13回安全計画シンポジウム(建築計画委員会・安全計画小委員会)

 

建築の安全性を考える その3

人の集合と混在:避難弱者の視点から見た安全計

 

 標記シンポジウムが、建築計画委員会・安全計画小委員会の主催で1999128()に開催された。司会は建部謙治(愛知工業大学)が行った。参加者は55名であった。以下に概要を紹介する。なお、建築会館会議室におけるシンポジウム(15:3018:00)に先立ち、テーマに関連づけて、大規模複合開発の建築物である品川インターシティの見学会(13:0015:00)を行っている。

趣旨説明:富松太基(日本設計)

 建築計画を考える上で「安全」は重要な要素であり、当小委はこれについてシンポジウムを重ねてきた。一昨年からは「集合の諸問題」をテーマに取り上げてきたが、今回はこれに「避難弱者」をキーワードとして加えた。「避難弱者」について、不特定、利用者の変化、建築計画への反映、都市のあり方等と関連付けて考えてみたい。なお、「五体不満足」というベストセラーになった著書にユニバーサルデザインの原点を見る思いがし、一読をお勧めする。

(1)バリアフリー、ユニバーサルデザインとは(園田眞理子/明治大学)

 これまでは、特定対象への対策になりがちな「バリアフリー」という概念であったが、近年は、あらゆる目的、条件、状況に対してごく普通であり、適用可能である「ユニバーサルデザイン」という概念が拡大しつつある。ユニバーサルデザインを達成するには、・多くの選択肢を用意しておく ・基本的な機能に加え、オプションとして個別の要求に応えられるようにする ・様々なニーズを包含する汎用性の高いデザインを提供する、等の手法があるが、建築には・または・を適用することになろう。

 スライドでは、・大学構内・駅構内におけるスロープ・点字誘導ブロック等の状況を示し、障害物があったり、幅が十分でなかったりして、それらが有効に機能していない例、・駅員が倉庫から装置を運んできてセットしないと使えない階段昇降機、・防犯上も有効で利用しやすいシースルーのエレベーターを設置した外国の例、等を紹介した。また、・フラッシュランプ型及び音声併設型の避難誘導灯等、国内の改善例も併せて紹介した。

(2)誘導灯と避難誘導システム(神忠久/日本消防設備安全センター)

 「煙中の避難」と「視覚障害者の避難」に共通する部分があると思われることから、誘導灯の開発経緯について、・公募により集まった3000以上のデザイン案を、画像データとしての処理、デザイナー及び一般人の評価、煙がない状況及び煙中での見やすさの実験等から、現在の形を選定したこと、・ISOに提案したがISOでは既に案が固まりつつあったために一度却下され、それに対し、日本案とISO案について、視認距離等に関する実験を行い、日本案の優位性をデータに基づいて説明し、結局はISOに採用されたこと、・当初の大型誘導灯を小型化するための研究を行い、これを実現化したこと、・ハース効果による音声誘導システムを開発したこと、等を紹介した。

(3)結果としてのユニバーサルデザインのあり方−「災害弱者」の混在の視点から(吉村英祐/大阪大学)

 建築デザインの分野では模索状態が続いているユニバーサルデザインについて、スライドを用い解説した。・危険個所が気づきにくい形状・デザインのために、けが人が続出し、その結果、注意を促すテープを貼らざるをえなくなったりしている等の、数々の事例、・傾斜地を利用して階段をなくしスロープで高低差を処理した駅等のすぐれたスロープのデザイン例、・車椅子やベビーカー用として階段に補助的に付加されたスロープを健常者が好んで利用している例を紹介し、なぜそうなるのかが研究テーマになること、最後に・高低差の大きいスロープのデザイン的洗練の必要性を指摘した。

(4)建築の安全性の最低線は? − 人の集合と混在:避難弱者の視点から見た建築計画(古瀬敏/建設省建築研究所)

 見学会の印象を中心に、・駅から建物への経路中の階段に駅員を呼ばないと機能しない昇降機があり、現在は仮設なので仕方がないが、本設の施設としては許容しがたくエレベーターを設置すべきであること、・オフィス部はエスカレータがメインで、車椅子の人にはバリアとなっていること、・建物内からの避難については非常用エレベーターも利用できることを考えれば、問題はないと思われること、・避難階段に手摺がないが、たとえ健常者であっても必要で、法で要求していないのは先進国では日本くらいであること、等について述べ、・建築のあるべき姿を、原点に立ち戻って考えるべきであること、・「通常の設計+バリアフリーのための補助設備」でなく、最初から「ユニバーサルデザイン」、しかも通常は利用者に特に意識されないデザインをするべきであること、等を述べた。

討論

 討論に先立ち富松が病院におけるエレベーターを利用した避難(エレベーターホール及び階段室附室を加圧防煙して安全性を高め、介助避難を可能にした)事例を紹介した。

 佐藤(鹿島)は、災害要因、規模、局面、場所等と避難弱者の行動能力とを整理して対策を提示すべきではないかと考えること、対策の選択肢が幾つもあると、どの程度までやればよいのかわりにくいこと、安全設計のための設計データがないこと、等について述べた。そして「実現可能」で「持続性のある」対策が大切であることを述べた。古瀬は「環境の属性とのミスマッチ」が問題で「環境ができていればハンディキャップにならない」こと、吉村は日常的に危ない箇所は災害時にはもっと危ないこと、園田は「弱者は自分とは違う人」と捉えるか「自分の連続」と考えるかで解決策が異なってくること、等を述べた。さらに古瀬は対策について、Universal DesignAdaptive Design(パッドを大きくする等、微細な改善)⇒Assistive Technology(車椅子、酸素ボンベ等)⇒ Human Resources(人による介助)の順に考えるべきで、初めから人による介助を考えていると、高齢化社会には対応できなくなってしまうことを主張した。林(大成建設)は、建物へのアクセスは良くなったが、災害時にどうやって逃げるのかの問題が残されていることを指摘し、さらに、日常使用している設備を災害時には転用して避難に利用可能とすることが望ましいとした。吉村は、設計者は設計意図及び誰が使うのか等を明確にする事が大切であること、設計には最前を尽くすべきで、人まねあるいは、ただ法規通りにした、では良い設計はできないこと、さらに悪いデザインに対しては一般の人が指摘すべきであると述べた。神は火災時には人による誘導が最高で、機械に頼れるのは部分的であると考えていることも述べた。富松が建築基準法の性能規定化に関連してコメントを求めたのに対して、萩原(建設省建築研究所)は、健常者に対する対応ですらまだ不十分であること、弱者については「自分の連続として」考えて、性能規定化に向けて基本コンセプトを考えるスタートとしたいとし、また、人間行動の分析から問題を解決していった神氏の方法に感銘をうけたことを述べた。園田は、計画の分野ではPOE (Post Occupancy Evaluation)として、使用後の評価を行い、計画にフィードバックすることを行っており、安全についても原点に帰って考えるべきこと、法は最低必要条件であること、使用者の使い勝手・意見を聞くべきであるとした。また、神氏の研究のようにデータの積み上げが大切であると述べた。吉村は人間の行動法則や行動心理を予測してデザインすることが大切であるとし、古瀬は「我々は一体どういう建物を造ろうとしているのか」、「誰が使うのか」、設計の原点に帰り、もう一度問題点を拾い、実験してデータを積み重ねて計画に反映して行くべきと述べた。

まとめ

富松が「原点に帰る」ことが必要で、避難の諸問題を安全計画小委員会としてこれからも追求したい、としてシンポジウムをまとめた。

記録:山田 茂(()フジタ