2013年度日本建築学会技術部門設計競技入選作品
次世代に継ぐ住宅の再建計画-東日本大震災からの復興
主催 農村計画委員会
主旨
東日本大震災から2年が経とうとしている。被災した市町村の復興計画をみると、その多くは未整理のまま進行しつつある公共事業を背景に、浸水域を避けた高台への移転、宅地の嵩上げ、防潮堤の整備、それらを組み合わせた多重防災の考え方である。そのため、大まかな土地利用は示されたものの、それ自体がリアリズムを欠くと同時に、被災者個々がどのように住宅を再建するかはこれからの課題である。また、災害復興公営住宅の計画も進みつつあるが、本設計競技では公営住宅以外の住宅再建、つまり被災者が移転用地を得て、自力で生活再建する住宅について提案してほしい。
具体的に被災地を特定し、そこでの住宅再建の提案を行う。
被災者が生業を営みつつ、生活を取り戻す住宅であり、これまでの地域コミュニティの継承に配慮し、時間をかけて築き上げてきた居住地の景観や風景を大切にした提案が望まれる。そのためには造成計画や宅地割りを含めた提案、現行法や事業制度に対する新たな提案があってしかるべきである。さらには以下のようなことも考えられる。
まずは住宅の再建を優先し、後に増築することを前提にした成長する住宅、あるいはその環境や立地特性に応じた再生可能エネルギーの活用によりエネルギー自給を目指した住宅、また、自力建設が可能な新しい構法による住宅などであるが、これらにこだわることなく自由に発想してほしい。
なによりも、縮減社会のただ中にあって、復興の松明となり得る次世代へ発展的に継承できる住宅を期待している。
募集内容
(1) 東日本大震災の被災地を特定して計画対象地とする。
(2) 地域コミュニティに配慮し、対象地域の環境、集落構造、景観、風景、歴史、文化などを大切にした住宅再建計画の提案を求めており、そのためは地域の調査・分析が必要である。
審査員(敬称略、五十音順)
委員長 岡田知子(西日本工業大学/農村計画委員会委員長)
委 員 石田壽一(東北大学)
大月敏雄(東京大学)
大沼正寛(東北工業大学)
越山健治(関西大学)
澤田雅浩(長岡造形大学)
曽我部昌史(神奈川大学/みかんぐみ)
富田 宏(漁村計画)
牧 紀男(京都大学)
森 傑(北海道大学)
提出物(使用する言語は、日本語または英語とする)
以下の内容をA1判1枚に収める。用紙は縦使いとする。
①計画対象地の概要(位置図、計画地概要、被災状況等を明記する)
②再建計画の方針やコンセプト(特に対象地域の環境、集落構造、生業・産業、景観、風景、歴史、文化や地域コミュニティについて調査・分析し、計画に配慮した点を明記する)
③居住地計画(住居および住居群の平面や立面・断面、居住地配置計画、計画対象地の土地利用計画や断面計画、既存集落や生産・産業行為との関係など、提案内容を明確に示す)
審査課程報告
応募数は17作品であった。なお、CDのみ期限後到着した作品があったが、これは応募作品に含めないこととした。
(1)一次審査会
6月14日に実施した。
まず、レギュレーションが違うA1横使いの作品を審査外とすることを確認した。次に、佳作を含めた賞の数を6~7にすることとし、投票を行った。投票は各審査員が5作品に票を投じることとした。その結果、9票:1作品、7票:1作品、6票:1作品、5票:1作品、3票:4作品、1票:4作品、0票:4作品となった。まず、半数以上の審査員が票を投じた4作品を二次審査の対象とした。審査員による講評を受け、議論した上で、再投票を行った。投票は各審査員が残りの12作品の中から1作品に票を投じるもので、結果、5票:1作品、2票:2作品、1票:1作品となり、2票以上の3作品を選出し、計7作品を二次審査の対象とした。
(2)二次審査会
7月22日、建築会館ホールにて開催し、Ustream配信された。5分のプレゼンテーションに続き、10分の質疑応答により審査を行った。それを受けて、まず、最優秀賞作品を選定するため、各審査員それぞれが一つの作品に投票した。その結果、№3が3票、№5が3票、№6が4票となった。3作品に票が割れたため、この3作品を中心に審査員全員が作品の講評を行い、議論した。その上で、最優秀賞1点、優秀賞2点をこの3作品から選出することを確認し、再度、投票した。投票結果に差をつけるため、各審査委員がそれぞれ3作品の内2作品に票を投じることとした。その結果、得票数は僅差であったが、その中でも最も得票数の高い作品を最優秀賞、続く2作品を優秀賞、
