モーレンフリート(Molenvliet)の集合住宅
−オランダにおける最初期のオープンビルディングの事例−

(1) 住民の手による賃貸住宅の改修

 オランダ、ロッテルダムとユトレヒトの間のパッペンドレヒトに所在する1977年に完成した実験住宅。 設計はフランス・ファン・デル・ヴェルフ氏と彼が主宰する設計事務所KOKONがコンペで当選したものである。 コンペ当初は、2800戸の住宅建設が求められていた。実際に完成したのは124住戸(人口約300人、32戸/エーカー)及び事務所4室である。 2001年3月に訪問したところ、外壁は建設当初の鮮やかな色彩とは違う、落ち着いたグリーンに塗り替えられていた。 設計者のヴェルフ氏によると、元の設計者の自分には相談されずに、外壁の色だけでなく、妻面の納まりや外部廊下の手摺の改修が行われているとのことである。

 管理組合役員をしておられる方の自宅内部を調査した。 夫婦2人とご子息2人の4人家族でメゾネットの住宅に住んでいる。 居間から直接、専用中庭に出ることが出来る。 一時期、共用中庭の環境が悪化し、住民が協議する必要が生じたことがきっかけで、住民と住宅協会が話し合うようになった。 完成当初の中庭は植栽などがほとんど施されていなかったが、住民が話し合って中庭を再整備することになった。 中庭の問題が契機となり、住戸内部の模様替えについても、住民と住宅協会の間で話し合いが行われ、結果的に改修のルールが作られることになった。

 土地、建物は住宅協会(注1)が所有しているが、現在、居住者は住宅内部を模様替えすることが認められている。 居住者の入れ替わりが多く、現在の住人で建設当初から住んでいる人は全体の1〜2割である。 一般的に、改装工事は入居者が変わるときに行われる。 次に入居する人は改装された状態を前提に入居するという取り決めになっている。

写真1 モーレンフリート 外観 写真2 モーレンフリートの共用中庭

 もともと各住戸の内部は、住戸の区画が決まった後、居住者自身がレイアウトを決めたものである。 その結果同じ平面の住宅は一軒もなく、各戸ともそれぞれ特色がある設計になった。 入居者が入れ替わる際に改修工事が行われる。 入居者の入れ替わりが多いため、工事も頻繁に行われている。 ほとんどの場合、工事は入居者自身が行っている。 調査したメゾネットの住宅では、居住者自身が居間と厨房を仕切る建具を設置し、厨房のシステムキッチンを増設していた。 工事の完成度は高く、DIYとは思えない施工精度である。 近くのホームセンターでは工具を貸したり、改修工事の講習会を開いている。

写真3 モーレンフリート 専用庭
居間から直接出ることができる。
写真4 モーレンフリートの共用中庭
 
モーレンフリートの入居者(左)と設計者ヴェルフ氏(右)。入居者の左側に見えるシンクの部分をDIYで増設している。
写真5 住居内部(台所)

(注1)
オランダの住宅協会は10年前まで、開発部門とメンテナンス部門から構成された非営利のNPOであった。 現在、3つの住宅協会が統合された上、開発部門が民営化されている。 民営化にあたり開発部門の利益で社会的弱者を対象とした社会住宅(家賃900ギルダー以下を社会住宅と定義)をまかなうことが期待されていたが、 住宅協会は営利を追求せざるを得ず、実際には社会住宅から撤退する結果になっている。

参考文献
1. Lukez, Paul. 1986. New Concepts in HOUSING: SUPPORTS in Netherlands. Cambridge:
  NETWORK USA.
2. Kendall, Stephen and Teicher Jonathan. 2000. Residential Open Building.
  New York: E & FN Spon
3. Bosma Koos et al. 2001. HOUSING for the Millions. John Habraken and SAR(1960-2000).
  Rotterdam: NAI Publishers

(文責:南 一誠)


© 2004-2005 AIJ Open Building Sub Committee. All rights reserved. Never reproduce or republicate without written permission.