***農村計画システム小委員会***


公開研究会の報告・・・・・
 
 里山・里地の荒廃と再生に関するシンポジウム

 −都市近郊農林地の再生に向けた胎動と計画システム転換の課題−


   
開会挨拶 13:00 中島熙八郎  熊本県立大学教授(日本建築学会農村計画システム小委員会主査)
   司会および趣旨説明 齋藤雪彦 千葉大学 助教授

1. 里山を未来に引き継ぐために
 −千葉県の里山の現状と里山条例−(土屋勝夫 千葉県農林水産部緑化推進室長)

里山の宅地開発等による減少や不法投棄の現状の概略に触れたのち、千葉県里山条例を紹介した。これは里山活動団体と里山土地所有者の協定の締結および知事の認定を行うという枠組みで行う。具体的には活動団体への資金援助、ちば里山センターによる支援(アドバイス、事業、里山情報バンク等)がある。最後に企業参加による森林づくりの事例を紹介した。

2.  里山の再生に向けた展望(中村俊彦 千葉県立中央博物館 副館長)

まず里山および里地の定義を整理した。次に里山の持つ「民俗的、生物的(食物連鎖、植物種、萌芽数、最高萌芽枝長)」多様性と連続性の持つパワーについて紹介した。特にトキと里山の歴史的関係(地名、洞窟絵図)を遡って見ることで、トキの復活を里山再生の目標とすることを提言した。 最後に里山と都市が資源と廃棄物を持続的に交換する「里やま里うみサンドイッチプラン」を紹介した。

3. 里山の荒廃と再生(藤原寿和 残土ネットワークちば代表)

残土と産廃による里山の荒廃を紹介した。大規模な地形変容を伴う残土と産廃の堆積の県内の事例を紹介し、特に産廃処分場だけでなく残土置き場が持つ問題点(緩い規制、産廃の混入)を指摘した。また今後の規制的課題だけでなく現状回復が進んでいないという課題も指摘した。最後に残土条例、産廃条例の問題点とこれらに関わる提言を行った。

4. 尼崎市における農的環境を活かしたまちづくり(山崎寿一 神戸大学 助教授)

都市の中の集落空間と共生するというコンセプトを農村計画学で得た手法を用いて実現しようとした尼崎市の取り組みを紹介した。都市空間に限らず環境管理においては管理主体の弱体化が起きており、これに対応した地域の魅力を育成するということが論点として挙げられた。すなわち、これは伝統的環境基盤を現代的に再生することで新たな魅力を発掘しようとする取り組みである。すなわち農村計画学で蓄積された集落空間の読み取り手法を援用して地域の記憶を顕在化させ、市民による地域づくりの方向性を与えようとするものである。農業公園、阪神淡路大震災等がこれらの契機となって里芋煮イベント等の多様な取り組みに展開しており、今後、行政に対しても、多様な主体と多様な農地をどのように結びつけるかという提案を行うつもりである。

5. 市街化区域における農的空間の市民利用(宮里明日香 東京工業大学博士課程)

前講演者と同じく市街化区域内の農的空間の市民利用に焦点を当てている。特に荒廃が進む河川と農地を再生する取り組みを熊本市において紹介している。特に管理主体の変遷、個人の生活史から、これら農的空間の変遷と位置づけを見ており、新たな管理体制の構築に向けた知見を抽出している。前講演者と共通するのは、地域空間を歴史的に振り返ることでその魅力を発見し再生の方向性を得ようとする点であり特筆すべき点でもある。


質疑応答および総合討論

 会場の樹木医の方から集落が消滅し産廃処分場となる石川県の事例が紹介され、藤原氏(前出)によって産廃に関わる類似の事例、業者の特質に関するコメントがあり、山崎氏(前出)からは、世代の持続性が一番の課題であるとの指摘があった。中島氏(熊本県立大学、農村計画システム委員会主査)からは、「使うこと」によって「不法な使い方」を防ぐ必要があるという研究会全体の主旨に関わる指摘があった。栗原氏(千葉まちづくりサポートセンター)より、専門家の役割はどのようにあるべきかについて問題提起があった。土屋氏(前出)からは再度、この新しい動きおよび専門家の育成に対して期待が持てるという指摘があった。中村氏(前出)からはゴミを里山へ還元する習慣、人間の内面にある2面性(経済至上主義、美しい自然を尊重する)が課題として挙げられ、専門家が「タコツボ」から出る必要性が指摘された。藤原氏(前出)からは行政の縦割りと専門家の人材不足、自治体から国に対して行動を起こしていく重要性の指摘があった。山崎氏(前出)からは安易な市民参加を警戒し、同時に当たり前の感覚を尊重するべきだという意見が出た。宮里氏(前出)からは再度、市民参加の多様性と実効性に関する指摘があった。

まとめ

 木下勇(千葉大学)から、全体のまとめと展望に関わり5つのキーワードが挙げられた。すなわち、@土地の管理、人とのかかわりにおいて「断絶」が課題となっていること、A里山、里地、里海、といった「エリア」に着目し、これらが繋がって行く重要性、B市民がどのように「制度」に関わるか、そのために必要な地域の専門家の存在C企業、大学のような多様な主体が「連携と参加」を行い新たな専門家が醸成されていく可能性、D管理や市民参加に関して「楽しさ」が持続性や発展のために重要であること、が指摘された。

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