日本建築学会 住まいづくり支援建築会議
住まいづくり市民セミナー
 
住まいづくり市民セミナー@仙台「安心して長く住み続けられる住まいとは?」開催報告


日本建築学会大会(東北)関連行事住まいづくり市民セミナー@仙台「安心して長く住み続けられる住まいとは?」 が開催されました。80名をこえる参加者があり、盛況のうちに終わりました。

■主催 日本建築学会東北支部、日本建築学会住まいづくり支援会議
■共催 住まいと環境・東北フォーラム
■後援 宮城県、仙台市
■日時 2009年8月30日(日) 13:00〜17:30
■会場 フォレスト仙台
■内容
 住まいづくり支援会議では、本会が蓄積してきた、総合的な研究成果をもとに優良な住まいが建設されることを支援しております。今回は「安心して長く住み続けられる住まいとは?」と題し、仙台にて講演会およびシンポジウムを開催しました。
 講演会では耐震、音環境、空気やシックハウス、マンション問題などを中心とした、市民の皆様に直結する"住まい”に関する話題を各方面の第一人者の講師よりセミナー形式で講話いたしました。
 また、シンポジウムでは実務で活躍されている建築士による実例紹介をもとに、 講演者4名とともに「古い家でもあきらめない住まいづくり」について話題提供を行いました。
■講演会
 1)耐震性のおはなし/前田匡樹(東北大学准教授) ◆講演スライド◆
 2)音環境のおはなし/濱田幸雄(日本大学教授) ◆講演スライド◆
 3)空気環境のおはなし/野崎淳夫(東北文化学園大学教授) ◆講演スライド◆
 4)マンションと高齢のおはなし/松本恭治(高崎健康福祉大学教授) ◆講演スライド◆
■シンポジウム
 建築士安井妙子氏による実例紹介をもとに、講演者4名とともに「古い家でもあきらめない住まいづくり」について話題提供を行いました。
 ・安井妙子氏(安井妙子あとりえ主宰) ◆実例紹介スライド◆
住まいづくり市民セミナー@仙台 記録

記録/中田捷夫(住まいづくり支援建築会議 情報事業部会長、中田捷夫研究室主宰) ◆記録PDF版◆

■挨拶 吉野博(日本建築学会副会長、東北大学)
 住まいについて様々な問題がある。安心、安全についての研究成果を還元する活動の一環。住まいと環境・東北フォーラムの活動の目的に合致するのでジョイントセミナーとなった。建築学会年次大会に日程を合わせた。
 講師は4名で、耐震、音環境、空気環境とマンションの空虚化と高齢者について各30分程度の講演を行う。終了後に相談会を開催する。

挨拶:吉野博副会長(東北大学教授)
挨拶:吉野博(日本建築学会副会長、東北大学教授)

■挨拶 服部岑生(住まいづくり支援建築会議 運営委員長、千葉大学名誉教授)
 住まいづくり支援建築会議の紹介。住宅に期待する性能について市民の方々に考えていただくことに必要な情報を提供するために開催した。今までの活動の成果の報告。
 市民と学会の接点となる初めての機会で、今後発展させてゆきたい。

挨拶:服部岑生(住まいづくり支援建築会議 運営委員長、千葉大学名誉教授)
挨拶:服部岑生(住まいづくり支援建築会議 運営委員長、千葉大学名誉教授)

司会:浅里和茂(日本大学教授)
司会:浅里和茂(日本大学教授)

■耐震性のおはなし 前田匡樹(東北大学)
 来るかもしれない仙台沖地震に備えてなすべきことは、建物の安全性を調べること。1年に1度の割合で大きな地震が起きている。阪神・淡路大震災、福岡県西方沖地震の被害について紹介。
 最近10年で死傷者が100人以上の地震が11件ある。偶然だが土・日曜日、早朝深夜が多く、自宅にいることが多いので「住宅」の耐震性は重要である。亡くなった方は倒壊建物の下敷きが多く、発見されても倒壊後短時間で亡くなっていて助からない。倒壊させないことが大切。
 倒壊建物は古い建物に例が多い。建物の劣化、設計時の法律の要求性能により異なる。1981年以降のものに対して、1950年のものでは構造性能は30%程度に低下する。
 建築計画的には、入り口が多く、壁が少ないものは被害が大きい。また壁があってもバランスの悪いものに被害が多い。地盤が悪く基礎が壊れるものや老朽化住宅に被害が多い。これらについては耐震診断が必要。
 耐震診断は建物の耐力と地震力を比較して判断する。日本建築防災協会のガイドブックが有用。自分で行う簡易診断もある。安全の指標、簡易診断を説明。耐震補強は倒壊防止が最大の目的。改修の方法としては基礎や壁の増設、柱脚の基礎への緊結など。
 国の取り組みとして「耐震改修促進法」が制定されている。診断の補助や工事補助、固定資産税の減額などがある。改修にかかる費用としては一般的には100〜200万円位で、工期3週間くらいだが、内容によってはそれを超えることもある。
耐震性の確保は大切なので、是非、耐震診断から始めてほしい。

