集合住宅フォーラムの記録

  『日本型集合住宅の計画論を目指して その1 現代の集合住宅に満ち足りぬもの』

平成10年2月18日(水)午後5時〜8時

建築会館202会議室

集合住宅小委員会では、研究者や実務者の幅広い交流を企図して、WGを設けて定期的に集合住宅フォーラムを開催している。今回は、約50名の参加の下、高井宏之(竹中工務店)の司会により、主旨説明(小林秀樹:建設省建築研究所)を受けて、主題解説及び4人の発表者による話題提供があり、その後自由討論が行われた。以下にその内容を簡単に報告する。

主題解説「『日本型集合住宅』への想い」

山田正司(山設計工房)

「日本型」を想起する背景として、戦後50年余の歴史、「うさぎ小屋」に対する「かいこ棚」のアナロジー、神戸の震災からの教訓等を挙げつつ、現在の集合住宅計画の持つ膨大な課題が極めて示唆的に整理された。地球・自然、地域・都市、住棟・住戸といった各スケールでの計画論的な試みの整理とその解説の後、「日本型集合住宅」を考える上での重要なキーワードとして、生活者の視点<ライフ>を最重視することと、場所性<サイト>に着目することが提起された。併せて、現時点での具体的な試みの例として、NEXT21、つくば方式によるコーポラティブ住宅、復興事業で企画されたコレクティブ住宅、多摩NTにおける内外可変型住宅の提案等が紹介された。会場からは、わが国における集合住宅の歴史の浅さを考慮した新たな試みを日本型と呼ぶのか、あるいは「南欧のイメージの集合住宅」を打ち出すような土壌を日本的と考えるのかという質問が出されたが、前者のプロトタイプの積極的提案をこそ考えるべきであるという応答がなされた。

話題提供1「海外集合住宅の居住者意識」

川村美和子(東京ガス)  

東京ガス都市生活研究所が1995年に4都市(パリ、ロンドン、ソウル、東京)で行った集合住宅居住者へのアンケート調査をもとに、東京という都市の特性や住宅の特徴、居住者の属性や価値観などを国際比較的に明らかにしつつ、相対的な観点から見て日本的な問題とは何かを問いかける提起がなされた。その結果、東京はパリ・ロンドンに比べれば住宅は概して新しいが、ソウルのような新興都市よりは古いこと、持家の面積は他都市と遜色ないものの賃貸住宅は著しく狭いこと、寝室数が多く部屋を小割りにしていること、その結果住まいの広さに対する評価が低いこと、インテリアに対する関心が低いこと、管理人のいない住宅が多いこと等々の特徴が浮き彫りとなった。また、平行して行われた海外7都市の住まい方調査から、特徴的な事例が若干併せて紹介された。

話題提供2「シーリアお台場ミーティングルームにおける試み」

牛山美緒(住宅・都市整備公団)

公団が臨海副都心において1996年に供給した33階建超高層賃貸住宅の共用施設として企画した、5層おきに設けられた6ヶ所の「ミーティングルーム」について、居住者のグループに対して長期貸しを行うという公団の意図を伝えてゆく試みの過程や反省点の報告があり、都心の集合住宅におけるコミュニティ支援についての問題提起がなされた。従来にない企画に戸惑う(あるいは関心のない)居住者に対して、アンケート調査を行って意向を把握するとともに、イベントを開催したり無料試行体験期間を設けたりなどの活動報告があり、都心の賃貸住宅におけるコミュニティのあり方を踏まえた上での仕掛けの難しさや、使用を活性化あるいは持続させる仕組みの必要性、閉鎖的な共用空間のつくり方への反省など、事業者から見た今後の課題も併せて発表された。

話題提供3「幕張ベイタウン・パティオスの中庭空間評価」

鈴木雅之(アトリエガイア)

「中庭は閉じられるべきか」という副題のもとに、わが国における街区型集合住宅の試みとして注目されている幕張ベイタウンの、第1期として供給された6つの街区について、千葉大学服部研究室が行った居住者調査を中心として発表が行われた。各街区の中庭空間の特性と中庭のパブリック性に対する居住者の評価を対応させつつ、非居住者の中庭への進入に否定的な意見が多いことを計画論的にどう捉えるかという考察が行われた。新たな空間形態への経験の浅さを踏まえ、単純にオートロックが好ましいとするのではなく、空間を段階構成することによって中庭を開かれた共同空間にすることが必要であるという指摘があり、また会場からは、街区型集合住宅の評価は、中庭のみではなく街路との関係でも捉えるべきであるという建設的な意見が出された。

話題提供4「現代の集合住宅市場にみる需要者志向と計画」

山本  理(長谷工総合研究所)

現在の分譲マンション市場では3LDKのシェアが70%という圧倒的なシェアを占めるが、一方購入者の家族構成は、建築計画的に想定された「『夫婦+子供2人』が3LDKに適合する」という前提と乖離した日本的な現実が見られることに着目した発表が行われた。この原因は、「住まいに生活を合わせる」ことが常態化しており、その結果、市場では3LDKの寡占的供給が行われていることが指摘された。住まい手の「住まいへのこだわり」が未熟な環境においては、市場経済下では却って画一化が発生するという逆説的な事態となる。これに対して、需要者の選択肢を増やすハウジングの若干の試みがなされた後、今後の課題として、居住者に対する意識改革の必要性が指摘され、また今後のストック活用型社会における集合住宅計画手法の変化への期待が述べられた。

討論においては、収斂を目的としないという前提の下に様々な意見が出された。近世の大坂における集住の知恵と欧米からの輸入を重ね合わせること等による日本的なものの創出への期待、欧米追従からの脱却として、日本の伝統的な文化の集合住宅計画へ取り入れの可能性の示唆、そもそも欧米の追従を本当にしていたのかという「神話」検証の必要性の提起、幻想に基づく「青田売り」が否定される時代への期待、幕張ベイタウン11番街でのS・ホールの仕事の進め方に学ぶアーバンデザインとハウジングの関係等々、「日本型」という共通的な文脈の下に、今日的な問題点が各自の言葉で濃密に語られた。           

  
文責:石倉健彦(住宅・都市整備公団)