■2024年度
2024(R6)年6月15日(土)AM9-12時にオンライン上で開催された日本建築学会農村計画委員会公開委員会は、農村計画学会農村計画セミナーとの共催で行った。参加者は約100名であった。記録を林和典(近畿大学)が行った。
本公開委員会では、農山漁村地域である能登半島地震の特性や課題を踏まえ、これまでの震災で蓄積されてきた学術的知見を援用し、各復興ステージの課題、支援の内容やタイミング、相互の連関性を議論することを目的とした。プログラムは以下の通りである。
●主旨説明:斎尾直子(東京工業大学/農村計画学会長)
●報告
(1)能登の現場から:山下良平(石川県立大学)
(2)「避難」のステージから:荒木裕子(京都府立大学)
(3)復興の先のステージへ:柴田祐(熊本県立大学)
●総合討論
モデレーター:鈴木孝男(新潟食料農業大学)、菊池義浩(仙台高等専門学校)
コメンテーター:一ノ瀬友博(慶應義塾大学)、広田純一(岩手大学名誉教授)、山崎寿一(神戸大学名誉教授)
●まとめ:齋藤雪彦(千葉大学/日本建築学会農村計画委員長)
山下氏より、能登半島地震の実態と復興計画について説明がなされた。被災エリアは広大だが人口は少なく、山がちな地域に集落が分散点在していた。集落ごとの性質は多様であり、@津波被害、A大規模火災、B家屋倒壊、C棚田崩壊、D海岸(沖)隆起、E文化行事中止などの多様な被害がモザイク状に混ざって発生した。
5月に発表された石川県創造的復興プラン(仮称)ではタイムラインが示された。現状の見通しではあるが、いつまでに何をするかの道筋が示されており、被災者にとって非常に重要な資料であるとした。
次に荒木氏より、避難のステージについて説明がなされた。輪島市では多数の避難所が開設され小規模分散型の避難所運営になったのに対し、七尾市では開設された避難所が少なく在宅避難者が多かった。小規模分散型の避難では拠点へ物資や情報を受け取りに行くことの難しく、在宅避難では水道やインフラが寸断され、非常に過酷な状況での在宅避難を強いられていた。
七尾市田鶴浜地区では、増築を繰り返した建物が多く、増築家屋の接合部で破壊が多くみられる一方、比較的被害が軽微な新しい増築部で在宅避難をしている事例が確認された。地域内の避難環境を整備し、分散している避難者の集まる場をつくることの重要性が述べられた。
次に柴田氏より、熊本地震と熊本豪雨の復興ステージに関する説明がなされた。まず、能登半島地震と熊本の災害の復興ステージの進捗を比較し、特段復興が遅れているわけではないことを示した。
熊本地震での益城町のまちづくり協議会は、公共事業の実施に伴い設立した組織ではなく手挙げ方式で設立された組織であり、住民が地区の将来を考え、避難路・避難広場の整備や道路等の復旧を提案した。まちづくり協議会は、行政やコンサルタントの支援を受けて提案を行い、行政は受け入れ態勢を整え、優先順位を付けて事業を実施した。まちづくり協議会はだれでも参加できる場づくりや、新たなリーダー・担い手の発掘につながった。
総合討論では、復興の課題・論点・伝えるべき知見が議論され、@専門家・外部の支援者の重要性、A復興ステージを意識した計画プロセスの必要性、Bコミュニティへの総合支援・集いの場の有用性、C真に「創造的」な復興プランの在り方、D在宅避難者への新たな支援方法の検討、E多様な被害状況や地域性に対応した地域ごとの計画策定の重要性、などが課題として挙げられた。