大学建築系学科卒業設計コンク−ル審査報告


審査委員長(互選) 上野卓男
審査員 安藤邦彦・小林一成・北村潤 ・古川博司・舩橋昭三・與謝野久(50音順)

審査経緯

 本年の応募は、昨年同様15大学、21作品で内、8作品が女性である。
作品の傾向は、駅、学校、文化施設等々多彩であるが、その大半は、市街地等の活性化をテ−マとするものである。全作品を通じて感じることは、作品としての完成度は認められるものの、コンク−ルを前提とする限り魅力のある作品が乏しいようである。そうした中で特徴を挙れば、建築を詩歌的あるいは彫刻的に扱い、そのものを場所性に特化して見せようとするものや、建築をソフトを併せもつシステムとしてとらえ、都市の再構築に投じようとするもの等、一歩展開を試みたものが数点みられたことである。
 審査に当っては、これら一つ一つの作品についてテ−マ設定の視点や作品としての習熟度はもとより、主張することを簡潔に伝えるプレゼンテ−ションであるか等々討議を行ない学生らしい作品の選考に努めた。

●第一次審査

 本審査に先立ち全作品について概括を行い上記のような評価を認められたため、しぼり込みを行なうこととし、審査員各5点(與謝野委員は事前審査で3点)の投票を行なった。各委員投票理由を説明、討議の上、12点を二次審査対象とした。

●第二次審査

 審査員各3点以内で再度選出することとし、結果0票を除いた、8作品について討議の上、4作品にしぼられた。この段階で先ずNo3,21を入選とした。

●第三次審査

 残った2作品について討議し、合議の結果No10を入選と決定した。

●優秀作品 
No.3 Environmental revolution−2001 Kyotocity−
No.10 Plug-in−多変都市−
No.21 Study From Study Modern Study

審査概評

 学生の感受性は若いが故に時代の息使いを敏感に反映するものであろうから、応募された作品の語り口の多様さは、現代の建築的状況を暗示していて興味深いものがあった。各作品から窺える問題意識とエネルギ−の高さには頭が下がる思いがする。
 一つ一つの作品は多様であるけれども、いくつかの点で共通するテ−マは読みとることが出来る。建築のア−キタイプを求めようとするもの、時間概念を空間化しようとするもの、概念操作による設計手法を探る試み、等からは具体的な建築的提案を超えた問題意識を見て取れるだろう。これらの作品は、建築の概念そのものを解体、あるいは拡張しそのことにによって新たな構築の可能性を探る試みと捉えられる。
 また、高齢化や震災、都市の再生、まちづくり、といった現実的な課題に応えようとする意欲的な提案には建築のもつ社会性への真摯な姿勢が好ましかった。一方、問題意識が概念的になる程総じて敷地への意識が希薄にならざるを得ず、場所と建築との関係を問う作品や、内と外との関係など建築の空間構造そのものをテ−マにした作品が少ないように見受けられた。いずれにせよ根源的な問いかけを導き出している作品が討議の対象になった。
 入選作はティピカルなテ−マに分けた中から選ばれたものではないが、敷地からの発想、時間軸を建築概念に導入する試み、概念操作による建築の制作過程を問いかける作品というカテゴリ−の明確な作品が選ばれる結果 となった。