高知支所−調査研究「次世代に伝える高知の建築文化」


 日本建築学会四国支部創立50周年記念事業として四国各支部はそれぞれの地域に関する調査研究の場を持つことにした。
 高知支所では調査研究テーマを「次世代へ伝える高知の建築文化」と題してまとめ、住居を時間軸の流れでとらえる研究に着手した。学会発足時から50年を経過し、高知支部の50年間の研究の蓄積は様々な分野に及んだ。この時期を契機として高知支所の先輩方の研究を整理し、その結果を次世紀に伝え、蓄積された内容を次の時代に継承・活用することが大切なことと考えたからである。
 大学の研究機関が調査する前の高知では一般の建築家が忙しい仕事の合間をぬって様々な視点から自分の設計する建物の研究を進めていた。この50年間に行った様々な個人やグループが地域の建築の向上を目指して費やした調査研究は貴重な高知支所の遺産である。50年間に蓄積された資料群は過去の数世紀に及ぶ高知の歴史的技術や意匠の蓄積でもある。先輩方の残した多くの研究資料を無駄なく伝え、次世代の高知の資料集成として活用することが先輩方の努力に報いることにもなるはずである。
 特に住居に関しては歴史的時間の流れの中で人々の生活の場となる要因が関連しながら多く含まれている。過去から現在までの住居を見直すことで、これからの高知の住居を考える視点を持つことも50周年を区切りとしたこの時期に必要なことと考える。前半では「高知の建築文化」の中でも先史・古代・中世・近世・近代・現代の区分の中で小学校高学年から中学生にも読み物として理解され、高校生から大学生においては学校の副教材として使用できることを考慮した。特に住居に関しては中学校の家庭科の先生から高知の住居に関する教材の必要性がいわれており、長年の課題の一つでもあった。前半の住居の歴史を通じて見た高知の住居の流れは、そのような視点で見ていただけたらと考えている。
 高知の住居の特徴として先史の埋蔵文化に関する部分は近年ではずいぶん調査が進み、各地で様々な縄文・弥生時代の遺跡が発見され資料化されているが、古代(飛鳥・奈良・平安時代)の住居跡の発見が乏しいため具体的な遺跡の呈示となっていない面がある。中世では田村庄の環濠遺跡、安芸氏の土居廓中の土居構、夢想疎石開創の吸江庵などをあげている。
 近世からは現存する民家が出現する。民家緊急調査による「土佐の民家」から山中家住宅、関川家住宅、旧手嶋家住宅を平面図、外観図でまとめている。近代では高知の近代和風建築を中心に高知の風土に根ざした住居を県下各地から平面図と文章でまとめた。これらは土佐における近世の様々な技術の蓄積が明治期の近代に発芽したもので、高温多湿で台風の常襲地域である高知の長年の知恵が建物の各所に見られる。戦後から現代までの住居の流れは土佐の建築家の活動が地域の素材や技術の伝承を咀嚼して一気に複雑な現代建築の形を創造するところを示している。様々な住居の形態は、高知の住居が多面的に今後も発展する可能性を示している。
 後半の各部分での視点は様々な学問から見た高知の住宅への考察である。内容は大学生から専門家への幅を考えており、多面的な切り口からの考察となっている。住居学の視点、まちづくりの視点、民俗学の視点、建築学の視点とそれぞれの学問の蓄積を多面的な方向から高知の住居をとらえてみた。様々な学問の視点を交錯させることで建築に対する魅力が増し、建築という仕事に関わることで社会に参加する若い人達が現れることを期待したいからである。
 過去50年間の調査研究を蔵の隅に置き、無駄に捨て去るのではなく、より積極的に次代に活用できればと考えている。「高知の建築文化」が今までの蓄積を全て含包しているものにはなっていないが、教育分野から設計活動まで多くの創造的活動にこの資料が使われることを願うものである。(−50周年記念誌より抜粋−)
   

<事業報告>

建築文化週間 '99−50周年記念事業一環−
   シンポジウム「次世代に伝える高知の建築文化」

<主 催>   四国支部・高知支所
日   時 1999年6月26日(土)13:30〜16:30
会   場 高知工科大学講義棟
プログラム
第1部 基調講演
講 師 稲垣  栄三(東京大学名誉教授)
第2部 シンポジウム
パネラー 伊藤 憲介(日本建築学会四国支部副支部長)
三浦 要一(高知女子大学助教授)
溝渕 博彦(高知工業高校教諭)
山本 長水(山本長水建築設計事務所長)
コーディネーター 大谷 英人(高知工科大学教授)
参 加 者 140名