第24回 東北建築賞作品賞の決定
選考委員長 若井正一
1.応募作品数
・小規模建築物部門: 8点
・一般建築物部門 : 12点
合 計 : 20点
2.選考経過
(1) 事前打合せ(2003年9月12日、日本建築学会東北支部会議室)
今回応募された作品の数やその内訳を確認の上、作品発表会の運営方法や選考基準などについて事前審議を行った。
(2) 作品発表会、第1次審査(2003年10月4日、仙台市情報・産業プラザ6階セミナールーム、特別会議室)
第14回作品発表会は、午前10時より午後4時30分の間に応募された全20作品の発表が、審査員の司会で滞りなく終了した。
その後、発表された中から現地審査を行う作品を選定することを目的に、第1次審査に入った。まず、改めて選考基準などを確認した後に、各審査員が作品発表会の所感を自由に述べた。その後、現地審査の対象とする作品を絞り込む方法として、各審査員が2つの部門ごとに推薦したい作品を応募数の半数(小規模建築物部門4点、一般建築物部門6点)以内で無記名投票するものとした。その結果、5票以上を得票した12作品(小規模建築物部門5点、一般建築物部門7点)が、現地審査を行う対象作品として全会一致で承認された。なお、現地審査は、1作品について最低2名以上の審査員が実施することを確認して、対象となった12作品について各審査員の分担を決めた。
(3) 現地審査
今回対象となった12作品の現地審査は、各審査委員が訪問先と日程調整を行いながら10月上旬から第2次審査の直前の2004年1月上旬までの間に、鋭意実施された。
(4)
第2次審査(2004年1月10日、日本建築学会東北支部会議室)
本審査に先立って、各委員が現地審査を担当した作品について自由に所感を述べた。その後、各審査員は担当した作品について、記名でABC評価(注:Aは東北建築賞にに相応しい作品、Bはそれに準ずる作品、Cは賞に及ばない作品)を行った。その上で、各審査員は、東北建築賞として推薦する作品を小規模建築物部門から3点以内、一般建築物部門から5点以内で無記名投票を行った。その結果、満票の11票を獲得した「公立刈田綜合病院」など得票数が高かった作品の順に前述のABC評価の結果と照合して慎重に審議を行い、作品賞6点、作品奨励賞2点が審査員全員一致で選定された。なお、惜しくも最終段階で選外となった作品の中には、審査員の個別評価が高かった作品も少なくなかったことを付記する。
3.選考結果
作 品 賞 6点
竹工芸館
【所在地】宮城県玉造郡岩出山町字二ノ構115
【設計監理】建築:ヴァルトプラッツ+杉山丞+三浦俊徳
構造:NS設計/成田諭
設備:安井設計工房
ワークショップファシリテータ:米倉雅真
【施 主】岩出山町
【施 工】第1期:鹿股建設 第2期:遠藤店
照明器具製作:竹工芸館のみなさん
TOKINOIE(土岐邸)
【所在地】青森県弘前市桶屋町36
【設計監理】総合:(有)アトリエタアク一級建築士事務所
構造:小野構造設計事務所
電気:大瀬電気設備設計事務所
機械:尾崎設備設計事務所
【施 主】土岐 力
【施 工】福田興業株式会社、和電工業株式会社、興産設備工業株式会社
松下設備システム株式会社青森支店
新地町立駒ヶ嶺小学校
【所在地】福島県相馬郡新地町駒ヶ嶺字新町前地内
【設計監理】建築:青島裕之建築設計室
構造:後藤構造設計事務所
設備:システムプランニングコーポレーション
【施 主】福島県新地町
【施 工】東北建設(校舎本体と体育館の建築工事)
公立刈田綜合病院
【所在地】宮城県白石市福岡蔵本字下原沖36
【設計監理】芦原太郎建築事務所・北山恒+アーキテクチャーワークショップ
・堀池秀人アトリエ共同設計
【施 主】白石市外二町組合(白石市、蔵王町、七ヶ宿町)
【施 工】鹿島・安藤・奥田特定建設工事共同企業体
御所野縄文博物館
【所在地】岩手県二戸郡一戸町岩舘字御所野2
【設計監理】仙田満+滑ツ境デザイン研究所
基本設計:滑ツ境デザイン研究所
実施設計:滑ツ境デザイン研究所
【施 主】岩手県二戸郡一戸町
【施 工】鞄c中建設・活鼬ヒ建設特定共同企業体
北日本銀行大通支店
【所在地】岩手県盛岡市大通一丁目10-12
【設計監理】建築:若松六本木設計
構造:星野建築構造設計事務所
電気:箱崎建築設備設計事務所
機械:セイナン設計事務所
【施 主】北日本銀行
【施 工】鉄建建設・安藤建設・樋下建設・菅野工務店共同企業体
作品奨励賞 2点
宮城県秋保郵便局
【所在地】宮城県仙台市太白区秋保町長袋字門前29の2
【設計監理】カトフ・マリン(東北大学大学院工学研究科)
