短大・高専・専修学校並びに
工業高校卒業設計コンク−ル審査報告

審査委員長
(互選)

赤崎弘平
審査員 奥 哲治・設楽貞樹 ・高田光雄・中川 理(欠席)・橋寺知子・吉村英祐
(50音順/1名欠席)

審査経緯

 平成9年度標記コンク−ルの審査は、平成10年4月8日の午後から大阪科学技術センタ−で6名(7名のうち1名欠席)の審査員により行った。本コンク−ルの主旨、前年度実績、平成9年度の応募状況、当支部本コンク−ル審査に関する内規等を確認した後、慣例に基づき互選し赤崎を審査委員長に選出した。応募数は、「短大・高専・専修学校の部」13点、「工業高校の部」7点で、昨年度と比し前者は1点増、後者は1点減であった。
 審査に当たっては、対象が「短大・高専・専修学校」、及び「工業高校」の卒業設計作品であることに鑑み、それぞれの作品の欠点をあげつらうことは避け、長所を極力見出して評価すること、また「前者」部門応募の設備設計作品1点も他作品と同等に評価すること、そして、各審査員は原則として、短大・高専・専修学校の部にあっては5作品、工業高校の部にあっては3作品を推薦することを申し合わせた。
 まず1時間程度を掛けて各審査員が作品を評価、第1回目の投票を行った。結果は「短大・高専・専修学校の部」で得票したものが13作品中8点で、内訳は6票(満票)が1点、5票2点、3票3点、1票2点(計27票/5票投じた者3名・4票投じた者4名)であった。「工業高校の部」では7作品中6点が得票、内訳は6票(満票)が1点、3票3点、1票2点(計17票/3票投じた者5名・2票投じた者1名)であった。
 以上の結果を踏まえ、全員で審査に入った。最初に、得票するに至らなかった作品についてひとつずつ慎重に確認して審査対象から外すこととし、次に各審査員が自ら投票した作品ごとにそれぞれの立場から見解を述べ、一通 り見解開示が終わった段階で討論に入った。作品のテ−マ性に重点を置く立場、技術力に重点を置く立場、完成度に重点を置く立場、表現力に重点を置く立場などのほか、多様な立場から活発な意見交換がなされたが、討議が尽くされたことを審査委員長が確認した後、2回目の投票を行った。
 その結果、「短大・高専・専修学校の部」では、第1回投票で6票(満票)を得た作品と5票を得た作品のうちの1作品、そして、当初3票得ていた作品の中の1点が当初5票得ていたもう一方の作品をおさえ、上位 3点を占めることとなった。「工業高校」では、第1回投票で6票(満票)を得た作品と、3票を得た3作品のうち2点が上位 3点を占めた。すなわち、「短大・高専・専修学校の部」では、第1回投票で5票得た作品のうちの1点が3点得た作品のうちの1点と入れ替わること、「工業高校の部」では第1回投票で3票得た作品のうちの1点が選から漏れることとなった。このことについて各審査員が意見を述べ、再度討論の後、この第2回投票で選ばれた各部門ごとの上位 3点を入選とすることを全員一致で確認、最終決定とすることとした。

審査概評

 今年度の応募作品それぞれは、卒業設計としてのテ−マ設定、建築物デザイン、図面 やレイアウト表現などに意欲的なものが多く、作品として完成度が高いものが多かった。審査経緯にも述べたように「短大・高専・専修学校の部」、「工業高校の部」とも審査員全員が推す作品があり、次に続く作品もいくつか挙げられて、それぞれ3作品に絞り込むことに苦労もした。この度は惜しくも選に漏れたが、ここに入選した作品以外にも意欲的で優れた作品がいくつかあったことを付け加え、以下には入選作品についてのみ概評する。

(1)「短大・高専・専修学校の部」

 作品No.6は、わが国建築の中でも最も優れた歴史的建築物の一つである桂離宮に対する理解をベ−スにして、それと共鳴する現代建築を創り出そうとする意欲と、具体的に建築空間、そして地域空間としてまとめあげる力量 の高さが評価された。
 作品No.9は、自らの体験を踏まえ、それに埋没することなく「家族とは何か」を深く思索しつつ「住まいとは何か」という課題に真摯に取組み、その成果 を建築空間として創り上げた。その力量と問いかけは審査員一同に感動すら与えた作品である。
 作品No.13は、そのイメ−ジ豊かな表現力に圧倒されるほどの作品で、魚崎の震災復興まちづくりの将来像を描くものとしても意欲的である。

(2)「工業高校の部」

 作品No.3は、週休二日制という時代の週末を家族とどう過ごすかという問題を、郊外ではなく都心において、地域空間との交流も図りながら建築空間の中で実現しようとしたもので、そのユニ−クな発想とそれを建築としてまとめあげた創造力が評価された。
 作品No.4は、これからの中学校のあり方として、自然と共存、さらに学校教育と周辺地域の人々の生活やコミュニティ−活動が互いに交流できるようとの意図が明確に打ち出されたもので、自然との共存というテ−マに対する空間創造の力量 は些か舌足らずの感が拭えないが、その意欲が評価された。
 作品No.7は建築デザインに対する過度とも言える意欲と、相当の手間を掛けたCGによる圧倒的な表現が評価された。しかし、そのデザインに対する意欲は今後、敷地や周辺環境の読み取りとの関わりにおいて洗練、熟練させる必要がある。特に敷地が大阪の重要な歴史的空間の中に選定されたことについては、慎重さに欠ける点がなかったか、この機会に考えて欲しいところである。

 卒業設計はこれまでに学んだ建築についての様々なことがらの総決算であると同時に、これから諸君が建築に関わっていく出発点でもある。これに集中的に取り組んだ意気込みを忘れないとともに、その到達点としてのこれらの作品が更に次のいくつもの解決すべき課題を諸君の前に提示していることに思いを馳せ、更に真摯に研鑽を重ねられることを望むものである。