12回安全計画シンポジウム(建築計画委員会・安全計画小委員会)   戻る

 

建築の安全性を考える「集合による火災リスクと安全設計」

 

標記シンポジウムが、建築計画委員会・安全計画小委員会の主催で、123日(水)12301730、クイーンズスクエア横浜・タワーA5階会議室にて開催された。参加者は、52名であった。司会は、志田弘二(名古屋市立大学)が担当した。以下に概要を紹介する。

■主旨説明(矢代嘉郎/清水建設)

安全計画小委員会は、昭和40年代に設立され、主に火災に対する防災計画技術について検討を行ってきた。また、当委員会の努力などにより建築設計分野において防災計画が普及・定着してきた経緯がある。その中で、建築基準法38条大臣認定適用例の増加、性能規定化の導入等、安全計画を考えなおすべき時期に来ている現状がある。このような状況の中で集合によってリスクが起きるという考え方は、損害保険業界等では用いられているが、建築分野ではまだまだ普及していない。そこで、建築分野においてリスクという概念を取り入れて新しい提案を行う。ここでリスクとは、潜在的な危険を示すこととし、ハード、ソフトでの対応の検討を行う。今回のシンポジウムは、「集合」をキーワードとした限界と対策のあり方について議論するものであり、シリーズとして行われた前回に引き続く第2回である。今回は、シンポジウムの内容と関連させて、建築物・機能が集合するクイーンズスクエアを対象として見学会を行う。

 

■視察 

クイーンズスクエア横浜

(事務所基準階、スカイウォーク、防災センター、総合管理センター、ステーションコア、1階モール、2階モール、ホール、地下駐車場、駐車場管理センター)

 

■講演

1)建築物の集合とリスク分析・安全計画の実体(掛川秀史/清水建設)

建築物の集合により、集積効果、集合効果といった効率の向上といった利益ともに被害発生・拡大の危険性の増大というリスクももたらす。建築物における集合の対象を空間、人間、機能・管理に分類すると、それぞれについての問題点が考えられる。リスク分析の方法としては、1.統計データに基づく方法と2.工学的な予測手法による方法がある。建築の集合に対する安全計画の基本的考え方として空間・人間・機能の単位の整合性をとること、空間の分節化、人間・機能の分散化、バックアップの確保する事が重要である。

2)クイーンズスクエアにおける安全設計と大規模化の課題(山崎隆造/三菱地所)

クーンズスウエアは大規模化、高層化、多様化の全ての要素を持った建築物である。また、一棟建物(一防火対象物)、区分所有ビルである。防災計画の考え方としては、防火管理ブロックを作成し、ブロックごとに管理している。災害時の考え方としては、総合管理センターを頂点とし、自治区(災害の起きた地区)隣接地区(災害の起きた地区に隣接する地区)他地区(災害の起きた地区に隣接しない地区)に区別し、必要以外の情報を制限することにより、情報伝達を円滑にしている。それぞれ情報のネットワークは、総合情報ネットワークと、バックアップ用として、クリティカルアラームネットワークの二重構造をとっている。クイーンズモールでは、防火区画に加えて側壁散水栓を自主設置し、安全に万全を期している。

3)損害保険から見た集合とリスクマネジメント(後藤多美子/住友海上リスク研究所)

リスクマネジメントと危機管理の違いは、リスクマネジメントが経営危機など事故前に検討することであり、危機管理は打撃を与える危機を回避ために事故後に検討を行うことである。その手法としては、リスクマネジメントサイクルがあり、リスクの洗い出し(静態的リスク:構造物、災害、事故・動態的リスク:人的リスク)リスクの評価(発生頻度・損害の大きさ)などの順で行われる。また、リスク処理には、リスク・コントロールとリスク・ファイナンスがあり発生頻度、損害の大小によって経営者の判断により保証の度合いを決定する。大規模化によって起こる問題としてリスクの種類は増えないが損害(影響)が大きくなる傾向があげられる。また、複合化による問題点として管理上の問題やそれぞれの管理形態に整合性がとれていないことがあげられ、意思伝達を効率的に行うことが必要とされる。日本は、事前の対策・ハードの対策派進んでいるが、事後の対策・ソフトの対策が遅れている。今後、広い意味での防災対策が必要である。

