第25回 東北建築賞(作品賞)選考報告
選考委員長 沼野夏生
2004年度(第25回)東北建築賞の受賞作品が決定した。表彰式は6月11日のみちのくの風2005山形で
多数の参加者のもとに開催され、受賞者には賞状および賞杯(作品賞のみ)が授与される。
また、例年どおり各受賞作品は東北建築作品展として東北6県の支所などでパネルによる巡回展示が
行われる予定である。
1.応募作品数
・小規模建築物部門: 12点
・一般建築物部門 : 25点
合 計 : 37点
2.選考経過
(1) 事前打合せ(2004年9月10日 日本建築学会東北支部会議室)
応募された作品の数とその内訳を確認した上、作品発表会の運営方法や選考基準などについて
事前審議を行った。
(2) 東北建築作品発表会 第1次審査(2004年10月2日 仙台メディアテーク7階スタジオシアター
会議室b)
第15回東北建築作品発表会は、午前9時50分から午後6時20分までの間に全37作品の発表
が審査員の司会により滞りなく終了した。作品数が多いため長時間にわたるゆとりのない
日程にならざるを得なかったが、時間厳守で効果的なプレゼンテーションをしていただいた
発表者に敬意を表したい。その後、発表作品の中から現地審査を行うものを選定することを目的
として、第1次審査に入った。まず、あらためて選考基準などを確認した後、推薦数の上限を
定めて第1回目の投票を行った。その結果、小規模建築物部門では得票順に上位を占めた2作品
に加えて、同点の5作品から第2次投票で選ばれた3作品、計5点を選定した。一般建築物部門では
8票以上を獲得した5作品に加え、議論の上5票以上獲得した4作品を追加し、計9点を選定した。
こうして14作品(小規模建築物部門5点、一般建築物部門9点)が、全会一致で承認され、現地審査
へ進むこととなった。なお、現地審査は1作品につき2名以上の審査員が実施することを確認し、
選定された14作品について各審査員の分担を決めた。
(3) 現地審査
審査対象となった14作品の現地審査は、各審査委員が訪問先と日程調整を行いながら、10月から
12月にかけて鋭意実施された。
(4) 第2次審査(2005年1月22日 日本建築学会東北支部会議室)
本審査に先立って、各委員が現地審査報告として担当作品について自由に所感を述べ、それについて
質疑応答を行った。その後、現地審査担当者によるABCの3段階での評価(記名、Aは東北建築賞に
相応しい作品、Bは審議により入選の可能性を持つ作品、Cは賞に及ばない作品)を行い、その上で各
審査員による無記名投票とを行うこととした。投票は1人あたり小規模建築物部門を3点以内、一般建築物
部門を5点以内推薦することにした。満票を得た3作品をはじめ、得票が多かった順にABC評価の結果と
も照合しつつ慎重に審議した結果、作品賞6点、作品奨励賞2点を審査員全員一致で選定した。
3.選考結果
作品賞 家業
【所 在 地】福島県南会津郡田島町
【設計監理】はりゅうウッドスタジオ
【施 主】柏倉一博
【施 工】竃F賀沼制作
作品賞 都市計画の家U
【所 在 地】宮城県仙台市青葉区鷺ヶ森
【設計監理】近江 隆(東北大学都市分析学研究室)+芳賀沼整(はりゅうウッドスタジオ)
【施 主】芳賀沼整
【施 工】セルフビルド+設備(部分発注)
作品賞 杜の修道院
【所 在 地】宮城県仙台市
【設計監理】建築:針生承一建築研究所
構造:松本構造設計室
設備:椛麹設備計画東北事務所
【施 主】宗教法人オタワ愛徳修道女会
【施 工】願A高組東北支店
作品賞 三春交流館まほら
【所 在 地】福島県三春町
【設計監理】大高建築設計事務所(建築)青木繁研究室(構造)大瀧設備事務所(電気)
井上宇市研究所(設備)石井聖光(音響設計)本杉省三(ホール舞台計画)
奥畑康夫(ホール照明計画)
【施 主】三春町
【施 工】大林組
作品賞 町立大畑中央保育所
【所 在 地】青森県下北郡大畑町
【設計監理】潟tォレストシップ一級建築士事務所
【施 主】大畑町
【施 工】建築・環境:褐F谷建設工業 電気:ハマダ電気 設備:菊池住設
作品賞 宮城県立がんセンター緩和ケア病棟
【所 在 地】宮城県名取市愛島塩手野田山47-1
【設計監理】藤木隆男建築研究所
【施 主】宮城県
