11回安全計画シンポジウム(建築計画委員会・安全計画小委員会)   戻る

 

建築の安全性を考える「安全計画からみた集合の限界と対策」

 

 標記シンポジウムが、建築計画委員会・安全計画小委員会の主催で、129()  13:3017:00、建築会館 201号会議室にて開催された。参加者は36名であった。司会は、富松太基(日本設計)が担当した。以下に概要を紹介する。

主旨説明:矢代嘉郎(清水建設)

 安全計画小委員会は、超高層建築物の計画技術の確立をめざして、昭和40年代に設立され、主に火災に対する防災計画技術について、検討を行なってきた。来るべき建築基準の性能規定化に向けて、今年度より新たな体制で、建築の安全について基礎的な検討を行なうこととなった。その第1弾として、今回のシンポジウムは、「集合」をキーワードとした限界と対策のあり方について議論を行ないたい。本シンポジウムはシリーズとして今後も継続する予定である。

 

I. 主題解説

(1) 建築における集合のメカニズム:吉村英祐(大阪大学)

建築における集合の形式は、大規模化、複合化、高層化の3つに大別できる。集合による利益・不利益を動物の行動の面から捉えると、被害の希釈効果などの利益とともに、病気の蔓延しやすさなどの不利益がある。人間は、技術により限界を克服し、集合の規模をどんどんと大きくしてしまい、その結果、自己コントロール機能を麻痺させてしまった。今一度、動物の知恵に学び、集合の限界の示す意味について考え直す必要がある。

(2) 博覧会における人間行動:林田和人(早稲田大学)

博覧会における人間行動は、不特定多数の集合および行動の無目的性という共通点がある。こうした人間行動の特徴を捉えるため、・会場への日別・時刻別流入量、・会場内の流動状況、・属性による人間行動の3つの観点から、実態調査を行なった。ピークの発生による滞留者数の期間変動のパターンと博覧会の開催期間との間に関連があることが明らかとなった。また、会場内の流動は、ポテンシャルモデルにより、モデル化できる。また、滞在時間と歩行距離により、属性による行動の違いが生じることが明らかとなった。

(3) 大型物販施設開業時の状況−タイムズスクエアビルの場合−:土屋 中(日建設計)

タイムズスクエアビルは、高島屋を中心テナントとしており、昨年10 4日に開店した。初日の来客者数は、約 25万人であった。10月の来客者数は、約500万人であり、想定の約2倍となった。公開空地として計画した敷地内通路は、来客者を捌くのに有効であった。建物内は、空間認知を容易にするため、直線部分を多くした計画となっている。来客者数が予想を超えたため、スタッフを増員するなどの対策をとった。建物の管理は常時100名前後で対応しており、それ以外に従業員が約4,000名入館している。これらの人々にいかに安全の重要性を意識させるかが重要となる。

(4) 防火管理からみた集合の限界とその要因:藤木正治(東京消防庁)

防火管理とは、災害予防面、災害活動面の2つの観点から捉えることができる。所有者が行なう防火管理業務の大半はビル管理業務に取り込まれ実施されているが、管理主体、管理体制、管理区分などの建物の管理形態が、ここ数年変化してきていることが、アンケート調査により明らかとなった。一建物当たりテナント数が増加しており。外国企業の増加を含めて、防火管理上の意思統一が困難となっている。防火管理上は、すでに集合の限界を越えていると思われるが、こうした問題点は災害が起きないと顕在化しない。今後はソフト面の対策の効果を評価できる手法の開発が望まれる。

(5) 巨大建築物のアキレス腱:吉田克之(竹中工務店)

防火に関する法令は、過去の事故事例に基づき整備されてきており、事故事例を詳細に検討することは今後の安全対策のあり方を考えるうえで有効である。1993年に発生したワールドトレードセンター爆破事故では、複合巨大建築物の問題点が浮き彫りにされた。110階建ての2本の超高層タワーは、44階、78階でブロック化されており、1ブロックで霞が関ビル分の規模を有する。タワー1の南側地下2階で爆破事故が発生し、煙が ELVを乗り換えて、建物全館に伝播した。その結果、全館同時に避難することとなり、混乱を招いた。安全対策については、何が危険かは起こってみないとわからない面が多いが、建物の集合に対しては、いかに分割するかが重要である。

 

II. 討論

各パネリストによる主題解説をもとに質疑応答・討論を行った。以下に主な内容を紹介する。

向野(エス・バイ・エル)より、規模の限界を工学的に説明できる手法があるとわかりやすいのではないかという指摘があった。これに対し、吉村は、規模の限界を工学的に判断することは困難である。ヒューマンスケールに基づく限界が、ひとつの指標となると述べた。また、吉田が、ヒューマンスケールによる規模の限界に関連して、ドームの非常口を例に挙げ、出口ひとつ当たり何人負担させるかが指標となりえることを指摘した。さらに、集合の限界を探るのもひとつの課題であるが、まずはじめに、現在どのように分節化されているかを調べる必要があるとした。

集合の単位については、矢代が、建物の計画を行なう場合、集合の単位を想定しており、被害に対する対応時間を考慮すれば、単位となる規模はある程度決定することができるとした。また、吉田は、有楽町マリオンを例に挙げ、建物管理区分がひとつの単位となりえることを指摘した。

また、集合のしかたについて、朝倉(正久)は、「階層化」がひとつのキーワードとなることを指摘し、福井(日建設計)は、管理区分に合わせた「分節化」が有効であると述べた。北後(建築研究所)は、これまでは、災害を事前に想定しきれていないため、それに対する対応としての分節化のしかたに問題があった。分節化をどのように行ない、その信頼性をどこまで確保できるかが鍵となると指摘した。

藤木は、建物管理の観点から、集合の限界に至らないためのソフト的な手法の開発が必要であり、使う人の属性や使い方を想定したうえで、ハード機器の開発をすべきであると指摘した。

吉村は、今回の議論は火災が中心であったが、火災以外の視点からも一極集中か分散かについて考える必要があるとした。

最後に矢代が、本シンポジウムのまとめを行ない閉会した。

記録:掛川秀史(清水建設技術研究所)