’99 農村計画部門研究協議会 記録(文責 西田和美)


 本研究協議会は9月17日(金)13:00〜17:00、司会:伊藤庸一(日本工業大学)、 副司会:木下勇(千葉大)により行われた。
 
農村計画委員長・重村力(神戸大学)に よる「20世紀が総括しなければならない問題の一つは環境問題であり、その中の大き なテーマとして身近な生活環境や景観の問題がある。」との問題提起と挨拶に続き、 主旨説明、各パネリストによる主題解説が行われれた。 その後、建築史など多方面 から参加いただき、活発な討論が行われた。

主旨説明:山崎寿一(神戸大学)
 「ムラの潜在的環境資源」と「発見的創造」をキーワードとして、日常生活に密着 した田園地域の環境資源、農家住宅や伝統的な地域施設などの価値を認識し、活用し ていこうとする動きに注目したい。文化的なものに対する建築的とりくみとして博物 館的、文化財的に捉えるのではなく生活レベルで捉える方策を導き出すことが重要で はないかと思っている。

主題解説
・民家再生の技術と知恵―古民家再生工房/楢村 徹(倉敷建築工房楢村設計室) :
文化財の指定からはずれ、残していく手だてがないと思われていた民家を残す方法 を、地域の建築家としてアピール、対応していくシステムとして古民家再生工房を組 織した。民家が一般の人々にとって自然な形で残っていくことが目標であり、私たち の再生は若い人でも住んでみたいと思うような形で活かすことである。民家は創造行 為を加える設計の対象として魅力的な存在であり、住む人にとっても楽しめるものに< していかなければと考えている。


・農村舞台を活かす―阿波のまちなみ研究会/久米将夫(徳島市役所):
地元の建 築士会を中心に「阿波の町並み研究会」の活動を行ってきた。地域の環境を学ぶこと から始めようとのことから「脇町」のうだつの町並み調査、失われ行く農村舞台の保 存、舞台公演、「鞆の浦」のミセづくりの漁村集落の調査等の地域の様々な文化の記 録を最低限残すことを目標とした活動を行ってきた。ムラのもつすばらしいデザイン が残されている事を民家調査、集落調査を通じて学んだ。


・百年民家を活かす―沼隈の民家を大切にする会/倉田久士(沼隈町福祉文化振興 会):
沼隈町に120棟余り残る100年民家をもう100年保たせることを目標に、民家の 調査、モデル的な民家の修復、解体を余儀なくされた民家の古材リサイクル、講演会 やシンポジウム等を開催している。葺きおろしの茅屋根が恥ずかしいという住まい手 の思いを変えないと民家は残っていかないのではと考える。また、民家を安易に改造 するのではなく、空間の意味や機能を考え、慎重に行われねばならないと考える。


事例報告:中国・四国地方の事例、協議会資料集から
宇高(広島大学)からは、広島県豊田郡豊町御手洗地区が抱える過疎と町並み保存問 題について、篠部(呉高専)からは、広島県福富町のIターンによる空き家農家の利 用について、西田(明石高専)からは協議会資料掲載の事例報告を行った。


コメント 藤本信義(宇都宮大学):
生活環境への異物の混入は、民家→集落→地域 という段階に伴い、より注意深さが必要であり、地域空間をリードする質の高いもの でなくてはならない。今日の報告では充分展開されているとは言えないが農村集落、 地域の課題として広い範囲で捉えていただきたい。


討論
佐藤重夫(広島大学名誉教授)からは、
生活の根本(哲学)が不明確では、改造し ても修理しても結果は不明確である。生活すなわち衣食住が建築家にわかっていない のではないか。‘本物’とは何かを知る必要があるとの指摘があった。

上野邦一(奈良女子大)から、
家を貸さない、売らないのは歴史的町や集落では全国 的な課題の一つであり、適切なシステムを探る必要がある。時間がつくったモノの意 味を、一般市民レベルで共通認識にする必要があるとの意見が述べられた。

藤川(筑波大学)からは、
現代的生活というものを建築学会が戦後、一貫して世の中 に送り続けてきた側面があり、我々自身にも責任があるのだろうと感じる。充分使える ものが簡単に壊される状況をなんとかして避けたいと常々感じている。

森川(アーバンスタディ研究所)からは、
外部の者は主体にはなれない、あくまでも サポーターであるとの意見と共に、「開かれた主体」についての説明が求められた。 山崎はサポーターも含めて大きな意味で主体と捉える必要があり、閉鎖的村社会、閉 じたイメージを脱却する必要がある。重要なのは環境を共有しているという概念では ないかと答えた。

地井(広島大学)はこれに関連し、
私たちの周りからスーパーhエゴ・共有するエゴ が失われてしまっている。新しい地域生活のスーパーエゴ・地域アイデンティティを つくっていくところに立ち至っているのではないか。開かれた主体形成の場をつく り、積極的な実験を積み重ねて行くしかないと意見を述べた。

三村(関西福祉大学)からは、
借家借地の問題は、京都の町屋で試みられている「第 三者による保証システム」をつくっていけば活用が可能ではないか。民家は変わって いくものであり、文化財的な民家、再生された民家、新しくつくられる民家がどのよ うに共存しながら生き延びていくのかという動的なストック論としてこの問題をみれ ば、新しい現代の創作という流れを受け止めることができる。従来の町並み保存の動 きから世の中が動きつつあるのだと痛感しているとコメントがあった。

木下が、
次世紀に向けて「担い手としての主体の広がり」や「価値観の転換」といっ た新しい動きに加え、環境資源を活かしたデザインや地域の計画を行う方法がもっと 求められ、我々は市民に提示しながら共に進めていく必要があるとまとめた。


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