香川支所−調査研究  「過去からの遺産 (旧陸軍善通寺第十一師団の建築施設群)」


 街には、過去からの遺産が無数に存在している。その施設・環境は、次世代にとって価値あるものなのか、ないものなのか。あるとすればそれは一体どのような価値なのか。各分野の専門家達はこのことについて調査・研究し、多くの人々に報告していく義務がある。またこれら調査・研究は、一般の人々と共に話し合いながら進めていく ことが大切である。なぜならば本来遺産とは、多くの人々が大切にし、次の世代へ遺 そうと感じている施設・環境だからである。専門家はそれらを踏まえた上で、古い建物を正しく評価していかなければならない。

 善通寺には今でも、第11師団の施設群、「師団司令部」「兵器庫」「兵舎」そして「偕行社」が現存している。これらは移転すらされていない。師団司令部においては、第二混成団本部として現在も使用されている。この施設は昭和36年から防衛庁、自衛隊の方々によって大切に維持管理されてきた。一方兵器庫も現在は倉庫に姿を変えて活躍している。さらに偕行社は善通寺市郷土館として善通寺市並びに市民によって大切に守られ使用されている。

 善通寺市には旧陸軍関係の遺産の他にも、11師団設置に伴って作られた写真館や酒屋など、多くの建物が今も残っている。 しかし一方でそれら建物の中には、残念ながら姿を消し去ったものもいくつかある。 そのひとつに世界館があげられる。世界館は大正11年に竣工された回り舞台のあるセセッション様式の劇場である。その営業停止が決定した時、善通寺を中心に、約6年間にわたって保存・復活運動が行われた。それには多くの市民が参加して力を注いだが、結局解体してしまった。

 このように古い文化遺産は国民の強い意志を持ってしても、はかなく消えてしまいがちである。だからこそ正確な調査に基づく評価を下し、絶対に後世に残していくべき価値があることを訴えていかなければならないのである。

 今回は平成10年度公益信託大成自然・歴史環境基金の助成を受け、日本建築学会四国支部の会員を中心に、「師団司令部」「偕行社」について調査・研究を行った。実 施にあたっては専門家の他、市民の方々にも協力して頂き、施設としての価値と、それを取りまく周囲の環境について評価した。

 最後にこの調査・研究のために、多くの人々のご協力と知恵を頂いたことついて深 く感謝いたします。 (四国支部長 多田 善昭)

 

事業報告>

<主  催>   四国支部・創立50周年記念事業実行委員会
日   時 平成11年11月13日(土)
会   場 マリンパレスさぬき 2F 瀬戸

調査研究事業発表会

香川支所<歴史> 調査研究  「過去からの遺産 (旧陸軍善通寺第十一師団の建築施設群)」
調査報告 波多  等
講 師 後藤  治(工学院大学助教授)  
澤登 宜久(近畿大学教授)
多田 善昭(四国支部長)
参加者 180名