集合住宅フォーラムの記録

  『日本型集合住宅の計画論を目指して その2 ストック社会の中の集合住宅』

平成11年4月28日(水)18時〜21時 建築会館202会議室

集合住宅小委員会では、研究者や実務者の幅広い交流を企図して、WGを設けて定期的に集合住宅フォーラムを開催している。今回は、約80名の参加の下、高井宏之(竹中工務店)、山本理(長谷工総合研究所)の司会により、小林秀樹(建設省建築研究所)の主旨説明を受けて、主題解説及び4人の発表者による話題提供があり、その後自由討論が行われた。以下にその内容を簡単に報告する。

主旨説明                       高井宏之(竹中工務店)

本フォーラムのテーマである「日本型集合住宅」のとらえ方について、右肩上がりの経済を背景とし更地における新規建設及びその中で形成されてきた法的秩序や需要者の価値観を前提とした「戦後型の日本型集合住宅」から、今日のストック型社会構造への変化の中で生じる新たな検討課題に応え、さらに我が国の住文化や気候風土になじむものとして「現代の日本型集合住宅」を位置づけ、第1回フォーラムの内容紹介も含め、WG内での検討内容が紹介された。

話題提供1「集合住宅の再生 公団賃貸住宅の再生と海外事例」          石倉健彦・佐々木克憲(住宅・都市整備公団)  

公団が昭和30年代以降供給してきた既存賃貸住宅ストックの状況と今後の有効活用という論点で報告がなされた。大量供給時代の産物である昭和40年代団地が、耐用年限の過半を今後順次迎えることになるが、スプロールした郊外立地で、新規需要薄の中では、リニューアルなど建替以外の手法の導入も検討される必要があることが示された。次に海外の集合住宅再生事例としてイギリス・フランス・デンマークの紹介の後、日本における再生の試みとして、「晴海高層アパート再生計画」が紹介された。最後に事業者的立場から見た「再生計画論」構築上の課題として、短い残耐用年限内での事業費回収が必須であること、事業成立のための補助政策の必要性などが提起され、また地域の財産としての「団地」の価値を計画論に取り込むことや、長期の緩やかな計画と柔軟性も課題としてあげられた。会場からの質問に応えて、日本独自の再生の計画論については、課題が多くある中でも、居住者の意志の反映といったソフト面での課題が特に大きいのではないかとの認識が述べられた。

話題提供2「住みこなしをサポートするソフト(敢えていうなら住規範(造語))へ    内外の長期居住事例の分析から」

大月敏雄(東京理科大学)

集合住宅を社会的ストックとして考える場合に、ソフト(住規範)が大切であるという視点で、戦前に建設された同潤会や海外の調査等をもとに報告がなされた。同潤会から居住者に土地と建物が払い下げられたのは、区分所有法(昭和37年)制定前で管理組合のない時代である。住民が長く住む間に行った増改築などには違法建築行為も見られるが、住み続けるための住民独自の努力・蓄積の中に今後の集合住宅運営のヒントがあるという前提で、増改築、n戸1化、複数住戸使用、住宅・共用施設の用途変更などが住棟や団地全体ごとの住規範(ルール)の中で行われている例が紹介された。また、優先入居調整や隣地取得など居住者組織による住環境運営の事例の紹介から、コレクティブ・コーポラティブとの類似性が示唆された。また、戸建事例として横浜の洋館付き住宅、海外事例としてフィリピンのテラスハウスを通して、「可変型」住宅の自然発生や柔軟に対応できる住規範の仕組みが紹介され、「日本型」というよりむしろ「アジア型」という視点が重要ではないかという提起がなされた。

話題提供3「ストック社会のための空間像 日欧比較にみる新規建設に必要な視点」    佐野勝則(建設省建築研究所)

新規建設における視点として、スケルトン−インフィル型集合住宅についての提起がなされた。海外事例としてヨーロッパの旧市街地の集合住宅は石造あるいは煉瓦造の壁+木造の梁、屋根+床という構造が多く、改修はそれ以外の要素で行われており、SIの分離は当然のことである一方、新市街地の集合住宅はコンクリート躯体による2次的なストックとして捉えられており、「減築」や取り壊しもある。これに対して日本の集合住宅ストックは、コンクリート躯体が大半であること、また開放性や外壁の存在を意識しながら自由度を大切にしているという特徴がある。その具体例として日本におけるSI型集合住宅について、つくば方式他のプロジェクトが紹介された。スケルトンの企画設計については、利害関係のない公共的視点に立つ第三者主導が望ましく、また、インフィル部分については、住戸空間のキャパシティ(広さ)や使われ方によっては、性能過剰となることも考えられるとの指摘があった。会場からは居住と産業が組み合わされた「大阪の裸貸し」が日本型SI住宅の例として紹介された。

話題提供4「ストック型集住における自己実現と制限 きらきらプロジェクトに見る試みから」山田正司(山設計工房)

設計者の立場から、ストック型を意識した集合住宅プロジェクトの概要説明を通し、日本型として住戸まわりの開放性が重要であり、これを具体化するためにはハード面だけでなくソフト面も重要であるとの問題提起がされた。きらきらプロジェクトは、公団の開発した「フリーステージ住宅」の延長線上にあり、住民参加を前提としている。住宅計画は、乾式組立方式による可変外壁により廊下側とバルコニー側の空間の自由度を持っている。共用部分には「専用使用権を有する部分」が設定され、外壁の移動によってその広さが変わり、共用部分に対していろいろな仕掛けができる仕組みになっている。居住者は生活に合わせて可変外壁を動かすことにより、共用部分を取り込んだ住空間づくりが可能になる。また今回は、現行の区分所有法を前提とした管理規約に追加・変更する形で管理規約・協定が設定されたが、今後の対応としては現行の区分所有法では限界があるとの指摘もされた。会場からの、改変の主体についての質問には、居住者のDIYが主となるという応答がなされた。

討論においては、ストック社会における集合住宅のあり方についてさまざまな議論がされ、特にソフト面への関心が高かった。ストック対策においても建替だけでなく継続居住のためのソフト面での対応や居住者の主体性を尊重すべきであるという意見、ストックの活用は住宅に限らず用途変更も視野に入れるべきである等の意見があった。これらを通して、各々の話題がさらに深められ、今回のフォーラムでの話題への関心の高さと熱気がうかがえた。また、日本型とはいえ各地域で事情が異なるという指摘もあった。今後もWGを中心として「日本型」について幅広く検討し、次回のフォーラムにつなげたいとのまとめをもって終了した。

文責:牛山美緒(住宅・都市整備公団)・川村美和子(東京ガス)