建築学会広島大会前日の午後、「広島の地域特性と住まいを考える」を研究テ−マに、住宅の地方性小委員会広島研究会が開催された。西島加禰先生(広島工業大学)のご尽力により、短い時間に多彩な内容が盛り込まれた充実感のある研究会となり、委員会メンバ−と学生(40名)、地元広島県建築士会住宅部会員(13名)、並びに講師の今井信博氏(現代計画研究所)、栗栖繁氏(広島県住宅課)、栗本哲雄氏(東広島市郷土史研究会)の3方の合計56名の参加を得た。研究会終了後は、キリンビアパ−ク広島で懇親会が開催され、生ビ−ルを堪能して盛会の内に幕を閉じた。
1.見学会(1):新しい公営住宅の考え方○レイクヒル福富町営住宅
今井信博氏らの案内でレイクヒル福富町営住宅を見学した。この住宅は、地域の木材と地域の大工による自然素材を用いた健康によい住まい、里山の風景に調和し、若い世代のライフスタイルに応える住まいをコンセプトに設計された住宅である。なお、この町営住宅敷地に隣接して、ダム建設の代替住宅地に"御殿造り"の大規模な農家住宅群が建設されており、二戸一棟形式のシンプルなデザインのレイクヒル福富町営住宅と好対比で、参加者の関心をそそるものであった。
2.研究会:広島の地域特性と住まい
(東広島産業振興会館にて、司会=西川加禰<広島工大>)
講演1
○広島の海・山・川の地域特性をとらえた住宅政策
――理想と現実のはざまで――
栗栖 繁氏(広島県住宅課課長補佐兼企画係長)
「21世紀の広島の住まいづくり委員会」(委員長:住田昌二福山市立女子短大学長)による調査結果も踏まえながら、広島の住宅政策をそのビジョン、課題、施策の3点から語られた。広島の地域特性を捉えた住宅政策のビジョンとして、広島の海・山・川とマッチした住宅づくり、外国人にも評価されるまちづくりなどがあげられる。広島県内を地域別に見ると、北部の山間部、中央の農村部、沿岸部に位置する都市部、島嶼部の4つの地域に大別され、それぞれの地域ごとに住まいや住環境に特徴が見られる。従って、住まいづくりも、この4地域の地域性に視点を置いて行うことが重要である。その1例として、たとえば山間部では森、農村部では田園、島嶼部では海に親しむ住まいづくり、都市部では都市の自然を生かした住まいづくりなどを構想している。
現在、県内86市町村のうち約50市町村で住宅マスタ−プランが策定されているが、その中には近隣市町村のマスタ−プランを真似ただけのものもみられる。市町村の主な関心は都市の住民や若者に古里へUタ−ンし定住してもらうことであり、県としても定住施策に最も力を入れている。今日見学したレイクヒル福富町営住宅はその一つの試みでもある。町村レベルでは行政内部に建築の専門家がいない場合が多いが、県としては市町村と一緒に地域の住文化を創造するとともに、市町村の住宅マスタ−プランの中で、地域ごとに特色あるものを作っていきたいと考えている。
各市町村がそれぞれの地域性を生かした住宅政策を行うためには、県や学会等がいかに市町村を支えるかが大きな課題であると考えている。しかし、行政が行える手段は限られているため、県としては学会が様々な施策を提示し、行政を指導してくれることに期待を寄せていると締めくくられ、理想と厳しい現実の狭間で、地域特性を生かした広島の住まいづくりの施策を模索する行政の姿が語られた。
<質疑>
@眞嶋(北大):市町村として、いかに頑張っているかが重要である。資料の森林や田園を生かした住まいのイメ−ジ図は、伝統的住宅にこだわりすぎているように思う。若者が好む住まいづくりのポイントについて、市町村によるイメ−ジづくりが重要では。
栗栖(広島県):見学したレイクヒル福富町営住宅は、若者にも好まれ、地元の人にも好まれる住宅だと考えている。これを一つの好例として、町村住宅を考えてほしい。
A眞嶋(北大):今後の施策の中で述べられた「学会の使命」をもう少し具体的に。
栗栖(広島県):例えば住まいづくりの中で、生活に対する行政の手段は、正直言ってないに等しい。例えば、今日の見学で、ダム建設の代替地の御殿造りの大規模農家には高齢者が多く、80歳を越える老夫婦もいる。こうした人たちの将来の生活に対する行政的手段がない状態である。学会が、いろいろな手段を提示してくれることを期待している。
B長谷川(建研):山間部での取り組みなどは、1つの市町村では無理があると考えられる。立地としてつながりのある市町村でまとめて、広域的に検討することはどうか(車中での質問)。
栗栖(広島県):近接する市町村が互いに競い合っていることで、結果としてまとまった取り組みがなされ、成果となっている例がみられる。県内では東部の方が、取り組みが盛んである。
講演2
○西条盆地伝統の赤瓦について(旧石井家住宅を含めて):
栗本 哲雄氏(東広島郷土史研究会事務局長)
東広島市は、近年都市化が著しいが、周辺部には田園風景が広がり、地域の伝統的な住宅形式である「居蔵造り(いぐらづくり)」と呼ばれる赤瓦を葺いた白壁の農家が点在している。この景観が東広島の特徴といえる。東広島地方の民家が本格的に来待釉の赤瓦を葺きはじめたのは、江戸時代末期からと考えられる。この頃には、すでに石州から瓦職人が西条盆地(現東広島市)に入って来ている。赤瓦の本格的な普及は、明治中期から大正期にかけてであった。それでも、昭和10年(1935)頃は、まだ茅葺き屋根の家が8割程度を占めていたといい、赤瓦普及の最盛期は、やはり戦後になってからのことらしい。
西条盆地およびその周辺一帯では、明治中期頃から、大正、昭和初期を経て戦後に至る約半世紀余りの間に、多くの農家や民家で「西条キマチ」と呼ばれる赤瓦を用いた家屋の改築が行われた。この「居蔵造り」と俗称される、つし二階を持つ母屋に蔵や納屋、門その他の付属屋を構えた農家の造りが東広島地方とその周辺町村に普及し、この地方の特色となったのである。
後半は、見学先の「東広島市指定重要有形文化財旧石井家住宅」について説明していただいた。旧石井家住宅は西条地方(現東広島)を代表する民家で、江戸時代初期の町家の形を残すものである(寛政7年<1795>建築)。屋号は「おぐらや」といい、もとは造り酒屋であったが、幕末には旅籠を営み、明治以降は薬店となった。旧石井家住宅の平面は、座敷を前面の道路側に配し、床の間を道路側に設けるなどの点で、この地方の古い時代の町家の形式を継承したものである。また、立面から見ても、大型の入母屋妻入の町家は当地方の典型的なものであるといえる。
3.見学会(2):
@旧石井家住宅(東広島市指定重要有形文化財)
A西条盆地の住宅群(赤瓦の農村住宅、車中見学)
旧石井家住宅: 復元・東広島市指定重要文化財・江戸時代の大規模な町家・酒造業、後に旅籠、明治には薬店。構造形式:入母屋造 妻入・本瓦葺・一部二階建・両側面二階屋根錣葺き下ろし。
規模:桁行17.2m・梁間13.7m、建築面積204.6u、延床面積287.6u。
建築年代:寛政7年(1795)、平成9年移築復元
(文責:碓田智子<福井大学>)
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