固定資産評価小委員会の経緯

「日本建築学会建築経済委員会30年史」(季刊建築経済研究 1980年春号)より

固定資産評価部会

本部会は建築物に固定資産税を課するための建築物価格を適正に決定する評価基準に関して調査研究し、建築物の評価に関する研究の一途とすることが目的である。
本建築学会において固定資産税の家屋評価に関する研究が始められたのは、昭和24年10月「特別家屋税新設問題について」シャウプ博士の進言からで、 研究組織の発足はそれから3年後の昭和27年4月第一次固定資産評価基準調査委員会(委員長 中村寛)からである。 設置趣旨に関する記述は不明であるが、当初の主旨は現在の委員会目的に引き継がれているものと思われる。この委員会の研究活動は昭和27年地方財政委員会から委託研究として、
@発電用建物の評価、木造以外の建物の再建築価格評価、木造住宅老朽減価率
A建築工事費の地域差指数
B木造評点法、経年減価、実施減価、木造以外の損耗減価
C農山漁村建物評価基準調査
を受託している。
昭和28年には、前年よりの継続研究の成果として木造住宅、木造農家の再建築費を東京、神奈川、千葉、京都、奈良、北海道の各都道府県について調査し、 評価基準資料の作成と、北海道庁より委託研究として木造建築実況調査のため実態調査の報告があった。
以上のように多くの委託研究が短期間で行われているが、研究成果についての記述は少ないようで、自治庁税務部佐々木喜久治他2名の著『家屋評価の実務』地方財務協会(昭和30年4月発行)によると、 「家屋については、評価上の理論的、技術的問題を解決し、評価の適正均衡を図るため昭和27年から昭和28年に亘って斯界の権威である日本建築学会に対し合理的にして実務的な評価基準の検討作成を依頼し、 その答申に基いて評価基準が示される運びに至ったものである」と述べられている。
このことから推測すると、当委員会において現在の固定資産評価基準の基礎となる調査研究がなされ、評価基準の具体的提案がなされたものと思われる。 それらの中で注目されることは、建物評価方式に再建築費評価方式の具体的な提案と、再建築費の算出に部分別積算方式の提案がされたことである。 このような成果を残し同委員会は昭和28年10月用務結了として解散している。
第二次固定資産評価基準調査委員会は第一次調査の際、将来に残された諸調査を完結するために、昭和30年8月中村寛委員長他8名で昭和31年度までの2年継続事業委員会として組織されたが、 委員会は2年で終わることがなく継続され、昭和37年7月までの約7年間研究活動が行われ、次のような研究成果が残されている。
昭和30年度は自治庁委託研究「非木造家屋及び農漁山村木造家屋、寒冷積雪地域木造家屋対象の研究・調査」報告がある。
昭和31年度は自治庁委託研究「木造に関する部分の改訂、ブロック造に関する評点表等につき調査研究」、 および自治庁委託研究「評価基準における経年減価表、耐用年限表、単価表等各改訂案の作成と再建築価格決定方式の再検討」の報告がある。
昭和32年度は自治庁委託研究「固定資産評価基準のうち家屋にかかる再建築費評点基準表の改定に関する調査研究」報告がある。
昭和33年度は自治庁委託研究「固定資産評価基準の改訂に関する調査研究及び改訂案の作成」報告があり、その主な内容は
@木造家屋の損耗減点率
A木造以外の附属設備の評価方法
B標準家屋選定方法
についてである。
昭和34年度は自治庁委託研究「木造家屋単価表、非木造家屋単価表の作成及び軽量鉄骨造再建築費評点基準表の提案」報告がある。
昭和37年度は自治省委託研究「非木造建築再建築費評点基準表案の調査研究」報告がある。
