オランダ,ペルグロムホフ(Pelgromhof)
−環境共生型の高齢者賃貸住宅の実践−

 モーレンフリート、ケイエンブルグの実験住宅を設計したヴェルフ氏が、最近設計した住宅である。 1998年に完成した高齢者のための集合住宅であり、住宅建設基金(Zevenaar)と 高齢者用ケア付き住宅供給基金(Pelgrom)の融資を受けて建設された。 施設は両基金が所有し、全戸が賃貸住宅になっている。 169戸の独立住戸、46戸のケア付住戸、86台の駐車スペースで構成されている。 ケアが必要な人にも「住んでいる」感覚が持てるように配慮して、レセプションルーム、集会室、 レストラン、劇場、商業施設、図書室が併設されている。 家族用の住戸もあり、高齢者だけでなく若い世代の家族も住んでおり、社会性が保てるように配慮されている。 開発密度は120戸/ha。中庭を囲むように各施設は配置されている。中庭は一般に公開されているが、 夜間は外部と区画することも可能である。

 建物の形や色、そして植栽は、住人が自然との対話を楽しめる環境を形作っている。 食堂の屋根には水深50センチの自然を感じさせる池があり、外壁や屋上を含めてふんだんに植物が植えられている。 空気浄化、流水、標本樹の植付け、植物の多様性確保についても配慮した設計である。 環境配慮型建築として、生態系に配慮した建材の使用、コンクリート使用量の削減、太陽光を利用した暖房システム、 高効率床暖房システム、個別式、集中式ヒートポンプの採用、開口部や屋根面の断熱最適化等の対策に取り組んでいる。 構造体(サポート)は石灰山(ライムストーン)と砂を混成した30センチ厚のブロックを積み上げたもので、 オランダ、スウェーデンなどで一般的に生産されるエコロジカルな材料である。 オランダ政府から実験プロジェクトとして認められ、 住宅省からは持続可能でエネルギー効率の高いモデル建築として選定されている。 2001年3月現在、第2期工事が進行中であった。

写真1,2 ペルグロムホフの高齢者写真

鳥瞰(上),道路に面した外観(右)
写真3 屋上緑化 写真4 中庭に面したレストラン

 設計者のヴェルフ氏によると、モダニズムの建築から人間的な建築に関心が移り、 ここではオープンビルディングの手法を用いながらも変化に富んだ環境を計画したとのこと。
 このプロジェクトの設計テーマは、
1) 人間を主役に、インテリアから設計をする。建物の外形は内部の自然な表れである。
2) 自然(動植物)と人間を関係づける。現代の人工的社会は自然との関わりを失っている。
  季節による環境の変化は生活を活気づける。
  また高齢者と若者が自然を通して関わりを持てるようにする。
3) 建築とは完成されたものではなく、絶えず変化するものである。
4) 何か特別なもの、個性ある芸術的なものを作る。
ことであったと言う。

 新聞広告を出したところ、700人からの入居応募があった。 オランダでも、賃貸住宅でこれほどまで本格的に入居者がレイアウトを自由に設計できた事例は初めてである。 このプロジェクトは50歳以上の人たちを入居の対象としている。
 様々な高齢化の状態、すなわち
1) 正常な状態、2) 行動が鈍った状態、3) 活動不能になった状態
の各段階に対応できる、生涯住みつづけることが可能な住宅とするため、高齢者のアクセス、 安全性、適応性に配慮した設計になっている。 昼間は5人の看護婦とボランティアの人が働いており、入浴などのデイケアサービスを行っている。 夜間も常時1名は管理者がいる。一日200食供給する能力があり、施設外部にも給食している。 何らかの介護が必要な高齢者を社会と結びつけるため、都市の真中に安全で静かながらも、 活気ある生活環境と個別介護サービスを提供している。 劇場は高齢者と地域社会を結びつけるため地域住民にも開放されている。

 内部を調査させていただいた住宅には、老婦人が一人で87uの家に住んでいた。 以前はロッテルダムに住んでいたが夫が他界したので、住んでいた家を処分して、 この高齢者用賃貸住宅に移ってきたとのことである。 新しい住宅に移っても、友人が出来るだろうと思って転居したと言う。 多くの住民は実物大の住宅模型(モックアップ)を使ったレイアウトの打ち合わせに参加したが、 この婦人は入居を決めたのが遅い段階であったため、参加しなかったという。 しかし自分自身でレイアウト案を作成し、内装、設備機器などのインフィルはオープン部品の中から選定して決定したという。

写真5 入居者の室内

(文責:南 一誠)


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