2008年度建築学会大会農村計画部門学術講演発表会

一押し講演

日本建築学会農村計画委員会

2008918日(木)

セッション名: 海外事例 
講演番号 6001 6007 司会: 黒野弘靖・中島麻衣

<セッション講評>

 フランスの農村集落に関するもの2編、中国を扱ったもの4編、モンゴル1編となっている。いずれも対象地域の最新状況を伝える発表として、聴取者の関心を集めていた。もっとも、研究視点は、同じ中国を題材とするものでも大きく異なっていた。日本建築学会という場をどうとらえるか認識を共有して行くことが必要と思われる。その点、今後の日本の農村集落を考えさせる発表があり、方向性を考える上でも参考になるものであった。

一押し講演梗概 講演番号:6002  発表者:清尾景子

推薦理由 農村景観整備の先進国であるフランスの集落を事例として、文献調査と住空間の変容過程の実測によリ、制度の運用実態とその空間への意味づけを明らかにしている。日本の農村景観を考える上でも貴重な資料を提示している。この発表は、注目度が高く質議が集中した。それらに対して、現地の文献資料と、行政及び居住者への聞き取りにもとづく、的確な回答がなされた。


セッション名:水環境と市街化 
講演番号 6014 6019 司会:
菊地成朋木村隆志

<セッション講評>

 このセッションは,それぞれ3編ずつの2つのグループの発表だった。6014?6016は,文化的景観のモデル地区ともなった東播磨のため池群の保全を扱い,全体の水系から洗い場の石の積みかたまで現場に即した報告がなされた。6017?6019は,東京日野市の地域空間に,郊外化した今もなお農村時代の構造が読み取れるとし,それを現代的に評価しようとするもの。

一押し講演梗概 講演番号: 6014 6016  発表者: 工藤和美・福本遼・本庄博希

推薦理由 発表者らは,実際にため池群を保全していく活動に関わっており,参与型の研究である。また,全体の水系から洗い場の石の積みかたまで,熱心にフィールドワークに取り組んでいることが感じられ,好感が持てた。


セッション名:景観マネジメント 
講演番号60306034 司会: 不破正仁・中沙智代


<セッション講評>

本セッションでは、主に景観・まちなみの変化に焦点をあて、事例を通じて今後の景観のあり方を論じたもの2編とアンケート・ヒアリングを用い各地域の景観評価を行うもの3編による計5編の研究報告が行われた。いずれの報告に関しても地域的に限定される部分はあったもののテーマに普遍性があり、今後の景観マネジメントの有用な知見となるものと感じられた。今後もこの分野での報告に大いに期待したい。

一押し講演梗概 講演番号: 6033 発表者:北澤 大佑

推薦理由 住民組織・企業間による取り組みに着目して、農村における景観保全・形成活動の要件とその課題について検討した研究である。各組織の取り組みにより、交流人口が増加することを指摘し、結果として景観保全・形成活動の意欲向上につながることを示唆している。農村景観とそこでの人々の生活における展望を示したことが、今後の当分野における有用な成果であると感じられた。

セッション名: OS 農山漁村の景観を守り活かす新たな展開
講演番号 6035 6039 司会: 神吉紀世子・佐藤睦美

<セッション講評>

 オーガナイズドセッションに寄せられた5編の梗概は、3編が新制度・事業等が導入された具体例の実態に関するもので、後半2編は、過疎が進行する地域での景観保全の意味を改めて問うものであった。全体にわたって、物理的現象としての景観の解説よりも、それを守りいかす活動の主体形成の動きや、地元主体の生活史からみた景観の意味に重点がおかれ、物理的現象としての景観を形成する「しくみ」を制度上どう扱い得るかという課題への議論が重視されるディスカッションとなった。

一押し講演梗概 講演番号: 6039 発表者:木方十根

推薦理由 五島列島と奄美大島の教会堂に着目し、建造物(教会堂)の本体だけでなく、信仰生活の核として建造物を創り、運営し、ときに撤去にいたるまでを責任をもって担ってきた主体の存在を示す、景観保全とはモノの存続だけでは扱えない象徴的に示す事例報告であった。主体とわかち難く存在する景観を理解する態度の重要性と、さらには、その主体の範囲を越えた広い社会においてその景観の価値を共有し得るかという厳しい問いかけは、過疎が進行しつつある地域の景観についての重要な議論の点を提示しているものである。