4)集合にともない発生する新たな問題点-高齢者・障害者の安全(古瀬敏/建設省建築研究所)

建築物が集合することにより、全く知らない場所では、災害弱者でなくても右往左往する。近年は利用者の多くが青壮年であったが、現在では高齢者、障害者の人々の数が無視できなくなってきている。それにともなって、一般の人々と同じようにこれらの人々が施設を利用し始める。高齢者はマジョリティ(大多数の一般の人々)と一緒に避難できない。これは、基準が一般の人々をもとに決められていることに問題がある。特に車椅子などにおいては、EVを利用して階上にあがるが、災害時はEVが使えない可能性が高い。ハード的には、非常用EVの利用なども考えられるが、ソフト的には対応していない。この様に管理者側の意識を変えることが重要である。集合によって起こる問題は、弱者だけの問題ではなく、一般者も抱える問題である。そのうえで、例えば出入口を見つけやすくするだけではなく、出入口を見つけても避難が不自由な人がいる事を考慮に入れて計画が行われるべきである。

 

■討論

各パネリストによる主題解説をもとに質疑応答・討論を行った。以下に主な内容を示す。

佐藤(鹿島建設)より日本の防災は、フロアごとに処理するような考えで行われているが、同時多発災害発生の可能性と対処方法を質問した。それに対し、山崎(前掲)は、同時多発発生頻度は少なく、災害時には、ゾーンを災害発生の「自地区」「隣接地区」「他地区」に分けて情報の流れを制御することにより、必要な情報のみを提供するシステムを採用しているとした。古瀬(前述)はクイーンズスクエアとランドマークタワーの間の敷地の管理について隣接部分の管理に問題が起きやすいことを指摘した。泉(損害保険料率協会)は掛川の講演の中の延べ床面積に対する出火率の比率による評価をクイーンズスクエアに適用する事の有効性を指摘した。志田(前述)は情報量が飛躍的に増加することにより、情報の複合、交錯が起こることにを指摘した。矢代(清水建設)は被害が連続的でなく飛躍的に変化する集合の規模の変曲点について質問し、後藤(前述)は、規模ではかるのは困難であるが、ハイテク化により、管理が集中し、管理センターが機能しなくなることにより起こる施設機能の停止の規模が拡大することは考えられるとした。

吉村(大阪大学)は、時間の経過により、管理体制が変更され管理の一元化の継続が難しくなるという点を指摘し、それに対し山崎(前述)は、クイーンズスクエアは一棟建物の区分所有であり、モール、駐車上等一体管理が必要な部分に関しては、分担で一体管理を行っておりフレームワークを持っている。これを優先しているので、問題は起こらないと考えられるとした。鳥澤(横浜国大)は大規模化に対する一つの対策としての分節化単位について指摘し、掛川(前述)は基本的には、空間の分節化であるが、それだけではなく、人間、機能の分節化と空間の分節化の整合性をとることが重要であるとした。山田(フジタ)がモールにおける防災対策は過剰ではないかと指摘したことに対し浜田(日建設計)は、当時の評定の基準では、過剰とはいえず、また独立して管理を行うといった概念を明確にするためには、必要な設備であったとした。また.堀内(防災コンサルタンツ)はモール自体から出火した場合、モールに可燃物を何も置かないのであればよいが、置く可能性があるのであれば、区画するようにと消防より指導を受けたとした。また、古瀬(前述)は、クイーンスクエアは、分節化が明確なよい例であるとし、北後(建築研究所)は、防災計画を行う上での火災による損失を設備投資の費用について考慮することの必要性を指摘した。

 

■まとめ(富松太基/日本設計)

従来、建築分野では行われることが少なかった設計後の運営上のトレースを行えたことで非常に意義があった。また、建築計画の時点で、その後の運用・管理を見据えて計画を行うことが重要である。今後は、建築のみではなく、損害保険会社、学生等を含めて、建築とリスクに関して広く議論が行ってゆくことが大切である。

 

記録:佐野友紀(早稲田大学)