4. ティッシュ
・外部空間(オープンスペース)には中庭と裏庭の2種類がある。
中庭と街路は密接に関係づけられ、豊かな都市の住空間を形成している。
建物のボリュームは住環境の質を高めるため、注意深く決められている。
住戸の玄関は中庭のレベルや中庭を囲む2階の廊下に面して多く配置されており、
中庭での活動を活発にすることに貢献している。
・中庭は親密感を抱かせるスケールであり、急勾配の切妻屋根を持つ
2〜4階建ての住棟に囲まれている。
中庭は中央大通りの車両交通から隔離され、子供が安全に遊ぶことが出来る空間になっている。
中央大通りや隣接する中庭には、歩行者・自転車用専用街路によって接続している。
地上階、上層階に関わらず、ほとんどすべての住戸へのアプローチは中庭を経由する。
各住戸は、裏庭もしくはルーフテラスを持っているが、それらは玄関とは異なる方角に面している。
5. 住者参加の設計プロセス
・コンペでは、都市デザイン、建築のデザインだけでなく、居住者参加の意思決定の
プロセスを計画したことが評価された。
・居住環境は、意思決定のプロセスに対応した4つのレベルで構成されている。
4つに分割されたレベルとは、
1. 街の全体計画(道路計画と土地利用計画)、
2. 街区(ティッシュ)、
3. サポート、
4. 住戸(インフィル)である。
・各レベルはそれぞれに対応する「意思決定主体」と「物理的形態に関する決定」に関係づけられている。
・意思決定のプロセスを分割することによって、居住者の参画を可能にしている。
最下位のレベルである住戸の設計は入居者が建築家の手助けを受けながら、
個々に設計したものである。
住戸の設計は、上位レベルのサポート、ティッシュ、街の全体計画が確定しなければ、検討できない。
各レベルの決定事項は、その下位のレベルの意思決定に影響を与える。
一方、各レベルとも、その上位のレベルに影響を及ぼす制約条件や特徴を持っている。
上位3つのレベルの設計には建築家だけでなく多くの関係機関が関与する。
・設計のプロセスについては、何度か集会が開催されて、入居予定者に対して説明された。
入居予定者は敷地における住戸の位置や住宅タイプ(1LDK、2LDK等)等の希望を意思表示した。
建築家は入居家族が希望するタイプ別の住宅戸数を把握した。
それはコンペ案で想定していたものとは相違したが、サポートが持つ適用力のお陰で、
大きな困難もなく対処することが出来た。
・入居予定者が設計プロセスを理解し、工事現場も訪問した後、
自分の住宅が配置される場所のサポートの図面が渡された。
入居者には設計要件をスケッチや文章で整理することが求められた。
サポートの図面に20センチx10センチのグリッド線を記入したことや、実際に出来あがった
サポートの内部を体験してみたことは、入居者が図面を理解し、設計を行う手助けになった。
部屋の寸法は、分割されたコマ数を数えるだけで把握できた。
浴室、厨房等に関する詳細寸法は別に、提示された。
・その後、入居予定者は自分が作成したスケッチなどを元に、建築家と設計案を検討した。
ライフスタイルや嗜好も議論された。
建築家は居住者が図面や会話で示した住宅に対する期待が、建築として実現できることを確認した。
建築家の方から入居予定者に対して、積極的に設計プロセスに参画する様に促した例は
少数であった。
何人かは専門家である建築家の役目については不慣れなため、建築家がすべて自分のために
設計し、決めてくれるものだと思い込んでいた。
しかしほとんどの入居予定者は、熱心に設計に参画して結論を出していった。
・2度の打合せでプランは確定し、インフィルの建設をはじめることが出来た。
入居者は現場を訪問し、間仕切壁や厨房の位置を確認するように勧められた。
その段階でも軽微な設計変更は可能であった。
6. 問題点
・各住戸の設計はそれぞれ非常に個性的であるため、転居後に次の新たな入居者の
希望に適った住宅を見つけることは困難であった。
しかしインフィル部材の模様替えが簡単にできるなら、新しい居住者の
ニーズに応えることは可能である。
7. 入居後調査の結果
・第1号のプロジェクトであるため、完成後調査が行われている。
政府にとってこの実験的プロジェクトを引き続き推し進めるためには、POEによって居住者参加型の
住宅建設が居住者の満足度を向上させたかどうか、評価されることが必要であった。
調査は居住者参加による設計が行われてから2年経過した時点で行われた。
モーレンフリート(Molenvliet)の住民の約6割が設計プロセスに参画していた。
・調査の結果、居住者参加の設計プロセスは、参画した入居者に好意的に受け止められていることが
判明した。
92%の人はもしもう一度このような機会があるなら、このプロセスを行うだろうと回答した。
彼らの65%の人は、全体の計画・設計にもっと発言するであろうと答えた。
設計に参画した入居者の転居率は、参画しなかった入居者より低かった。
1年経過後、設計に参画していない居住者の23%が団地内での転居を希望していたのに対して、
設計に参画した居住者は7%だけが希望していた。
団地の外への転居希望は、設計プロセスに参画していない居住者においては42%であるのに対して、
参画した居住者においては15%であった。
設計に参画していなかった居住者の不満の一部は、日照、景観、住宅の団地内での位置に
原因があった。
・ほとんどの入居者は2週間のインフィル設計の期間は短すぎると感じていた。
約2割の居住者、特に若年層の住人にとって、スムーズに設計に取り掛かること出来なかった。
これは建築家のコンサルティング能力の不足というよりは、若い人達がライフスタイルをあまり明確に
確立していないことに起因しているのだろう。
熟年層にはこのような傾向は見られなかった。
・この設計のプロセスはコミュニティにどのような影響を与えたのだろうか。
居住者参加型の設計プロセスを通して自分達のコミュニティを作った経験を共有することには、
どのような意味があるのだろうか。
建築家はコミュニティの一体感が、高密度が生みだす集積効果、中庭の形態、出入り口の配置、
そして居住者参加の設計プロセスによって高められることを期待した。
・コミュニティの生活の質は人と人との交わり、すなわちお互いの住宅を訪問するような
親密な交わりや道であったときに声を掛けるような何気ない交わりの度合いによって測ることができる。
これらの交わりが起こる場所と住宅の位置との相関関係について調査が行われた。
つまり交わりの質と量が調べられた。
住民の半数は、依然住んでいた従来の設計手法による住宅に比べて、隣人に会うことが
容易になったと考えていた。
しかし、それが居住環境の物理的な特性に起因したものか、設計プロセスに起因したものかを
判断することは難しい。
参考文献
1. Lukez, Paul. 1986. New Concepts in HOUSING: SUPPORTS in Netherlands. Cambridge:
NETWORK USA.
2. Kendall, Stephen and Teicher Jonathan. 2000. Residential Open Building.
New York: E & FN Spon
3. Bosma Koos et al. 2001. HOUSING for the Millions. John Habraken and SAR(1960-2000).
Rotterdam: NAI Publishers
(文責:南 一誠)
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