オランダ,ケイエンブルグ(Keyenburg)基礎資料
1〜2名用の若年層、一人住まいの人を対象にした152戸の低所得者用低コスト住宅。
1戸当たりの面積は50u(最上階は45u)。1982年に新都心として開発が行われた地区に所在する。
すべての住戸の平面はそれぞれ異なっている。
窓の位置と3色から選ぶ窓枠の色を居住者は選択することができた。
窓枠は最近、塗装替えされているが元の色が引き続き使われていた。
モーレンフリートと同様、玄関扉には伝統的なオランダの住宅に由来する、上下に2分割されるダッチ・ドアが使われており、
システムズビルディングであることからくる無機的な印象を和らげている。
住宅供給公社は、民営化によって高額家賃が取れる部門で収益を生み、
その余剰利益を低所得者用の住宅整備に還元できると期待されて、民営化された。
しかし実際は利益の生じない部門は切り捨てられ、低家賃の住宅は処分されたため、社会的問題になっている。
1. 概要
・ロッテルダム近郊。1984年春に竣工。152戸。標準サイズは50平方フィート。
・設計は建築家Frans van der Werfと、彼が主宰する設計事務所KOKON。
・所有者は地域住宅公社。(Local Housing Authority)
・家賃が入居者の求める住環境の水準に応じて決められた最初の事例である。
入居者が工事費を削減し、自己責任を拡大するはっきりしたメリットが計画された。
コンピューターが入居者の求める住環境のコストと、その結果としての
家賃を算出することに有効に働いた。
・公社はこの手法を他のプロジェクトへ展開することを望んだ。
入居者のインセンティヴを向上させるため、公社はメンテナンスフリーのサポートに
資金援助をする一方で、インフィルを分譲することを検討し始めている。
・総工事費は不詳。1戸あたりの工事費は27,000米ドル。
在来工法の集合住宅と比較して1戸当たり500米ドル工事費が下がった。
工事単価は54米ドル/平方フィート。
2. ティッシュ
・4階建ての住棟4棟が中央の大きな中庭を囲んで配置されている。
公道に面した1階部分には商業施設が入っている。
4ヶ所に設けられた共用階段から、各階の中庭に面した廊下を経由して、
上層階の住戸にアプローチする。
すべての住戸にはバルコニーが設けられており、バルコニーと窓の色彩については、
あらかじめ建築家が用意した色の中から、入居予定者が好みの色を選定した。
3. サポート・インフィル
・ゼネコン(J.P. van Eesteren社)がサポートの施工も担当した。
・インフィルの施工はサポートとは別会社のBrunyzee社が担当した。
4. 設計手法
・インテリアの設計にCADが使われた。入居者は住戸内部のレイアウト図を提出した。
建築家は専用ソフトを使ってレイアウト図を元に設計図をまとめた。
そのため正確な家賃を算出することが可能になった。
家賃は入居者が選定するインフィルに応じて決められた。
もし家賃が高い場合は設計変更を行った。
インフィル工事費の節減分は入居者が受ける家賃補助の金額に反映された。
・設計プロセスは他の、オープンビルディングのプロジェクトと同じである。
公社は建築家に、希望する団地内での住戸位置が記載された入居希望者リストを渡す。
入居予定者は、用意された道具を使って、自分の家を設計する。
その案を建築家はCADの図面にすると、即座に入居者は家賃がいくらになるか、
知ることが出来る。修正作業も即座に出来る。
実施設計の元になる、もっと詳しい図面も同じソフトで作成することが出来た。
5. 家賃
・自治体と居住者の両方に対して、住宅助成金が節減できることを示したオランダで最初の事例。
家賃は建設工事費と住戸の環境に応じて決められた。
・ケイエンブルグのプロジェクトでは、住宅手当はサポートとインフィルに分けて支払われた。
インフィルに対する家賃は入居者の選択した内容に応じて決まる。
環境、部屋数、仕上げ、設備のグレードアップにより最終的な家賃が決まる。
6. 背景
・建設当時、地域の住宅協会は入居予定者、地方自治体の要求、政府の方針の間に立って、
その調整に苦労していた。
この問題を解決するため、地域住宅公社(Local Housing Authority)はサポートの手法を選んだ。
公社の抱えていた問題点は
1) 公営住宅の居住者は公社が何でも面倒見てくれるように受け止めていること。
その結果、公社は多数の保全要員を抱えることになっている。
2) 居住者にとって経費を節減する動機がほとんどない。
例えば、ほとんどの公社住宅はセントラルヒーティング方式を採用しているので
光熱費が割高になっている。
3) 公社の管理費は住宅ストックが老朽化するに従い増大するにもかかわらず、
政府からの資金は削減されている。
4) 入居者の転出入の増加は、その都度、内装を塗装し、修繕を行い、新しい居住者に
対応しなければならず、公社にとっては経費や手間の増加に繋がる。
転居率の高さの原因は、社会や入居者のニーズの変化、入居者の不満などである。
参考文献
1. Lukez, Paul. 1986. New Concepts in HOUSING: SUPPORTS in Netherlands. Cambridge:
NETWORK USA.
2. Kendall, Stephen and Teicher Jonathan. 2000. Residential Open Building.
New York: E & FN Spon
3. Bosma Koos et al. 2001. HOUSING for the Millions. John Habraken and SAR(1960-2000).
Rotterdam: NAI Publishers
(文責:南 一誠)
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