraken and SAR(1960-2000).
  Rotterdam: NAI Publishers

(文責:南 一誠)


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