2008919(金)

セッション名: 自治組織・コミュニティネットワーク
講演番号 6045 6051 司会: 金 俊豪 ・野作 晃章

<セッション講評>

全8偏の内,7偏が発表された。中山間地域での小規模自治体や農山村集落単位での地域マネージメント(運営)の主体としての住民自治・団体自治(6045)や外部支援者を取り込んだ広域組織づくり(6046)についての研究,地域自治促進に向けたコミュニティプランの策定について英国パリッシュプランの先進的事例を取りあげて分析した研究(6047),地域のガーデニングサークルを事例にコミュニティでの知識の伝達と共有というネットワークについて分析した基礎的研究(6048),農山村地域における住民生活と生活関連施設についての研究(6049),疎住地域での商業構造特性を市町村の類型化から見た研究(6051)が発表された。

一押し講演梗概 講演番号:6051 発表者:菊池義浩

推薦理由  疎住地域を対象に商業施設(小売店)の立地状況とその推移を把握し,各地域における商業構造の特徴を明らかにした研究で,産業構造特性による類型化を図り,その特徴を総体的に捉えている。近年,高齢化・少子化による地域衰退と大型小売店の校外への施設立地の急増による地方中小都市の商店街の衰退は大きな課題になっており,その再生・活性化の観点から,当研究が今後明らかにしていこうとする産業構造の地域特徴と購買行動の変化との関係,購買環境と地域生活上の問題に対しての取り組みに期待して推薦する。


セッション名:地域づくりと主体の意識 
講演番号60526055 司会: 川口友子・菊池義浩

<セッション講評>

本セッションでは、企業の社会貢献活動の実態とそれに対する意識に関する2編、市民憲章の文言からまちづくりの目標と住民の意識の変化を明らかにした1編、住民と協働で行った集落学習活動の経緯から住民の意識と今後の集落のあり方について考察した1編が発表された。いずれも企業、住民、行政という各々の主体の意識について言及した発表であり、興味深かった。

一押し講演梗概 講演番号:60526053 発表者:堰川岳、野作晃章

推薦理由 近年さまざまな面で求められている企業の社会貢献活動をテーマに、活動の課題や問題点を導き出したうえで、NPO等の市民団体との連携などから地域社会における企業の役割、位置づけについて考察している点に興味を持ちました。今後の展開に期待しております。


セッション名: 環境保全・管理 
講演番号 6062 6068 司会: 小峯裕・縣真之介

<セッション講評>

60626063)関東圏で里山保全活動を行う200団体の活動概要が報告されました。(6064)環境管理活動の情報化に市民が主体的に取り組むことを実践しており、参加者自身がその意義を感じていることが報告されました。(6065欠席,6066)豊岡市田鶴野東部地区の概要とモニュメント計画の基礎調査、ヒアリング結果、そして今後の活動の方向性が報告されました。(6067)チップボイラの供給体制の実態と課題が報告されました。(6068)広葉樹林への病虫害の進行など実験的観測の経過報告がされました。これら7編の報告から「その土地に適した環境を再生する、資源を生かす、持続的な活動にする」というキーワードを感じとることができました。

一押し講演梗概 講演番号:6066 発表者:国居郁子

推薦理由 参加者住民による非常に詳細な証言をまとめた「オーラルヒストリー聞き取り調査結果」は非常に興味深い資料だと思われますので、一押し梗概として推薦いたします。

2008920日(土)

セッション名: 母屋と付属屋 
講演番号 61046108 司会:北川圭子・阿部恵利子

<セッション講評>

 発表は4編でしたが,いずれも研究半ばであり,完成度の高いものは見受けられませんでした。また,調査対象抽出の根拠において曖昧なものが多く,研究を続行する場合はこの点を明確にすべきと思われます。本文と表とが一致しないものや,表や図の番号が記されていないものも目に付きました。しかしながら,どの発表も時間が遵守され,表現もよく工夫されておりました。

一押し講演梗概 講演番号:6108 発表者:内木摩湖 

推薦理由 地域に密着し,かつ民族学的にも歴史学的にもつながる研究テーマであるという点で興味を持ちました。環境面においても,「カバタ」は保存すべき対象であると思われます。今のところ,論文の完成度が高いとは言えませんが,今後の研究の発展を期待します。