5.施工図の作成プロセスの現状 −B社の事例
 
ケース1

1)物件概要
  用途:集合住宅28戸
  構造規模:RC造8階建
  法延べ床面積:2,800u
2)中心となる施工図
  @コンクリート寸法図
    現場作成→監理チェック→現場修正
  A平面詳細プロット図
    現場作成→監理、デベ(ユーザー)チェック→現場修正
  B販売パンフレット
    パンフレット製作会社→現場、監理、デベチェック
    →パンフレット製作会社修正
3)施工図に取り込む情報
 コンクリート寸法図に取り込む情報は他の用途物件と変わらないが、平面詳細プロットに関してはディベロッパーの仕様やモデルルームの情報が加わる、また購入ユーザーによる設計変更や、仕様変更があり、図面に表現できない事項は住戸毎にまとめておく必要がある。
 マンション工事では設計図書よりも販売パンフレットのほうを優先する傾向にある。パンフレットは工事開始早々に作成するので、設計図、施工図との整合性確認を初めの時期に短期間で実施しなければならない。パンフの作成は施工の範囲外であってもチェック確認の役割は受け持っている。販売終盤でのパンフ修正は解約に繋がる可能性もあり、施工会社の責任を問われることもある。

ケース2

1)物件概要
  用途:郵便局庁舎
  構造規模:RC造3階建
2)中心となる施工図
  @コンクリート寸法図
    現場作成→監理チェック→現場修正
  A平面詳細総合プロット図
    現場作成→監理チェック→現場修正
3)施工図に取り込む情報
 郵政省の標準仕様。(その省庁特有の業務に関連する部位の仕様はともかく、もう少し共通性を持たせられないものか)
 総合プロット図はかなり密度の高いものを作成することになる。しかしこれができれば後の管理が容易になることは確かであり、正しいものづくりの手順なのだと思うが、そのための期間が不足している物件があまりに多いのが現実である。

問題点

・建物の造り込みに関する知識と意識

 施工図は単にものの寸法を2次元(3次元)で表現したものではなく、完成後の漏水・耐久性などといった建物の品質に関わるディテールや、作業効率・作業の安全性といった作業自体の質に関わるカタチなど、建物の造り込みに関するノウハウを工事に関わる全員に伝達するための情報ツールであるべきで、施工担当者が施工図を前者ととらえるか後者ととらえるかでは仕事の質に大きな差が出ると考えます。すなわち、施工図を作成できるか否かは施工のノウハウのありなしに関わっていて、この知識がなければ施工図の作成はもちろんチェックも出来ないはずであり、むしろ施工図としての作図経験よりも、ノウハウを盛り込んだスケッチが書ける(ディテールや寸法の意味を認識している)ことのほうが重要なのだと思う。

 これらの知識修得には施工中またはメンテナンスで痛い目に遭う(失敗の経験)のが最も効き目があるが、低コストの中、失敗できるゆとりは無い。また、施工図を外注する場合、施工図作成者の中には現場経験が豊富で施工会社(設計事務所)の仕様を心得た人も多く、そういったあらかじめノウハウの盛り込まれた施工図で工事を進めていくと、若年の担当者はそのディテールの意味を意識することもなく建物が完成してしまう場合もある。ゼネコン社員の役割も以前とは少し変化してきており、そんな中、技術の空洞化という問題も実際に出てきているように思う。そういった意味でディテールや図面表現に関する資格のようなものを新設すれば良いのではと考える。施工図の善し悪しが品質を左右することが多い現状から、また初めて施工図を外注する場合の技量判断の指標にもなり建設の質の向上に有効であると考える。

・CADデータの管理と互換性

 CADの有用性から、製図台を置いている現場事務所は少なくなってきた。複製が簡単に可能なので、基準のデータがあれば、それを利用してそれぞれの部門で効率的に施工図を作成できるのが大きな利点の一つと思うが、その利点が欠点の要因にもなっている。基準データの変更情報を複製された全ての図面に反映させなければならないからである。それぞれの事業所において、変更履歴と最新版情報を管理するシステムを確立することが重要である。
 規模の小さい会社はフリーソフトを使用している、ある程度の会社規模になると、意匠系、設備系、鉄骨・・・のように得意な分野を持つCADソフトに分かれる傾向がある。データ変換に際して、線の色や文字の大きさの違いは良いとしても、縮尺や寸法線の認識方法が若干異なる場合がある。レイヤ割付など、もう少しルールの整理が必要である。