4.4 施工図に関連するヒアリング調査
 
 現役の現場所長や、以前現場所長をしていて、現在、本社や支店の部長等をしている複数の方にヒアリングした。その結果、おおむね予想していた範囲の回答が多かったが、かなり趣の違う回答も得られた。

 なお、回答を....
  ▼:一般的な回答
  ☆:施工図がすべて的回答
  ★:全く趣の違う回答
....と区分する。

■まず、一般的な回答の結果を中心に 以下にまとめる。

【質問】昔、現場の中にいて、施工図を書いていた人は、今、どこにいるの?
▼:昔から施工図を専門に書いていた人は少ない。(特に首都圏の現場。地方の現場ではやや多い。)通常は、施工図も書き、現場も見ていた。施工図を専門に書いていた人は、今 施工図センターのような部署に配転しているか、転職している。

【質問】今、施工図センター(等)で施工図を書いている人に、昔の人のようなノウハウを持って書いている人がいるか?
▼:施工図センターはCAD。まず、(時間単価の安い)女性が入力する。入力前の打ち合わせや 作図のチェックは、技術を持った人がしている。しかし、人数は少ない。

【質問】(上記、ノウハウがあまりないとして) 標準図のようなものが整備されていると思うので、全体の80%程度の一般的な物件の施工図は そこそこ描けているだろうが、残りの20%の特殊なノウハウ・知識を必要とする物件に 瑕疵・クレームが発生していないか?
▼:技術やノウハウを持った人が、入力前の打ち合わせや作図のチェックを行っているが、人数が少なく、対応しきれていない。
☆:標準図という考え方そのものが、技術ノウハウを失わせる要因である。建物は 1つ1つ違うものであり、標準図という考え方が間違いである。ある部分の納まりを決めたとして、その壁をず〜っと たどっていって、遠い部分で納まりの不整合が起こることが良くある。これは描かなければ発見できない。横方向にも 高さ方向にも、頭の中は 3次元の総合図になっていなければならない。

【質問】今の(若い)現場員は、施工図を書けないだけでなく、読む能力も大変低いと言われている。このことが、瑕疵・手戻り等が 増えていることの原因の1つと考えるか?
▼:読めない。描けない。施工図センターや、本社(支店)生産センターに計画業務の多くを移管した結果、「責任感」が欠如してきている。これが、瑕疵・手戻り等が 増えている大きな要因である。

【質問】そもそも、現場員(社員)の技術力が落ちたのか? ただ、非常に忙しいことが原因なのか? 現状はそうだが、このまま放置していると 技術力低下が懸念されるか?
▼:技術力低下が懸念される。
★:とんでもない。技術力は昔よりもはるかに高くなっている。
☆:もはや末期的状況である。ゼネコンなどいらない。

■どこのゼネコンも同様に「最近 現場がガタガタ」のようで、学会の委員会でも話題に登ります。その原因は、「異常なまでの価格競争」が最大要因のようですが、それだけではなく、バブル期を通じて、多忙と人手不足のあまり、より下流の専門工事業者に多くの業務を委託した結果、ノウハウや技術力もいっしょに流出してしまったことも 大きな要因のようです。ゼネコンから多くのノウハウや技術力・その他が流出した結果、最近 瑕疵・手戻り・手直しが多発しているとも言われています。

【質問】以前に比べて 瑕疵・手戻り等の不具合が 最近増えていると仮定して、または、現場員(社員)の技術力が低下していると仮定して、具体的に、何を どうすれば この問題が解決の方向に向かうと考えるか?
▼:例えば、昔、4人で担当していた現場が、今は2人程度しか配属されていない。この現状に対して、3人に増員して、昔ほどではないにしても、ある程度、現場にて施工図を描くようにしなければ、技術力の回復はおぼつかない。
☆:現場で施工図を描くことに回帰しなければならない。ギリギリ譲歩した最低限としても、ポイントとなる部分は現場で施工図を描き、それを施工図センターに送る。