耐震性のおはなし:前田匡樹(東北大学准教授)
耐震性のおはなし:前田匡樹(東北大学准教授)

■音環境のおはなし 濱田幸雄(日本大学)
 1974年に学会でRC集合住宅の音環境についての委員会が新設され、その後遮音基準作成委員会が発足、現在見られるような基準と設計指針が定められた。
 居住後の住宅満足度に関するアンケート結果が報告されたが、ここ10年の音環境についての満足度が低く、特に2000年以後は悪い。音環境は耐震性などと異なり、住んだ瞬間から評価の対象になる。良し悪しは五感で感じることができるので、音環境に対する要求性能は高くなっている。契約時に聞こえてくる音の種類についての説明が求められることが多くなった。遮音等級についての提示も求められる。ただ等級が高くても住まい方が悪いと音環境は良くはならない。
 建築基準法で決められている音環境については建築基準法30条、同施行令22条の2に決められているのみで、そこに技術的水準が定められている。内容的には現在の性能として最低レベルに近い。最近の建物では壁からの透過音はあまり気にならないが、床の衝撃音については要求が強い。性能については学会で等級を定めている。(L−○○のように)計測・評価の仕方が定められているが、要求性能が高すぎて実情に合わない部分もあるので、今後の対策としては生活習慣を改善して音環境を良くしていく方向も考慮すべきである。
 住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)で住宅性能表示が行われているし、住宅瑕疵担保履行法もある。販売時には住宅性能評価書が添付される。紛争処理は「住宅紛争処理センター」で処理してもらえ、裁判なしで対応可能。遮音不良は申請件数で4番目。床鳴り、異常音などもあるが、音環境の問題は精神的な状況に左右されることが多い。

音環境のおはなし:濱田幸雄(日本大学教授)
音環境のおはなし:濱田幸雄(日本大学教授)

■空気環境のおはなし 野崎淳夫(東北文化学園大学)
 空気環境に求められるものには多くの解決すべき問題や課題がある。
 例えば、住宅の気密性が低いと結露に伴う断熱材の含水作用により、断熱性能が低下する。逆に、気密性が高い場合は熱損失を少なくできる。
 高気密住宅は健康性、耐久性に富む。建物の断熱性能を表す指標として熱損失係数(Q値)が使われており、住宅メーカーではその値を示している。
 室内空気汚染に伴い生ずる健康被害については、自覚しやすいもの、しにくいもの、あるいは短期的なものと長期的なものに分類できる。
 シックハウスの原因となる化学物質の主たる発生源は、床、壁、天井に使用される建材、施工剤、家具、日用品などである。問題となる汚染物質は、ホルムアルデヒド、VOC、微生物(真菌、細菌、ウイルス、ダニ、花粉)、たばこ煙、NOxなどがある。空気をきれいにするはずの空気清浄機ではあるが、イオン式空気清浄機では有害なオゾンを発生することがある。
 一般建材の中には多種多量の揮発性有害物質が含まれている。トルエン、キシレン等の有機溶剤は揮発性が高く室内放散しやすいが、放散しにくいと言われる自然塗料の中にも施工性改善のため有機溶剤が使われているものがある。合板などの建材はJISやJAS基準により、その放散等級が表示されているが、対象物質はホルムアルデヒドに限定されている。
 ところで、建材の中には室内化学物質を除去する「汚染低減建材」があり、封止、吸着、分解などのメカニズムにより、室内濃度を低減する。
 建物の設計段階で室内空気環境をある程度の範囲で予測することができる。すなわち、矩計図、仕上げ表、発生源デタベースなどから、汚染物質発生量を定量化し、また汚染低減建材の使用量や換気装置、空気清浄機の除去量を求め、これらをあるモデル式に代入し、室内濃度の予測計算ができる。
 臭気物質や微生物による室内汚染の解決は今後の重要課題である。

空気環境のおはなし:野崎淳夫(東北文化学園大学教授)
空気環境のおはなし:野崎淳夫(東北文化学園大学教授)