伊藤邦明(東北大学大学院工学研究科)
【施 主】伊藤 健
【施 工】阿部建設株式会社
秋田県ゆとり生活創造センター遊学舎
【所在地】 秋田県秋田市上北手荒巻字堺切24-2
【設 計】 基本設計:安藤邦廣+叶ン計工房禺
実施設計:鰹ャ畑設計事務所
【監 理】 秋田県建設交通部営繕課(委託 鰹ャ畑勇設計事務所)
【施 主】 秋田県
【施 工】 伊藤工業・長谷部建設特定建設工事共同企業体 他
4.講 評
今回応募された20作品は、いずれも力作揃いで、第1次選考(書類選考)の段階から審査の難航が予想された。また、作品発表会は、いずれも素晴らしい写真や動画などを使った巧みなプレゼンテーションで、できることならば、全ての作品について現地を訪ねてみたい思う魅力的な応募作品ばかりであった。そのためか、現地審査は、1作品について最低2名以上の審査員が訪問することになっているのだが、いくつかの作品については数名の審査員が現地審査を行った。今回応募された作品には、改修や移築によるリニューアル作品、独創的な狭小住宅、先駆的でデザイン性の高い病院、学校、博物館など、特筆すべき作品が少なくなかった。応募者の創作意欲に、改めて敬意を表したい。なお、次に記述した入選作品の個別評は、現地審査を担当した審査員が分担執筆したものを審査委員長が取り纏めたものである。
作品賞
竹工芸館
岩出山町のまちなかに建つ竹工芸の制作・展示・販売を行う施設である。小規模ではあるが、中心商店街の活性化、生活文化としての伝統工芸の復活と後継者育成、観光拠点の形成など多様な役割を与えられている。また建築的には、施主である町から廃業したパチンコ店の改装を設計条件として提示されたという特異な背景を持つ。これらの困難な条件を大きな破綻なくまとめ上げ、鉄骨構造の開放性を活かして観光客等と竹工房の工人たちとの対話を誘うヴィヴィッドな内部空間を生み出している。竹を多用した外観と通りから人を導くギャラリーのデザインにも工夫があり、街並みと巧みに調和している。改装ということから創造性の評価にやや疑問も呈されたが、今後のまちづくりの上でひとつのモデルとなりうる点は高く評価された。
TOKINOIE(土岐邸)
弘前市の繁華街に位置する二世帯住宅である。極端に細長い町屋割の敷地に、敢えて対角線方向の軸を導入して、中庭を切り取っている。隣地に高い建物が建った時には貴重な光庭となるこの中庭が、平面の中心でもあり、住宅を明るく開放的に性格付けている。道路側は、2、3階の最外壁に穴あきブロックを積んでファサードとし、繁華街の喧噪をソフトに遮断している。しかし、1階は交流のための部屋と開口部を設け、積極的に関わりを暗示するなど、多面的である。内装は塗装が最小限で、材料本来の色調、テクスチャが生きて、質実な強い意志が感じられる。構造は型枠ブロックによる壁式RC造であるが、平面計画とも整合しており、無駄がなく、作品賞に値する住宅である。
新地町立駒ヶ嶺小学校
本校舎の配置は、更地の校地に諸施設が適切な位置取りで配置され余すところがない。これは現代日本版小学校の伽藍配置規範のようである。校地内の諸施設は、校門から昇降口に至る前庭アプローチを挟んで、その南側にプール・校務センター、北側に体育館・野外劇場・特別教室があり、正面奥の教室棟に吸い込まれるように連なっている。さらに、校地の北側の駐車場、南側グランドが、いずれもこの前庭アプローチに接続されて動線が完結されている。教室棟の内部は、多目的ホールを中心にワークスペースから教室へ、あるいは各施設へと分れて行く。そして随所にあるテラスは、内外空間への動きを示唆しており、外部は散策路を介して緑で埋め尽くされている。見事な配置計画である。建物は、RCと木造集成材の混構造だが、構造用集成材の補助材・補強材の鉄骨・鉄筋の存在が、素通しの躯体にノスタルジックな新鮮さを感じさせている。
公立刈田綜合病院
病院建築の世界に少なからぬ衝撃を与えた作品である。これまでの固定化された病院の型、病院建築のあり方に一石を投じたもので、日本の病院建築史に新たな1ページを加えた。しかもそれは、これまでの建築計画学による蓄を否定するものではなく、むしろその土台の上に建築デザインという要素をいかに融合させるかという果敢な試みであると捉えたい。ただし、病棟部のスケール感の良さ、患者への温かな配慮に比べると、1階の外来・診療部等には消化不良の感が残る。「低層病院」や「分かり易い平面構成」など、この病院のデザインの根幹となるコンセプトによるしわ寄せが、結果として当該部門に表れてしまった感は拭えない。しかし、病院建築としての総合的な評価を揺るがすものではなく、本作品は東北建築賞の作品賞として十分に値する建築作品である。