後の4作品を佳作と決定した。
総評
東日本大震災から2年半になる。今、被災地での復興計画の現状をみると以下の課題があげられる。ひとつは浸水域を避けた居住地の移転に関して、その移転後の跡地利用、そして防潮堤の高さに関してである。
居住地の移転については、まず、適地がなかなか見つからない。その上に土地所有権の問題で用地取得が難しいケースが少なくないという。また、埋蔵文化財調査が造成工事を遅らせているという指摘もある。
その中でも移転事業が進められている地区の居住地計画を見ると、いずれも住宅地はひな壇造成され、直線道路に面してほぼ一律の大きさの宅地が一定方向に並んでおり、全ての宅地がほぼ同じ条件になるよう計画されている。そのため、地形を改変し、地盤造成することになり、結果、どの地域も同じような住宅地が出現することになる。もはや地域の特性は見いだせない。これは過去の復興事業をみても同様である。かつての風景や集落空間を形成していた特徴ある構成要素に対する喪失感は計り知れない。災害からの復興計画は安全性、機能性、経済性や利便性といった観点だけでなく、心の拠り所をいかにして継承するかが問われている。人々が時間をかけて大切に築いてきた街並みや景観、風景、信仰、祭り、暮らしのあり方などの生活文化を継承することは、地域への誇りと愛着を育み、次世代へ継ぐ、持続可能な地域再生が可能になる。
応募作品の多くはこの点について深く受け止め、まじめに考え、提案してくれた。たとえば、既存集落に連続する(いわゆる差し込み型)小規模単位の住宅地の再建計画、伝統的な空間構成の読み取りやそれを生かした提案などである。
一方、防潮堤の高さについては盛んに議論されている。また、高い防潮堤をつくることに対して疑問視する声も多く、海との関係が断絶する、海が見えない、依存することで避難しなくなる、水門を閉めるのに危険性がある、などの問題点が指摘されている。現在、過去のデータを基に数十年〜百数十年に1度の津波、いわゆるL1クラスに備える方針に沿って各市町村が防潮堤の高さを設定している。
先に述べたように居住地の高台移転への事業も同時進行しているが、移転後の広大な跡地の活用はその8割が未定である。
それぞれの復興事業が個々に進められており、決して連携しているとはいい難い。被災者の生活再建を図るため、地域の実情に応じたリアリティのあるビジョンを描き、事業計画として総合的に策定することが必要である。やはり、どのような復興を目指すべきなのかというコンセプトが重要になってくるが、この点についてもきちんと答えてくれた応募作品が多かった。
人口減少、低成長時代を迎え、農山漁村では過疎化、高齢化、地域経済の衰退に直面しているが、被災地でも同様の問題を抱えていた。被災後はさらに深刻で人口流出が問題になっている。被災した岩手、宮城、福島3県の42市町村のうち40市町村で特に若い世代の人口が減少しており、懸念されている。復興計画にはこういった地域の実情もふまえざるを得ない。一方、農山漁村の地域社会は集落を維持するサステイナブルなシステムを保有している。これは地域環境に適応しながら長い時間をかけて構築してきたもので、このような内在する可能性を継承あるいは引き出す復興計画が人口減少、低成長時代には相応しいといえる。この点について提案内容に考慮されているか否かが、僅かであったが賞の順位を決定づけた要因となった。
応募数は17で、期待した数には及ばなかったが、これは計画対象地を東日本大震災の被災地に特定したこと、そして、地域コミュニティに配慮し、対象地域の環境、集落構造、景観や風景、歴史・文化などを大切にした住宅再建計画の提案を求めており、そのために地域の調査・分析を義務付けたこと、などによるものと考えられる。しかし、どの応募作品も現地での精緻な調査に基づき、それぞれ独自の視点で提案しており、非常に中身の濃い内容であった。
最後に本設計競技に多くの方々から積極的な提案をいただいたことに心から敬意を表する。 (岡田知子)