第29回東北建築賞 作品賞 受賞作品

                ※ 東北建築作品集vol.20の巻頭ページに下記の受賞作品がカラーで掲載されております。
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 小規模多機能ホーム「わが家」

本作品は、2006年の介護保険法改正により制度化された小規模多機能型居宅介護施設で、認知症高齢者の在宅生活を支えるサービスを提供している。発注者である医療法人が、同敷地に老人保健施設や認知症高齢者グループホームを運営しているため、施設の役割分担に配慮されており、「わが家」の方向性が明確になっている。地域社会に極力近づこうとする姿勢が配置計画や平面計画に現れており、現地の気候に配慮した点など地域性を高く意識している。このような新しい制度の施設に、風土を熟知した建築家が積極的に地域性を意識した提案を行った姿勢が評価された。コンパクトで回遊性を確保した平面計画、明快な断面・構造計画、住宅スケールの空間のなかに織り込まれた様々な居場所、ランドマークとなる切妻屋根の外観、雪や風・日照に対応した屋根形状や軒・雪囲い壁など、よくデザインされている。高齢化が進む地域において老人保健施設が集約し多様なサービスを提供する効果が感じ取れ、発注者や地域の利用者が、これらの施設に期待を寄せ、大切に使いこなしていこうという姿勢が感じられた。



 玄関のない家 -歳時記-

リノベーションとして、設計に一定の制限がある中で、設計者は建築主に対し、思い切った提案をした。玄関を廃し、代わりに集落の通りに大きく開いた土間を設け、家の内部には、角度を変えた正方形の小部屋を配した。かなり大胆な切り口である。しかし、清冽な流れの小堀に面した土間は、小さなコミュニケーションを創出することが充分に期待できる。老齢のオーナー夫婦にとっては、家の中から通りを往来する人々の姿が見え、小堀で洗った野菜の前で会話が生まれるその空間は、閉鎖的で重々しい玄関よりも有為なものであろう。また、室内壁にできた鋭角部は、収納やニッチとして巧みに活かされ、内部空間の構成に多様な変化をもたらしている。広いリビング・ダイニングと相まって、土間から招き入れた近所の人達との茶飲み話が弾みそうな室内空間である。また、黒を基調とした外壁や、南東に設けられた広いウッドデッキ、庭の柿木との取り合いなど、外部にも随所に設計者の思いが感じられる。それらは、土間からの踏み込みの狭さや未整備の外構など、若干の指摘点を充分に補って余りある。一つのリノベーションのあり方として、その斬新さと緻密さは、充分に受賞に値するものであろう。



 東北大学工学部『こもれびカフェ』

本作品は昭和40年代に計画されたロードサイド型キャンパスから歩行者中心のものへと転換する計画の一環として建てられたものである。食堂棟、コンビニエンスストア棟、展示棟からなり、それらは鉄骨スラブ構造により梁を省略した薄い屋根とサッシの方立てを兼ねた壁体によって構成されており、天井及び床に木材を使用することによって暖かみのあるスッキリとした無柱の空間を創り出している。各建物は建設前から存在していた樹齢50年以上になる7本の欅並木に包み込まれるように建てられており、欅の間を縫うような建物の曲面は周囲の自然環境(建物の背後には天然記念物の植物園が広がる)に溶け込んでいる。同時に、従来ともすれば閉鎖的になりがちなキャンパスを学外者・地域に開放することも意図しており、バス停から植物園へと誘うような建物配置となっている。「こもれび」を冠することからも、この計画における重要な主体の一つは欅であると理解されるので、枝葉や根の成長に合わせた整備など、今後とも十分な配慮を期待したい。



 能代市立浅内小学校             

なだらかな丘を上ると切り妻屋根のシンプルな形態が見える。秋田杉厚板に天然塗料の外観は、旧校舎を知る人には懐かしく、太陽光線の具合で銀色に光ると宇宙船や方舟も連想させる。その造形と色彩は、校庭の草花や周囲の景観をじゃませず、既にとけ込んでいる。平面計画は、防犯に配慮した職員室の配置や地域連携施設など、基本的な要求に応え機能している。経年による陳腐化や機能不全を起こさず、長く確実に使われると推察できる。「地産地消の地場産材と木工技術の活用」というコンセプトは目新しくないが、コンセプト実現の徹底ぶり、総合的な達成度が高い。敷地高低差を活かし分棟した配置計画でRC部分のない純木造校舎を実現し、体育館屋根の木造架構や杉樹皮断熱材による高断熱化と木材多用による省CO2等の環境配慮の水準も高い。そして、地場材の安定供給を可能とする秋田杉供給ネットワーク構築と一般的な在来工法の採用で、RC造より低コストを達成した。これら成果は、今後の地域の木造建築推進や地場産業にも資すると期待でき、作品賞に値する。



 仙台市天文台
なだらかな山並みを基調とする周囲の美観と馴染もうとしたシンプルなボリュームの連続感は、低層でありながらも新しく生まれ変わった市民天文台にふさわしい存在感を十分に感じさせる建築です。また、開放感のあるトランジットホールを中心としたプラネタリウム、観測ゾーン、展示ゾーンの配置によって空間群を緩やかに融合化し、学者が求める特殊かつ高性能の機能を満たしつつも、一般利用者には使い勝手の良さや親しみ易さを抱かせています。こうした市民に使われる施設を徹底的に目指そうとする設計意図は、運営スタイルとも呼応しており、郊外という立地条件に反して予想をはるかに上回る利用実績をあげていることからも読み取れます。本作品にはPFIが導入され30年という長期にわたって変化することを織り込んだ効率的な施設運営が求められています。これからも子供から大人を問わず幅広い市民にたいしてロマンや好奇心を掻き立たせる施設としてあり続けてほしいと期待します

                                       ※ヴィア定禅寺は作成中です




        第29回東北建築賞 特別賞 受賞作品

 O博士の家

黒と白に塗り分けられたボリュームを持つ平屋の住宅であるO博士の家は、特異でもなく、かといって周辺環境に馴染みすぎているでもなく、ありきたりな住宅街の風景の中に建てられている、というよりはむしろ添えられているという印象を与える建築である。シンプルな構成原理を用いローコストを追究するという意味でも、建築の仕方に従来の住宅スタイルを採用することはなるべく避けながら、新しいモデルとしての空間論とコンポジションが積極的に検討されている。建築材料の扱い方には特別な思いがあるようであったが、住み手の立場でみるともう少し、住宅として親切な材料の使い方があっても良かったのではないかと思う反面、住み手がこの住宅に魅了され、楽しく快適に住もうとしている気持ちが強く感じられるところが、今回の特別賞に選考された一つの重要な理由であることも特筆すべき点であろう