御所野縄文博物館
工業団地造成によって縄文集落が発見されたことで遺跡公園の計画が始まり、公園内に土屋根の竪穴式住居による集落の復元が行われ、展示施設として縄文博物館などの施設が建設された。応募内容は、公園の基本計画、縄文博物館と公園のアプローチとなる木橋の設計に関するものである。公園の入り口及び駐車場からは、谷をまたぐ曲線の木橋がかけられており、視界の展開による縄文への意識導入を試みている。この橋は、公園内に現代文明(車)を近づけない関所にもなっている。木橋を過ぎると博物館のエントランス前に出ると共に、木々に囲まれた小道が復元集落へと繋がっている。博物館はRC造であるが、被土屋根となっており外壁に木を用いるなど、周囲の林や山の緑に見え隠れする外観となっている。また、内部は動線、展示室規模、照明など、展示物への意識集中を促す環境が整っている。また、内部から集落が一望できる開口部を設けて、臨地としての実感を促す配慮が見られる。博物館については、被土の採用など周囲の視覚的環境への配慮が良く行われているが、復元された縄文住居にみられるような、温熱や省エネルギーなどに関する寒冷地としての地域性配慮が望まれた。しかしながら、本作品は、総じて、過度な主張を抑え、博物館としての品位を保持していることなどから東北建築賞・作品賞に値する提案となっている。
北日本銀行大通支店
本建物は、盛岡市の繁華街である大通りと映画館通りの交差点に位置した銀行である。外壁全面にガラスブロックを用いて、銀行の企業としての透明性、繁華街の活性化への貢献を表現しようとした設計者の意図は十分反映されている。特に夜の光による効果は、より一層それを引き立たせている。光の効果に色々なバリエーションを付けながら工夫変化していくだろうと考えるだけで、将来の楽しさが湧き出てくる気がする。しかし、雪国の寒さに対する外壁仕上材の選択と使用方法には課題を残しているように思えるが、本建物が地域の活性化という意味で人々に与えた恵みの方が大きいと思われるので作品賞に値すると判断した。
作品奨励賞
宮城県秋保郵便局
建物は、山形への街道筋に立地し、文字どおり農村の原風景に溶け込んでいる。外観は、決して声高に何かを主張しているわけではなく、それでいてむかしの農家の茅葺き屋根のイメージであることが読み取れる。ある種の懐かしさと素朴さは、長く張り出した庇、方形のプラン、土壁の色と質感、外部に見せた木材軸組みによるものでもある。一方、内部は、執務スペース、客だまり、バックヤードは可動家具による間仕切り、天井は木造小屋組・フライングウォールをそのまま見せることにより、面積的にけして 広くないにもかかわらず、トップライトからの自然光も相まって、木材の色調・木目を強調して、非常に広く豊かな空間を感じさせる。 従業員と利用客の応対、展示物、これらを見ていると「地域住民のための施設にしたい・・・」という郵便局長、そして設計者の意図は、十分に達せられているように見受けられた。
秋田県ゆとり生活創造センター・遊学舎
遊学舎は、余暇・文化活動、ボランティア・NPO活動などのために利活用できる施設である。生涯学習に向けて多くの教室、講座が用意されており、それが様々に工夫されて機能している。地域に結びつき、地域の要求を満たすべく力を注いでいる。かなり高密、多種な講座スケジュールで運営されている。敷地は秋田市の人口密集地から少し離れているが、内容を様々に工夫し成立させている。特産である秋田杉を使用し地産地消を試みている。木造による大空間が様々に用意されており、歩きながら見て行くシークエンスが楽しめる。ただし、大型の木造建築物に自然素材である木を多用することはよいとして、それがデザイン的にうるさくならないような配慮が欲しかった。また、大空間の中で照明器具が梁の高さに並んで下方を照らすためにまぶしく、そこから上にあるせっかくの木造小屋組が残念ながら見えにくい。
「2003年第24回東北建築賞作品賞選考委員会」
委員長 若井 正一 建築計画部会(日本大学)
委 員 田中 礼治 構造部会(東北工業大学)
会沢 浩平 施工部会(東北文化学園大学)
山田 寛次 材料部会(秋田県立大学)
沼野 夏生 地方計画部会(東北工業大学)
安原 盛彦 歴史意匠部会(秋田県立大学)
林 基哉 環境工学部会(宮城学院女子大学)
石井 敏 建築デザイン教育部会(東北工業大学)
二宮 正一 日本建築家協会東北支部(二宮設計事務所)
中澤 雅宏 青森県建築士事務所協会(八洲建築設計事務所)
井上 高秋 常議員(国土交通大臣官房官庁営繕部)