以上の成果を第二次固定資産評価基準調査委員会は残し、昭和37年7月で廃止され、その業務は建築経済委員会へ引き継ぐことが理事会で承認される。 この決定に従い、固定資産評価基準調査委員会は建築経済委員会の中に、固定資産評価第1部会(主査 谷重雄)、第2部会(主査 松下清夫)で再組織される。 第1部会は木造家屋の評価基準に関する問題を主に調査研究し、第2部会は非木造家屋の評価基準に関する問題を主に調査研究することで出発したが、昭和50年第1部会、第2部会が統括され (※)、 固定資産評価部会(主査 松下清夫)として現在 (註:昭和54年)に至っている。この間に行われた主な研究活動は前委員会と同様に、自治省からの固定資産評価基準に関する委託調査研究であった。 (※この間の状況については資料がなく、詳らかではない。昭和50年に改めて建築経済委員会に所属することが決定された)
昭和39年度は自治省委託研究「需給事情が家屋に与える影響(農林地域における家屋の評価との関連を中心として)についての調査研究」報告がある。
昭和40年度は自治庁委託研究「寒冷積雪地における非木造家屋の損耗についての調査研究」報告がある。
昭和41年度は自治省委託研究「簡易非木造評点基準表の作成と現行基準の補正方法の調査」と、北海道庁委託研究「非木造家屋に関する調査」の報告がある。
昭和42年度は自治省委託研究「新建材の積算方法に関する研究、建築費の値上りの推移に関する調査及び非木造家屋にかかる物価水準補正率の調査」報告書がある。
昭和44年度は自治省委託研究「非木造再建築費評点基準表についての調査」と、新潟県委託研究「積雪地帯における木造家屋の耐用年数、積雪荷重と木造家屋構造との関係についての調査」の報告がある。
昭和45年度は自治省委託研究「木造家屋再建築費評点基準表および非木造家屋再建築費評点基準表における評点項目及び標準評点数の改正並びに積雪寒冷地に所在する非木造家屋の損耗状態についての調査研究」報告書と、 北海道庁、新潟県委託研究「積雪寒冷地に所在する非木造家屋の損耗の状況についての調査研究」報告書がある。
昭和46年度は自治省委託研究「木造家屋および非木造家屋にかかる再建築費評点基準表の改正に関する調査研究」報告書があり、 現行非木造家屋再建築費評点基準表、現行工場生産組立式構造物再建築費評点基準表(準則)を昭和46年1月東京基準として検討した結果、建物価格の地域的格差の調査、超高層建築の現況調査などが行われている。
昭和47年度は自治省委託研究「超高層建物の評価方法に関する調査研究」報告書があり、超高層建物の価格構成、躯体量調査が行われている。
昭和48年度は自治省委託研究「家屋評価の簡素化について」の報告書がある。
昭和49年度は自治省委託研究「工場量産組立式構造物の評価に関する研究ならびに建築費の変動に伴う家屋評価の方法について」報告書がある。
昭和50年度は自治省委託研究「工場量産組立式構造物の評価に関する調査研究」を行ない報告書が作成されている。その主な内容は住宅以外の市販されているプレファブ建築物の実態調査と軽量鉄骨系プレファブ住宅の損耗実態調査である。
昭和51年度は自治省委託研究「固定資産家屋評価基準表における非木造家屋再建築費評点基準表の改正に関する調査研究」の報告書がある。その主な内容は現行非木造家屋再建築費評点基準を昭和52年1月東京基準として検討を行なったものである。
昭和52年度は自治省委託研究「プレファブ建物の再建築費評点基準(準則)の改正等に関する調査研究(固定資産評価基準表の改正に関する研究)」の報告書がある。 主な内容はプレファブ住宅の価格構成、躯体量に関する実態調査結果とその結果からプレファブ建物の再建築費評点基準を昭和51年東京基準として検討を行なったものである。 このほか超高層建物の固定資産評価に関する基礎的研究も行なっている。
昭和53年度には自治省委託研究「木造家屋および非木造家屋に係る設計管理費等による補正率の決定、物価水準による補正率の決定、非木造家屋における設備の部分別損耗減点補正率表の作成に関する調査研究」がある。 また財団法人資産評価システム研究センター委託研究「家屋の利用価値と経年減価率との関係に関する調査研究」により、日本建築学会創設から現在までの耐用、耐久性に関する文献の全てを集録し、 「耐用性・耐久性関連文献リスト」を刊行している。

(加藤裕久)