■マンションと高齢のおはなし 松本恭治(高崎健康福祉大学)
 人口構成とマンションの空洞化。2035年には老人ホームの需要が高まり、東京のマンション居住者の周辺都市への移住が多くなる。
人口の減少に伴い起きることとしては、学校の統廃合、病院、鉄道、結婚式、ショッピングセンター、自動車などの流通、事業所の閉鎖などに影響があると思われ、多くの社会システムの統廃合が必要になる。特にマンションの廃墟化、超高層マンションに多くの問題がある。
 人口構成の変化、特に高齢化に伴う施設の統廃合が必須の問題になる。
 地方都市の商店街の疲弊は早急な対策が必要である。
マンション購入者は単身者が多いので将来の空洞化が心配である。
 下層商店、上層集合住宅では空室化が目立つ。競売で老人ホーム化に改修するにも障害がある(管理組合)。
マンションの廃墟化、非住居化、空室化などのマンション事情についての事例紹介。付属の機械式駐車場の存続に関する状況の変化。市街地の人口密度の経年変化。市街化調整区域に老人ホームを建設することに対する危惧。自動車保有率と訪問介護率の関係などを考慮すると、コンパクトタウンの必要性が高まる。雑然たる低密度と整然たる高密度の集合住宅を都市計画の見地から検討することが大切である。単身所帯率は都市圏が高い。「単身」、「未婚」がキーワードになる。女性の単身者は都市中心に、男性の単身者は郊外に多い。
 マンションの計画には地域の空洞化を避けるように配慮する仕組みが必要である。行政の役割が重要である。

マンションと高齢のおはなし:松本恭治(高崎健康福祉大学教授)
マンションと高齢のおはなし:松本恭治(高崎健康福祉大学教授)

■シンポジウム 話題提供
「古い家でもあきらめないで」 安井妙子(安井妙子あとりえ)
 明治7年建築の町屋の再生:暖かく住むこと。「次世代省エネルギー基準」では不十分?
 高エネルギー効率ヒートポンプの利用。改修による性能上昇のデータ表示。結果は向上している。

古い家でもあきらめないで:安井妙子氏(安井妙子あとりえ主宰)
古い家でもあきらめないで:安井妙子氏(安井妙子あとりえ主宰)

 快適に暮らすことに必要なコストとCO2琲出量について→1室分の電気代で4室分が可能になった。改修のコストについては公表できないが、それなりのコストは掛かっている。
 構造的側面からの改修:現行の耐震設計法からみれば、伝統木造は要求性能に適合しない。特に柱脚の補強が大切。
 民家の耐震性→現在の耐震補強は在来木造を対象としているので、民家の耐震診断はなじまない。木造の診断は新築より手間が掛かるのに報酬は低いので手がける人が少ない難点がある。
 阪神・淡路大震災では土台の劣化が原因といわれている→屋根に重い瓦を載せており、開口部が多いため、建築計画的には弱いのではないか。近代化した中での比較的古いものが壊れたのであって、単に古いだけで壊れるのではない。
 シックハウス問題:患者数は減っている? 全面的には解決していない。今後さらに改善が必要。電磁波過敏も新たに発生している。カビも多い。
 音環境:木造集合住宅についてはどうか? 2世帯間での問題さえある。決定的な解決法は特にない。音環境についての改修はかなり難しい。物理的には効果があっても一旦こじれると気持ち的に解決が難しい。
 高断熱、高気密住宅は機密性のため室内が静かになり、ちょっとした騒音に敏感になる傾向にある。高気密・高断熱住宅は音環境的には難しい問題を抱えている。単に遮音だけが快適な住宅になるのかとの問題もある。RC住宅は自然界にある超短周期音成分をカットしてしまうので自然とはいえない。
 マンションと高齢者:「2035年」の意味について。厚生労働省の将来予測データがあるからで特に意味はない。価格が低下すると買いやすくなり、価格が低下しても損失は少ない。考え方の相違である。個人の意思で決めがたい問題、管理組合でも解決できない問題などがある。結果的には地域での協議による以外ないのではないか。

シンポジウムのパネルの方々
シンポジウムのパネルの方々

■最後に一言
□断熱、気密の完全な家を提供したい。
□安全は地震が来てみないとわからない。やはり怠らないように。
□環境性能は個人差がある。
□健康には大きな影響を及ぼす。杉は危機材である。乾燥を完全に。
□環境の性能は、専門家=研究者に測定を依頼するのがよい。材料の選択によって環境の改善は可能である。
 珪藻土の効能あり。

会場の様子
会場の様子


住まいづくり市民セミナー@仙台
「安心して長く住み続けられる住まいとは?」


◆セミナーちらし◆

デザイン:市岡綾子(東北支部前常議員、日本大学講師)


Web制作:小檜山雅之(住まいづくり支援建築会議 情報事業部会幹事、慶應義塾大学准教授)

日本建築学会住まいづくり支援建築会議 情報事業部会
お問い合わせ:日本建築学会住まいづくり支援建築会議事務局 TEL:03-3456-2053 E-mail:sumai@aij.or.jp
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