***研究発表会「農村計画研究の新しい動き」活動レポート***


本発表会は、3月4日(金)15:30〜18:00に開催された。主催は、農村計画委員会、関東支部農村建築専門研究委員会であり、司会は鎌田元弘(千葉工業大学/農村計画委員会幹事)により行われた。


あいさつ
伊藤庸一(日本工業大学/農村計画委員会委員長):

近年、農村計画委員会の存在意義が問われている。都市計画区域は国土の2割に過ぎず、本委員会は広大な土地を研究対象としていることを想起すべきである。これを受け、目に見える活動内容が求められ、ルーラルネットWG、農村企画WGといった組織も立ち上がってきた。コミュニティの維持力が議論される中で、本委員会においても若手の存在や育成が重要であり、この問題意識が今日の研究発表会「農村計画の新しい動き」となった。活発な議論を期待したい。


研究発表

「人間と建築・環境との共生の認知に基づいた空間の秩序化に関する研究」
根来宏典(日本大学):

 人と人との共生に関する課題、人と環境との関係に関わる精神と物質の分断に関する課題を統一的に捉えるための空間概念の確立をテーマとしており、まずその歴史的系譜を追い、「環境認知」の出自を明らかにした。次に、沿岸漁村地域における集落における地域住民の「環境認知」を分析し、可視領域とこれに対応する顕在意識だけでなく、不可視領域とこれに対応する潜在意識があり、認知の構成要素が相互に関係しあっていることを明らかにした。また広域的な生活領域のまとまりを見たところ、これらの生活圏域はより複合的重層的な段階性を有しており、これをその変化の要因と内部構造から整理することができた。さらにフラクタル次元解析の計画論的援用を試みると同時に、人間と建築・環境との共生の認知に基づいた空間モデルを提示した。以上より、認知範囲領域の定量化、陰影化モデル、フラクタル次元解析等の新たな計画的方法論を示すことができた。

「農山村地域における住民参画による持続的な土地利用計画策定のための調整支援手法に関する研究」
藤沢直樹(日本大学):

 旧町村を単位とした小領域での住民参加型の土地利用計画策定のための調整支援手法を提示することを研究の目的とした。すなわち、住民ワークショップにより、@土地利用意向・環境問題の把握を行い、A土地利用計画を策定し、B同計画の評価を行った。この結果、住民が問題意識を共有でき、旧町村単位でのワークショップの範域としての有効性を明らかにできた。さらに上記においては、GISを活用した地因子による土地利用性の評価を行っており、これは計画と評価の一致、不一致が明確に分かる有効な調整手法であった。さらにこの地因子による土地の利用性に対して住民の評価を分析したところ、住民が、地域の環境を認識した上で、開発、利用、保全のバランスを考慮する契機となっていた。最後にWSを用いた土地利用計画策定のシステムフローを示した上で、より簡易なデータ作成・更新システムの開発と旧町村に対応した土地利用計画制度の必要性を指摘できた。

討論等

根来の発表について、三橋(宇都宮大学)より、環境認知における漁村集落ならではの「海」の視点、すなわち「オカ」の人の認識との差異に関する指摘がなされた、また、伊藤(前出)より、空間モデルについて、多様な集落を分析した結果としての一般化・普遍化の度合いに関する指摘があった。さらに、栗原(日本大学)から、既存の空間論との関係、地域としての半島の特異性に関する指摘があった。
 
 藤沢の発表について、まず、齋藤(東京農工大)から、研究フレームについて、土地利用計画論、住民参加論の混在が見られ、各分析について土地利用計画論として有効だったのか、住民参加論として有効だったのかを整理するべきであるとの指摘があった。次に、三橋(前出)から、地因子だけではわからない、農業基盤等の要素があり、これらの要素も考慮するべきであるとの指摘があった。さらに、伊藤(前出)から、旧町村での分析であったが、より広域的な視点も必要ではないかとの指摘も見られた。

 最後に、斎尾直子(筑波大学)より「農村計画研究の新しい動き」に関する分析が報告され、山口忠生(ミカミ/関東支部農村建築専門研究委員会主査)から、農村計画委員会と支部研究委員会との連携の重要性、本企画の継続の重要性が指摘された。若手の研究者、学生が多く参加し、開放的な雰囲気で議論が進行し本発表会は終了した。

筆:齋藤雪彦/東京農工大学


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