【施 工】佐藤・相澤特定建設共同企業体
作品奨励賞 静戸の家
【所 在 地】福島県伊達郡梁川町桜町114番地
【設計監理】田中直樹設計室
【施 主】田中薫、田中直樹
【施 工】菅野建設株式会社
作品奨励賞 比内町立扇田小学校
【所 在 地】秋田県北秋田郡比内町扇田字白砂131
【設計監理】建築:深瀬啓智+椛王建築設計事務所
構造:S・D・G
機械:叶蜻苟麹設備計画
【施 主】比内町
【施 工】校舎:イトウ・平和建設工事共同企業体(建築工事)
奥羽・米代建設工事共同企業体(電気設備)
大舘桂・明祝建設工事共同企業体(機械設備)
屋外運動場:潟Cトウ
プール:平和建設
グランド:兜嵩c組
4.講評
今回は37作品の応募があり、前年のほぼ2倍となった。決して順風とはいえない環境にある東北
の建築界であるだけに、時代性を備えた意欲的な作品を積極的に世に問うた応募者各位に、あらた
めて敬意を表したい。当然ながら審査は難航したが、審査員にとってはうれしい悲鳴とも言うべき
ものであった。内容もますます多様化し、いわば定番ともいえる小規模部門の住宅、一般部門の公
共建築はもとより、さまざまな用途、規模の作品が競い合った。時代を反映して、建築のリノベーシ
ョンの試み、都市環境や街並みに対する独自の提案なども目にとまった。現地審査をはさんだ2回の
審査により賞の帰趨は決定したが、惜しくも受賞に至らなかった作品にも、特筆すべき内容を備えた
ものが少なくなく、審査員の一部から高い評価を得たものもあった。次年度以降も、多くの方々から
さらに広範な作品が応募されることを期待したい。なお、以下に述べられる入選作品の個別講評は、
現地審査を担当した審査員が分担執筆したものを審査委員長が取りまとめたものである。
【作品賞】
家業
山間の町の駅前に建つ住居併用の蕎麦屋である。何といってもその特徴は外装にある。在来工法に
よる木造であるが、ビニルシートをコーティングした和紙を軸組みの外側および内側に貼っている。
これが外壁を構成し、まさに木と紙の建築となっている。この紙の壁は光を透過して内部に導き、
やわらかく穏やかな空間を生んでいる。またこの壁は中空層をもつことにより断熱性を確保している。
防犯性能が気になるところであるが縦格子等で対応しており、この点もぬかりない。まさに“コロン
ブスの卵”ともいうべき手法が駆使され、伝統木造建築に新機軸を拓いたといえよう。換気ダクトの
収まり等、気になる箇所がないではないが、そうした点を補って余りある可能性をもつものとして高く
評価される。
都市計画の家U
都市における住み方は様々にある。このクライアントは三つの都市を巡りながら三ケ所で生活(家庭、
仕事、研究)をしている。ひとつの住まいで生活の全てを満たす必要がない。一カ所に定住するのでなく
移り住んでゆくことによって一つひとつの住まいの形態が変わる。この家では樹脂コーティングした和紙
一枚が内部と外部を区画する。一年半を経て建物に古びた様子はない。近代建築は機能性、利便性を徹底
して追及してきた。その機能性や利便性の一部をはずしてしまうと住まいの形態は全くといってよいほど
変わってしまう。それで充分住んでゆくことができる。この家は新しい住まい方を提起し、都市との関わり
方の新しい形を生み出している。
杜の修道院
「杜の修道院」は市街地から離れた閑静な場所に位置し、周囲を樹木に囲まれたやや小高い丘の上に建って
いる。修道女らの共同生活と修行の場としての特殊性を、設計者は中庭を囲んだ回廊型の構成にまとめ上げ
ている。共有すべき領域とプライベートな領域を垂直方向に分けたゾーニングは明快であり、木やガラスを
多用した外観は、周囲の樹木群との巧みなマッチングとも相まって、とかく暗くて閉鎖的な印象にとらわれ
がちな修道院を、控えめながらも明るく開放的なものに変えている。惜しむらくは当初の計画にあったとい
う池が、芝の中庭に変じてしまったことであろうか。しかし、現出した杜の中の建物は、修道院の一つの新
しい姿としてのありようを見事に表現している。
三春交流会館まほら
三春町の街作りに対し15年以上の歳月に渡り熱心に取組続けた設計者が、その経験を十分に発揮し町の
方々と施設のプログラムまでも話し合い、この町の身の丈にあった施設を実現している。景観形成において
