技術者のモラルハザードとリスクマネジメント
― 倫理の欠如、道徳的危険がみられ看過できない。
― 品質に関する危機が迫りつつありこのままほってはおけない。

4.1 技術者のモラルハザードとリスクマネジメント

4.1.1 品質危機と工事管理技術者
 近年、受注競争が激化し、低価格・短工期で受注せざるをえない物件が大幅に増えてきたのを受け、工事費削減・工期短縮を図ることが至上命題となってきた。この結果QCDSE各管理対象の取り組みへのアンバランスが起こり、施工中・竣工引き渡し後を問わず品質上の問題が数多く発生し、品質危機が懸念されて来ている。良い品質の建物を顧客に提供することが第一の使命であるとのモラルの欠如とともに、最近の工事管理技術者の技術力・能力の低下がその底流にあるとの指摘がなされている。

4.1.2 技術の空洞化の背景
 技術力・能力の低下、技術の空洞化が叫ばれる背景は何か。どのような問題が発生してきているのか。現在がそうだというのなら、そうではなかった“昔”とはいつのことなのか。
 これに対しては、近年退職の時期を迎え、現場最前線から引退しつつある世代の声は一つのヒントを与えてくれる。問題点ははっきりとしている。工程・工期の遅れ、品質の不良、事故の発生、利益の減少など具体的な形で現れている。これら不具合の発生する頻度が増え、その具合の悪さ程度がひどくなってきたとの指摘である。
 現場における施工・管理技術、ものづくりの核心は、現場での実務・経験を積まないと身につかないものが多々あり、先輩から後輩へと、OJTを通じて受け継がれて来たものである。この技術と技能の「伝承の仕組み」が従前のごとく働いてさえいれば、技術の空洞化は十分防ぎ得たと考えられる。

4.1.3 技術・技能の伝承の難しさ
・現場を若年層の技術伝承の場と捉える余裕がなくなってきた。
・業務内容が現場主義からオフィス型へと移行した。
・JV工事が増え、技術伝承の機会となる単独工事が減少した。
・現場構成が核家族型へ変化し、年齢構成の歪みもあり、
  コミュニケーションが減少した。

4.1.4 現場技術者の意識の変化
・個人、現場単位で処理――達成感、技術の向上の機会
・現場以外からの過度の支援――技術向上の機会損失、達成感の欠如
・購買業務等の母支店主導――現場裁量権の縮小 ―― モラールの欠如
・アウトソーシングの導入――技術向上の機会損失、判断力の欠如
・ITの活用――判断力・創造性・個性の欠如
・新しい管理業務(ISO品質/環境、安全)
   ――本末転倒、書類重視の管理、負荷の増大
・価値観の多様化 ―― “ものづくり”のプライドの欠如、動機の薄らぎ
・現場での責任感の欠如 ――“当たり前作業”の不実行、モラルの欠如