■現場員(社員)に対する施工図「教育」について

【質問】施工図に関して、現状の「能力レベル」は?
▼:描けない。一般的なことしか読めない。難しい「収まり部分」まである程度知っていて 指示できる人は 少ない。

【質問】施工図に関して、必要な「能力レベル」は?
▼:描く能力は一般的レベルで良いが、読む能力・指示する能力は、難しい「収まり部分」までだいたい熟知しているレベルの能力が必要。
☆:CADで描かれた図面は 一見もっともらしく描かれている。うまく納まっているように錯覚する。読む能力で間違いを見つけることは、描きながら 間違いを見つけることよりも はるかに難しい。描けなくても読めれば良い、などというのは、大間違いである。描けなければならない。

■「施工図」は ゼネコンにとっての 「最後の砦」説
 多くの技術が 下流の専門工事業者に流出している。 しかし、躯体図を中心とする施工図は、かろうじて まだゼネコンが握っている。この施工図は、技術やノウハウや利益の源であると言える。

 施工図をゼネコンが握り、必要なものは下流から取り戻し、技術やノウハウをゼネコンが保持することが、ゼネコンが生き残る最後の手段である、ということを「最後の砦」と表現。

 「契約主義的手法」や「CM/PM的手法」が 進展を見せている。このまま現状を放置していると、「ゼネコン不要論」とあいまって、ゼネコンが無くなる可能性も否定できない。ゼネコンが無くなることが時代の要請であれば甘受せざるを得ないが、欧米流の手法に席巻されるのを看過することはできない。契約主義的でない、協調的・利害調整的な、日本的な(東洋的な)良さを兼ね備えた 新しい時代の「手法」があるはずです。

 「施工図はゼネコンの最後の砦」説は、単なる「時間稼ぎ」かもしれないが、「日本的な(東洋的な)良さを兼ね備えた 新しい時代の手法を確立する」ための時間稼ぎであれば、前向きの姿勢のものだと考える。

☆:施工図は、職人さんのために描くものである。ゼネコンにとって利益を生み出す源は、職人さんにとって 分かり易く・作り易い施工図を描いてあげることによって、ミスが少なく、良いものが 安く 早く できることに帰着する。この原点は、施工図センターができても 生産センターができても、普遍である。施工図センターや生産センターがなくならないのであれば、ここと現場とが、如何に コラボレートするか、が今後の課題である。

★一般的な意見とは異なる 特徴的な意見の紹介

●:品質も 技術力も 工事管理能力も、20年前に比べれば、はるかに向上している。品質・技術力が ガタガタなど、とんでも無い話である。乗用車を例に挙げれば分かり易い。20年前のカローラ・クラウンと、今のカローラ・クラウンを比べれば、今の方が 飛躍的に 品質が高い。 建物も同じである。

●:施工図は描かなくなったかもしれないが、充分に読んでいる。昔の意味で読んでいるのではない。専門工事業者や施工図センターと綿密な打合せを行って、その中で ミス無く、品質の造り込みを行っている。そういう意味では、我々が今やっている工事管理は、昔の工事管理ではなく、もはやPM・CMである。PM・CMという工事管理を 高水準で実施している。

●:瑕疵やクレームは、多発していない。「モレ」という意味で 瑕疵クレーム現場は当然多少は発生しているが、表沙汰になることが増えただけである。

●:「コストの不透明性」・「ドンブリ勘定」も、もはや存在しない。今 我々はギリギリの状況で工事をやっており、コストも明確に把握している。「施主からの一任により リスクを一手に引き受けている」という状況は 今も同じだが、コストは明確に把握しており、設計変更や不測の事態によるコストも 算出している。これによる 請負金額の追加が認められるかどうかとは 別問題である。認められなければ、利益が減るか赤字になるかだけである。ビルオーナーの施主がいて、工事をするゼネコンがいて、リスク等をゼネコンが一手に引き受けて、追加工事金等がなかなか認められないのは、ある意味では 市場経済の中で仕方のないことである。官庁・土木工事とは 違うのである。