オランダ,ゲスプレーテン・ヘンドリック・ノード(Gespleten Hendrik Noord)
−コーポラティブハウスの例−


 オランダにおける最近の住民参加型住宅の例として、アムステルダム中心部に竣工したコーポラティブハウスを調査した(2001年3月26日)。 一般的にアムステルダムでは運河沿い歴史的地区を除いて、市内のほとんどの住宅用地は国が所有している。 このプロジェクトの土地も国有地で、50年間の賃貸借契約である。 契約時に土地借料を一括して国に支払い、住民はローンで土地代を返済することが一般的である。 50年経過後、契約を更新することもできる。 現在では50年だけでなく99年の賃貸借契約もあるが、居住者が土地を国から購入することはできない。 しかし土地を国から安価に借りることができるため、オランダの住宅取得価格は日本とは比べ物にならない程、低廉なものになっている。

 このプロジェクトの一番初めの段階では、5人の住民が住宅用地を探していた。 彼らは不同沈下のため建物が取り壊されることになった土地を見つけだした。 その土地には24〜30戸の住宅を建設することが出来た。 アムステルダム旧市街地においては、より良い住宅に移り住むことは容易ではないが、この事例では、 自分達自身で建設するコーポラティブハウスの方式を選択したため、資金を節約すると同時に、 住環境の向上や住まい手の要求に答えることが可能になっている。

 コーポラティブハウスへの入居希望者を募るため新聞広告を出したところ大きな反響があり400人の応募があった。 オランダではこのような新築住宅の建設に際しては、従来からその地域に住んでいる人、 その中でもより長期間に渡ってその地域に住んでいる人を優先して入居させるルールがある。 そのルールに基づいて30人の入居候補者が選ばれた。 彼らと建築家の間で構造体等に関する議論や市当局との打ち合わせがスタートした。

 設計を担当したのは女性建築家イェーガー氏、プロジェクトのコーディネータを務めたのはカスタイン氏である。 (建築家はDe Jager & Lette Architecten, Van Seumeren, Van der Werf。 企画はStiching Medio Mokun and Woonstichting De Keyによる。) 住民主体の建設であり、住民が直接、建築家などの専門家を雇用する形でプロジェクトは進められている。 設計プロセスは2段階に分かれている。5名の発起人を含むすべての入居希望者が集い、どの様な住宅を希望するのかを議論した。 この時点では、自分がどの住戸に入居するのかは決まっていない。 極力フレキシブルで、できるだけ多くの可能性が持てる設計案になるように検討が重ねられた。 自分が入居する住戸が決まる前に、購入希望者はアパート全体の機能、戸数、価格帯、共用スペース、外観、標準住戸平面、 工事予算等の支出優先順位について話し合った。 これらが合意された後、住戸の割り振りが決められ、次の段階に進んで、個々の住戸内部の検討が開始された。

 5人の発起人による月1回程度の会合の他に、入居予定者はテーマ別の分科会、 例えば「中庭」に関する分科会等を週1回、約1年間に渡って開催した。その結果、
・玄関ホールを広くすること
・中庭との関係を重視すること
・共用部分も自分の家としての感覚を持つこと
・住戸のプライバシーを重視するため、片廊下方式ではなく、
 2階と5階に中廊下を配置したメゾネット形式とすること
などが決められた。平面計画の基本として、5m×5mを一単位とする部屋が中廊下の両側に配置されることになった。 構造壁は石灰岩と砂を混成した50センチほどのブロックを積んだものであり、床版の一部は現場打コンクリート、 杭は直径22センチのコンクリートパイルを100本以上打っている。

 1995年に着工し、1年半の工事期間を経て、1996年に完成した。 計画段階において住民による議論が熱心に行われたため、建物が完成したときには既に良いコミュニティが形成されていたと言う。 お互いのプライバシーを尊重すると同時に、係わり合いを求める努力も惜しまない住まい方を目指したので、 入居者の間に健康的な社会的繋がりが生みだされている。 住民が組織する管理組合があり、専門的な管理業務は管理組合から委託されている。

 建物は28人の居住者の区分所有である。 16戸の政府補助を受けた住宅(平均価格は188,000オランダフラン)と12戸の「自由セクター(free sector)」 の住宅(平均価格は214,000オランダフラン)で構成されている。 アムステルダム中央駅からタクシーで10分程度の場所に、 100u程度の住宅を日本円にすると1100〜1300万円の価格で提供していることになる。 アパートは住人個々の希望を反映したものであるが、同じ価格帯の一般的アパートより、 大きな面積とゆとりのある空間を実現している。

  なおこのコーポラティブハウスのコーディネータを経験したカスタイン氏は、 オランダで同様のプロジェクトが増えてきたため、その後コーポラティブハウスのコンサルタントを業務にするようになっている。

 
写真1 写真2 ゲスプレーテン・ヘンドリック・ノードの外観
建築的にはこの集合住宅は「1棟の建築物」としてと同時に「都市の一部」としても存在している。 塔状部分のレンガのファサードとそれより一段低くなった木のファサードが交互に繰り返されており、都市のスケール感に調和している。 塔状の部分は隣接する建物のレンガ仕上げに対応している。外観には各住戸の多様性がさりげなく表現されている。
 
写真3 正面玄関口   写真4 中庭側の立面
建物のアクセスは中央部の玄関から中廊下を経由する。 1階には道路側と中庭側に入口を持つ比較的大きな玄関ホールがある。 2階の中廊下に繋がる階段とエレベーターがある。 住棟の設計はパブリックスペースからプライベートスペースへの移行を段階的なものにしている
3F   共用部分には1・2階のホールと子供達が安全に遊べる中庭がある。ほとんどすべての住戸はメゾネットである。


戸境壁だけがサポートであるため、住戸平面はフレキシブルに計画できた。 可能な限り、設備のメインのシャフトは住戸の中央部に配置されているので、浴室、厨房、洗面所の水周りは、 まとめて片方の戸境壁に接して配置されるか、住戸の中央部に配置された。


5m×5mを一単位とする部屋が中廊下の両側に配置されている。 メゾネット形式以外にも5m×5mの部屋を上下3層に重ねた住宅や、100uで一階層のペントハウス(6階)もある。
2F  
1F  
図1 ゲスプレーテン・ヘンドリック・ノード平面図  

・サポートはスキップフロアの廊下、コンクリート床スラブ、戸境壁。
・インフィルは居住者が選択したレイアウトに基づき、市販のオープン部品によって構成される。
・アパートは参加した住人の個々の希望を反映したものであり、同じ価格帯の一般的アパートより
 大きな面積とゆとりのある空間を実現している。
・入居予定者、建築家、建設業者が充分に打合せを行なったため、
 28戸の住宅の平面はそれぞれ異なったものになっている。
・色々なスペースのレイアウトと機能は容易に変更することができるため、
 アパートのタイプ、大きさ、平面プラン、仕上げ、用途変更には幅広い多様性がある。

(文責:南 一誠)

 
写真5 台所から寝室を見る   写真6 台所から食事コーナーを見る
 
写真8 子供部屋  

© 2004-2005 AIJ Open Building Sub Committee. All rights reserved. Never reproduce or republicate without written permission.