15回安全計画シンポジウム(建築計画委員会・安全計画小委員会)

「性能から発想する建築計画」 事例を通じて考える<大阪会場>

 本シンポジウムは2001427日(金)1330〜 司会富松太基(日本設計)のもとで開催された。参加者は39名であった。

趣旨説明:富松太基(前掲)

 本小委員会では、過去4年間「集合と安全」をテーマにシンポジウムを行うとともに、実際に即した議論をするため見学会を催してきた。その間、建築基準法の改正にともない施行令・告示が出され、性能規定化が明確になった。これらに関連して出版を行った。性能規定化によって、新しいタイプの計画が可能になるが、自己責任が増したともいえる。また、性能規定化の中でとり残された部分として、バリアフリーがあげられる。本小委員会では、災害弱者の安全を今後のテーマとして考えている。

(1)性能規定化のあり方-避難安全検証法を中心に(吉村英祐/大阪大学)

 避難安全検証法では、火災時に防災設備が必ず作動する、避難階段が煙から守られていることを前提としているため、従来以上の維持管理が必要になる。検証法を適用するメリット、デメリットの比較だけではなく、技術者の倫理と施主の管理責任が従来以上に厳しく問われることを認識すべきである。設計者が火災の恐ろしさを実感として捕らえ、火災時の人命安全を考えるべきである。避難安全上無理のない空間を計画することが検証法適用の大前提である。防災計画が建築設計の自由度を狭めるという「常識」を疑うべきである。社会の高齢化に伴い、日本でも高齢者や障害者の避難安全性確保の問題がさけてとおれない。厳しい制約が新たな発想を促し、よい設計が行われ先例(たとえばノーマンフォスターは、トイレの奥に避難階段をとっており、日常動線と避難動線を同じにして安全計画上もよい。)に学ぶべきである。

(2)建築基準法の性能規定化と避難計画(北後明彦/神戸大学)

 火災時の避難に関しては、不確実性が非常に大きく性能規定化だけでは安全が担保されない。避難計画をしっかりとすることが必要である。性能規定化の意義は、避難の工学的なモデル化をあえて行ったことである。性能規定化の法律の根拠は従来と同じ法律「避難施設は避難上支障がないようにする。」ということである。このため、時間内に避難がぴったりと完了することが目的ではなく、経路の分散や容量のチェックをするということであり、検証法の前提として、経路の分散などについてチェックしておく必要がある。避難検証法については、不完全な性能規定化という事情から「避難計画」で避難検証法を補完しなければならない。ルートBにおける避難検証法においては、避難計画を確認する仕組みが存在しないため、避難計画の原則や避難施設を設計する上で、基本的な考え方に十分配慮することが望まれる。

○事例を通じて考える

(3)関西国際空港旅客ターミナルビル(久次米真美子/日建設計)

 ロビー部は縦穴区画をもうけていない。上部と下部を区画し、それぞれ特殊認定、一般認定とした。キャニオンとよばれるブリッジが空間認知に有効なだけでなく、水平避難に用いられる。ブリッジ横に2.3m高のガラススクリーンをもうけ、煙を避ける。大屋根を生かした畜煙を行う。チェックインカウンターなど可燃物が集中するブロックを明確にし、重点的に防火・防煙を行っている。

(4)京都駅ビルなどの防災設計について(土屋伸一/明野設備研究所)

 1階駅のコンコースに続く大階段のうち、両側の避難に支障を来す部分をのぞいた11mを有効幅員として、避難階段扱いとしている。地上1015mレベルにもうけた人工地盤に上階からの階段を接続し、最終的に1階に至る避難経路を確保している。

(5)和歌山県公立那珂病院(富松太基/前掲)

 わかりやすいプランにする。病棟廊下の突き当たりには光が入り、そこに階段がある。階段は5カ所である。自然排煙としたため、窓が多く廊下が明るい。エレベータは非常用エレベータなみにしてベッドの搬送を可能にする。デールームを防火区画とし、一時待機場所とする。このように、病院においては、安全に配慮することと患者へのアメニティが整合する場合が多い。

質疑・討論(コーディネーター;吉村/前傾)

・法38条とルートCの関係:法38条(大臣認定)では、法をまるごと別のものとしてよいとしている部分がよくない。性能規定化のルートCでは、性能の規定にしたがって認定がされるということで内容が異なる(辻本・名古屋大学)。

・避難安全検証法について:検証法で全室について計算を行うのは煩雑ではないか(宮川・大林組)。論理的に危険の度合いを説明できればよい(辻本)。ルートCでも全室について計算するのか?(久次米)。ルートBについては、個人の判断など不確定要素を排除するのが目的であるので、ルールに従うのが原則である。ルートCについては、専門家がジャッジをするので、責任と引替えに計算不要と判断することは可能である。(室崎・神戸大学)安全計画の考え方がしっかりしていれば、どの検証法をとってもうまくいく(北後)。

・自己責任:法を守りさえすれば、責任をまぬがれるという考えではない(富松)。避難検証法を用いた場合、避難施設に荷物を置くなどにより事故がおきた場合、管理者の責任となる(吉村)。

・ルートB・Cと消防法とのかかわりは?吉田(明野設備):性能規定化は、何を目的とするかによって異なるので、立場が違えば、性能が異なる(辻本)。消防法の規定によって、ルートB・Cのよさが失われるのではないか?(吉村)

・性能規定化における災害弱者の避難については?(吉村):古瀬氏(建築研究所)が言うように災害弱者の一事待機スペースをつけると建築面積に算定しないなどのメリットがないとうまくすすまないのではないか?(志田)

まとめ(室崎益輝/神戸大学)

 性能設計に転換するために目指していたものをはっきりさせるべきである。検証法を利用するメリットとして、余計なところに余計なものをつけなくてよくなる。設計者が自由に設計を創造できるような道すじを認める。ただし、公共の福祉に反しない範囲での自由であり、安全は規制緩和できない。38条で認められたことが今後できるのかどうかが、法の大きな試練である。設計者は前提条件として、建築の安全を正しく理解し、設計できる能力を持つ必要がある。そのために、建築物の安全に対する責任の所在を明らかにするべきである。

記録:佐野友紀(名古屋市立大学)