集合住宅フォーラムの記録
『日本型集合住宅の計画論を目指して その3 次世代日本型集合住宅とは』
平成12年10月25日(水)18時〜21時 建築会館302・3会議室
住宅小委員会(旧・集合住宅小委員会)では、研究者や実務者の幅広い交流を企図して、WGを設け定期的に集合住宅フォーラムを開催している。今回は、過去2回のフォーラムの討議内容をふまえたこのテーマの集大成であるという位置付けのもと、約41名の参加を得て、園田眞理子(明治大学)の司会・進行により、主題解説を受け、論点整理と計画論展開にかかわる問題提起、及び具体的実践例をふまえたクリティークを経たのち、討議が行われた。
■主題解説 石倉健彦(都市基盤整備公団)
戦後わが国に短期的かつ政策的に導入された集合住宅には、欧米型直輸入ではない「日本型」と命名可能な共通の特徴が見られる。しかし、今後の社会動向の大きな変化をふまえれば、これまでわが国の集合住宅計画が前提としてこなかった様々な側面を認識した上で、これらの「日本型」を見直し、今後の集合住宅計画を構築する必要がある。今回のフォーラムは、特に設計計画的な側面に的を絞った提案を中心に行うこと、及び今後のわが国の集合住宅の計画論構築への手掛かりを提供するという意図が明示された。
■問題提起1「旧日本型集合住宅の特徴とその背景・要因」
鈴木雅之(アトリエガイア)
対象を都市内分譲集合住宅に絞った上で、現状の分析・評価の視点から、集合住宅計画に強く係わる日本固有の9つの背景(高温多湿/四季の変化/地震国/単一民族/急速な生活変化など)、4つの要因(住居観/法制度・インフラ/市場原理/技術)、及び23の「旧日本型」の特徴(都市との関係/配置/住棟/共用空間/形態/住戸/設備の6つにグループ化)を抽出し、それらの相互の関連性を、各「旧日本型」の特徴を解説する形で図式的にとりまとめた成果を紹介した。そして、現在の日本型を変えていくためには、これらの関連の様態をふまえた「解きほぐし」を行う必要があることを主張した。
■問題提起2「次世代日本型集合住宅に向けての着眼点」
加藤実(久米設計)
鈴木により提案された23の「旧日本型」の特徴を、設計者の視点から受け、具体の事例の点景で解説したのち、特に改善が必要であろうと考えた事項に着目し改善方策を、次の6つの着眼点の形で提示した。(・・・以降はそのもつ意味)
1)日本的スケール・・・路地、縁側などにみられるヒューマンスケールの反映
2)間のデザイン・・・道路際、隣地際のデザインの重視
3)脱ようかん型・・・南面重視配置の再構築
4)際のデザイン・・・開放廊下型、連続バルコニーのデザインの解消
5)場のデザイン(シーン)・・・コミュニティデザインとコミュニティ誘導デザインの形成
6)1K+α・・・ライフスタイルの多様化に対応した新たな『型』
そして、各着眼点は、大いに評価できるあるいは有益な示唆を得ることができる現存する事例を用い解説された。これらの事例は、写真、図面、及び関連する着眼点で構成された1事例1シートの形で美しくとりまとめられた。なお、これらのシート作成には、明治大学大学院園田研究室と東京理科大学工学部大月研究室のメンバーの献身的な協力があったことをここに付け加えたい。
■クリティーク:次世代日本型集合住宅の計画論の可能性と課題−「町家型集合住宅」等の実践を通じて−
田光雄(京都大学)
まずは以上の主題解説と問題提起に対し、わが国の集合住宅は、地域の集住文化を伴わない単なる技術導入の形で欧米から取り入れられ、十分な計画の要因分析もなされぬまま、欧米文化とはかけ離れた旧日本型が形成され、またその発展の過程で更に日本の集住文化自体からも遠ざかってしまったとの理解を示した。
そして、次世代日本型集合住宅の課題としては、住宅計画と同時に集住秩序自体の再編が必要であると指摘し、その典型例と具体的実践例として、近世以来の日本の集住文化が継承されている京都において取組んできた「町家型集合住宅」と「地域共生の土地利用とまちなか居住プロジェクト」を紹介した。
「町家型集合住宅」は、町家の多く残る京都の中心市街地で新規住宅の計画時にしばしば起こる紛争の原因が、既に地域に存在する建築群の計画の秩序との整合性の欠落にあるとし、その解決には地域に存在する空間構造や生活構造の読み取りが不可欠であるという計画理念の提案である。また、「地域共生の土地利用とまちなか居住プロジェクト」はその発展形であり、地域に係る地元住民・事業者・行政等をつなぎとめるまちづくりの組織(土地利用検討会)形成の実践である。そして最後に、これらの実践的提案や活動をふまえ、これからは「街・地域の中に住宅をつくる」という発想が極めて重要であると強く主張した。
■討議
討議においては、いくつかの切り口から活発な議論がなされた。第一は、前半で解説された「旧日本型」の特徴や「次世代日本型」の着眼点の理解や実現方策についてであった。あくまで目標像としての位置付けであり、やはり計画地の場所性・地域性をふまえた上で選択的に活用すべきではないかとの視点が示された。第二は、「次世代日本型集合住宅」に定番的解が存在するかという論点であった。住み手の規範や地域の集住秩序に対応した個別解が基本であり、単に計画としての手法だけでなく、供給方法や運営管理・組織づくりをも包含した計画論であるべきであること、そして定番的解があるとするならばあくまで結果として得られるものであろうなどの議論が交わされた。上記以外では、前半で問題提起された着眼点等に関しては、街としての視点や、既成市街地を計画地とした場合のあり方などに関しより展開すべきとの指摘もあった。
全体としては、本フォーラムのテーマへの関心の高さと課題のもつ裾野の広さをうかがい知ることができる意義ある企画であったと評価できる。今回の提案が、「旧日本型集合住宅」に対して単に一石を投じたに留まらず、「次世代日本型」への具体的な実践に向けて、更に多方面で発展的に検討されることを期待したい。
文責:高井宏之(三重大学)