も極めて周辺との一体感が強く、長い歳月をかけ十分にこの街の景観について熟考された上でまとめ上げら
れた事が感じられた。フライなどのこの街のスケール感と調和しがたい機能も、街の地形を十分検討に入れ
配置・形状を塾考した事でどの方向から見ても違和感のないデザインにまとめ上げられている。機能的な面
に関しても、独自の可変残響調整装置を考案しデザインとの整合性を高め、維持管理の負担を削減するなど
完成度の高い作品であった。
町立大畑中央保育所
大畑町立中央保育所は、人口減少や中心市街地の空洞化などの地方都市の抱える諸問題に対して、住民と
の対話を尊重しながら設計・計画された「地域の核としての保育所」である。保育所は乳児・幼児が主役で
あり、子供の目線に立った設計が必要なのはいうまでもないが、本作品のようにそれを着実に実施できてい
る事例はそう多くない。地域資源循環としての地場産材の活用、快適な温熱環境の確保、太陽光・太陽熱の
利用や省エネルギー性など、眼に見えにくい機能性にも十分に配慮した保育空間は、子供の人間形成のみな
らず環境意識を涵養するのにも十分役立つだろう。連続した勾配屋根の切り取るスカイラインは周囲環境と
ほどよく融合しており、総合的にみて東北建築賞作品賞にふさわしいと判断した。
宮城県立がんセンター緩和ケア病棟
「平屋・片廊下・中庭型」は病院計画としてはチャレンジだ。しかし,緩和ケア病棟をより住宅的な空間と
して作ろうという意志が,正しく成果をあげている作品である。高台の地勢や大きな桜などの既存の木々を
生かして構成された中庭は,適切なスケール感と,デッキやパーゴラなど行き届いたディテールによって支
えられ,眺めるだけの庭ではなく,患者が身を置いて時を過ごす空間として,強い説得力を持っている。
大谷石や珪藻土など質感の高い材料で仕上げられた個室は,畳ユニットなど充実したしつらえである。また,
よい椅子がおかれた廊下の談話コーナー,バスやタクシーが行き交う本館前庭を眺める連絡ブリッジ,そして
「お見送り」のための車寄せなど,緩和ケア病棟なればこその社会とのつながりかたが追求されている。
【作品奨励賞】
静戸の家
南東北の太平洋に近い小都市近郊に、建築家の自邸兼アトリエとして計画されている。作者はまず生まれ
育った地域の建築の伝統をサーベイした後、パッシブソーラーをコンセプトに据え平、断面計画を行った。
寒暖に左右されないRCの箱を中央に配し、その緩衝領域として縁側、廊下、小屋裏といわば平、断面とも
のダブルスキンでの対応を試みている。またポリカの断熱戸や住宅用サッシでのシャープな納まり、溝型鋼
の雨樋、残土利用の築山など随所に作者の創意工夫が見られる真摯な作品である。しかしながら肝心の、南
全面開口部の日射や熱量の出入りについて、もうひと押しの探求が欲しかった。自邸でもあり住んでいくな
かでの試行錯誤に期待したい。
比内町立扇田小学校
比内町の中心部に立地し、町のコミュニティ機能を併せ持った小学校である。着色された木材と同系色の
タイル張りに、それらと対照的な打ち放しコンクリートが気品のある美しさを醸している。同一敷地に建替
えられ、敷地内の巨木を残すという制約があったため、配置計画は困難であったと考えられるが、音楽堂、
多目的ホール、図書室、コンピュータ室が巨木と玄関部分の曲面を生かして配置され、魅力ある建築となった。
また階段部分を遊び場にするなど、新しい提案もある。木材を多用する意図があり、音楽堂のドーム小屋組で
は成功しているが、アリーナの大断面集成材は視覚的工夫が欲しかった。また、教室への日射を遮る手段が
十分でなく、運動場と密接すぎるのも気になった。
2004年(第25回)東北建築賞作品賞選考委員会
委員長 沼野 夏生 地方計画部会(東北工業大学)
委 員
田中 礼治 構造部会(東北工業大学)
最知 正芳 施工部会(東北工業大学)
山田 寛次 材料部会(秋田県立大学)
本江 正茂 建築計画部会(宮城大学)
安原 盛彦 歴史意匠部会(秋田県立大学)
本間 義規 環境工学部会(岩手県立大学)
武沢 秀一 建築デザイン教育部会(東北文化学園大学)
二宮 正一 (社)日本建築家協会東北支部(二宮設計事務所)
中澤 雅宏 (社)青森県建築士事務所協会(八州建築設計事務所)
原田 和幸 常議員(国土交通省東北地方整備局営繕部建築課)