家族へ

大熊 アイ子 君(大阪工業技術専門学校 建築学科)

 迫力のある作品である。夫婦、親子、兄弟といった家族の中の人間関係の様々な歪みを具体的に掘り下げ、二年間の期限付き住宅の設計というユニ−クな方法を通じて、逃避することによって偽りの解決を図ってしまいがちな家族問題に真正面から取り組んだ意欲と実行力を高く評価したい。設定は極めてリアルである。先ず、作者と二人の弟、父、母、祖母の一人ひとりから他の家族への具体的なメッセ−ジが集められている。次いで、それに基づいて鉄骨のフレ−ムの中に各自の個室がアプロ−チ空間を大切にしながら配置されている。もっとも、個室のデザインに重点はない。個室と個室、個室と通路、通路と通路などの要素空間と要素空間の関係性のデザインに精力が注がれているのがよくわかる。「本当はもっといい関係でいたい」と願う家族による家づくりワ−クショップの提案とも理解できるこの作品は、家族と住まいのあり方を真剣に考えようとする作者とその家族のプライバシ−をさらけ出すことによって、「家族とは何か」「住まいとは何か」を鋭く問いかけているのである